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閑話① 深夜テンションに於ける致命的事故

誤字報告して下さる方々、感謝申し上げます。

できるだけ誤字脱字には気を付けているのですが…………

重ね重ね深謝申し上げます。これからも拙作をよろしくお願いいたします。



追記:1日40Pt稼ぐと日刊ランキングの端っこにひっかかるってあたし聞いたの

|ω・`)ちら



「…………会長、いかがなさいましたか?そして、この、宝飾品は一体?こ、これなんて国宝クラスに劣りませんよ!?」


 帝国でも歴史の長く最も大規模な奴隷商館であるウィルエント商会に突発的な台風が直撃直後、ウィルエント商会は未だにその混乱から抜け出すことができず奴隷商館自体がどことなく騒がしかった。

 なにより、常に静寂を好みこの様な状況では必ず動くはずの会長が動かない。取引相手との交渉が終わりそれと入れ違いに秘書が談話室に入ると、いつも余裕に満ち溢れているはずの会長が憔悴しきった様子で項垂れて座っており、その目の前には一目でその価値を強引に認めさせてくるような宝飾品の数々。


 一体誰が会長をここまで追い詰めたのか、先ほどのまだ年若い男が?いやそんな馬鹿な。秘書は先ほどの男の正体がわからずにいると、その答えは会長から与えられた。



「なあ、第三皇子とはどのような人物か言ってみてくれないか?」


「あの、うつけ皇子の事ですか?詳しくは知りませんがかなり評判は悪いお方ですよね?おおやけには病で公務を行えないことになっていますが、実際はただのわがままであり公務をこなす能もないとかそんな話まで聞きますが」


 人の口に戸は立てらぬ、とは言うが、ローラン派閥の者が少し噂を流すだけでもデブーダの悪評はかなり帝国の広域に広まっている。ローランが積極的に公務をこなし民のためにも自ら行動する様も相まって、デブーダは余計に「血筋だけの皇子」という印象が一般市民の間では根強かった。


「だったら…………だったら、あれは一体誰なんだ?」


「どういうことでしょうか?まさか…………」


 目の前に積まれた”国”宝級の宝飾品(寄越した本人は自覚無し)、守秘義務があるために会長も明言はしないがそれはもう答えを言っているのと等しい。

 話の流れからその人物の正体は秘書もすぐに察することはできたが、その噂を知っているだけにその事実は些か信じがたい物だった。


「息子よ、しかと心せよ。これより帝国は必ず鳴動する。誰にも知られることなく牙を研ぎ続けていた“覇の器”が目覚めたのだろう」


 秘書、もとい会長の息子は、父である会長の言葉に大きく動揺する。会長は仕事人間ではあるが囲っている者は多く認知していない者もふくめると子供の数は相当なものになる。秘書である息子は認知された側のほうだが、その息子にも会長は父親の顔を見せることは皆無だった。秘書として認められるほどにその才を発揮してからは秘書も父親の立ち振る舞いの理由を察することができたし受け入れることができていた。

 それだけに、その会長がわざわざ自分を“息子”と呼んだことは驚愕すべきことであり、それだけ会長の味わっている動揺は大きいことに他ならなかった。


「今まで一度も味わったことのない感覚だった。まるで一挙手一投足の全てを観察されているようだった。自分が上位者であることを隠そうともせず、しかし下品な権威の使い方をせず、濃厚なまでの“覇”を()の御方は纏っていらっしゃった…………」


 会長は《星流慧眼》という極めて強力な固有スキルを所持していた。それを知っているのはほんのごく僅か。今いる秘書を含め自分が才覚を認めているたったの3人だけ。《星流慧眼》の能力は大きく分けて二つ。

 一つは“人の価値”を見抜くこと。文字に書き起こされるようにはっきりとわかるわけではないが、その人物のポテンシャルや性格などが会長にはザックリとわかる。この能力は奴隷商売に於いて遺憾なく発揮され、彼は先代から引き継いだウィルエント商会を二倍の規模にまで成長させた。また、彼は遠目からだが第二皇子であるローランを見たことがあった。


 貴族とも繋がりがあるため会長はかなり耳敏だ。故に皇太子の容体が優れないこと、皇帝が第二皇子を次の皇太子に任命するために既に動き出しているかもしれない、ということまで知っていた。

 彼のスキルで“見る”限り、なるほど、第二皇子は評判通りの才覚の持ち主のようであった。“奴隷商”としては苦々しく思うが、ペンドラゴン帝国の一国民としては有能な次期皇帝を歓迎すべきなのだろう。そう会長は考えていたし、規模の縮小もやむを得まいと覚悟していた。


 だが、先ほど彼の前に現れた男はそのレベルではなかった。まるで大山の如き“覇”を我が物顔で纏い、会長の目がつぶれるのではないかと錯覚するまでに恐ろしさを覚えるまでの今までに見たことがないほどに未知にして無比なる輝きを秘めていた。まるで「未来を知っているかのような」自信に満ち溢れた物言い、話し方、交渉に慣れ切った上位者としての態度。その内面を覗こうとすればするほど自らを覗き込まれ、惹き込まれかねない強烈な存在感。


 類は友を呼ぶ、の最も適した例だが、このような商館を利用する貴族は大体同じ人種であり色々辿ってみるとデブーダの腰ぎんちゃくだったりするケースが多い。人を人と思わない傍若無人ではた迷惑な輩。デブーダの派閥に自ら付くような貴族共はみんな仲良く性根が腐っているのだ。

 そんな彼らでも第三皇子の癇癪持ちの傍若無人ぶりは恐ろしいらしく、たまにポロっと会長に愚痴っていた。なので会長は一般市民とは比較にならないほど”本当の第三皇子”を知っていた。

 

 だというのに、いざ現れたその男を前にすると会長は冷や汗が止まらない。これだけの“覇”を纏っているのにも関わらず、今までその周囲の目を欺いていてきたその男。なにより無造作に置かれた宝飾品の小山が、与えられた強力な魔道具が、彼の能力を何よりも保証していた。

 これだけの物は一朝一夕で用意できるものではないのは当然ながら、虎の子レベルの古代級魔道具の授与までしてのける。一体何時から伏して全ての目を欺き力を蓄え続けていたのか、会長には想像もつかない。


 なにより、理想論じみて確実性がないのにも関わらず、“必要悪”という彼が齎した新たな概念は会長の心を強く掴んだ。そんな彼の語る未来にどうしても魅せられてしまう。この男なら、本当にやってのけかねないと思わせられてしまいそうになる。知れば知るほど会長は彼が恐ろしく思え、その冷や汗はとどまるところを知らない。


 血筋だけの無能?とんでもない。


 あれはもっと恐ろしい“何か”だ。


 彼はその恵まれたスキルによりそれを確信できてしまう。だが他の者は会長ほどそれを実感できない。それが会長にとっては何とももどかしく悍ましい。密かに跡取りと目しているこの秘書に、自分の感覚が遍く伝わらないことが煩わしい。


 人を人と思ってない部分は見受けられたが、それは自己顕示欲が暴走し自分の世界しか見えていない愚か者だからではなく、冷徹に理論的な世界で物を観測しているが故。それは彼の“人的資源”という会長にとって耳慣れない言葉からも察することはできた。


 大げさに穿った見方をすれば、今まで彼の癇癪のせいで消えた貴族などはそれだけ目に余る部分があったということであり、現在彼の周りにいる者は性根は腐っているが実力はある者ばかり。まるで意図して剪定でも行ったかのようだ。

 それは単純に、“デブーダ”の癇癪に巻き込まれないようにただひたすらに尽力した結果、その癇癪から逃れられるだけの実力を最低限持った者しか生き残れなかっただけなのだが、今の会長には全てが全て策謀に見えてしまう。


 さらに言えば、彼が選んだ6人は会長があの場に用意した商品の中でも極めて上物ばかり。特に彼を試す意味合いで紛れ込ませたダヴィンティアに最も彼が興味を示したのが決定的だった。会長はダヴィンティアを購入する際に“画家”としてではなく“学者”の一面を持っていることをしっかり把握していた。

 事実、ダヴィンティアを罠に嵌めここに売り払いに来たのはダヴィンティアの”画家”としての同門ではなく“学者”の同門なのだから。



 帝国一の奴隷商であり極めて有能な会長も錬金術については全くの門外漢。だが売りにきた輩がその才を大層恐れていたのだけはしっかりと伝わった。実際にどこに出しても修理はできないと断られた自分の所有する魔道具の修理を試しにやらせてみたら、ダヴィンティアは顔色一つ変えることなく簡単にやってのけた。十分質も量も確かな手駒を持つ会長をして、しばらく買い手がつかなければ自分の元で飼いならしてもいいと思っていたぐらいだ。


 だというのに、画家としてのブランドには微塵も興味を示さず彼はダヴィンティアを迷いなく選んだ。その時に彼が急に呟いた言葉、そしてダヴィンティアが反応をしめしたことから考えるに、彼はダヴィンティアの“学者”としての能力を目当てにしていたことを推察できる。

 “学者”としては無名の存在でありながら、既に彼はその実力を確信しているようだった。つまりそこから彼が錬金術師としての能力を持ち合わせている可能性が浮上する。

 うつけなどとはとんでもない。恐らく彼は錬金術の研究に没頭しその力を蓄えていたのだ。もしかしたらこの国宝級の宝飾品の出所もそこにあるのかもしれない。会長はそこまで予想していた。


 また、ダヴィンティアだけでなく他の5人への態度も非常に印象的だった。

 人間とは理解できない力を恐れやすい。特に“固有スキル”など人並み外れた能力の持ち主は疎まれやすいのだ。それ故に会長は自らの能力を秘匿してきた一面もあり、そして奴隷落ちする者の経緯をよく知っている会長からしてそれは残念ながら確かな事実だった。

 ダヴィンティアやジエラだけではない。有能であるがゆえに排除された者を会長は沢山知っている。

 そしてそんな者達を下に置き、手駒として動かすことの難しさを会長は帝国内でも最高レベルで痛感していると自負していた。


 最強の影武者なり得る“変幻模倣”の保持者フォクセル。

 打撃系の攻撃の一切を無効化し、雷撃を放つ極めて有能な護衛バステア。


 特にこの二人に関しては会長も自分が手駒として動かすには自分の力量が足りないことを分かっていたが故にためらいなく商品としていたのだ。会長は人の才覚が見れるが、同時に自らの才覚の限界も非常にしっかりと把握できていた。

 

 実際、フォクセルは何度も買われたがやはり誰にも使いこなせなかった。本契約の際にも彼に会長は忠告したが、フォクセルもバステアも実は何度か奴隷として自由行動のほとんどを制限しているにも関わらずその誓約の穴を見つけ逃亡を試みており、フォクセルに至っては一度完全に成功しかけたのだ。


 これでは手駒として使うのには些か不安定すぎるといえよう。そして未だに一切心が折れないその強靭な精神力、言い換えれば非常に我が強さも扱いにくさをより引き立てる。

 会長はフォクセルの売却の際には毎回きちんとそのことを忠告をしている。それでも買い上げる輩は「自分なら問題ない」と言わんばかりの顔で買っていくのだ。そして使いこなせずすぐに返品するのだ。


 しかし、彼は自信のあるなしを超越した目線で何かを見ているようだった。彼女らを見る目に映るのは純粋な興味。使いこなす自信があるのではなく、使いこなしてしまうと思わせる“覇”を見せつけてきた。



 そして会長にとってもう一つとても恐ろしく感じる事があった。それは彼の固有スキル《星流慧眼》に起因するものだ。

 《星流慧眼》は人の才覚を見抜く能力に加えて、目のあった相手に語りかけることで思考誘導を可能とする能力があった。無論、今すぐ自殺しろとか真っ裸になれとか突拍子もないことは指示できないが、特に交渉に於いては話の流れを自らに引き込むことができる強力なスキルなのだ。

 実際、この能力で会長は数々の難しい商談を成立させてきたし、スキルだけに頼らないトークスキルも磨いてきたと自負していた。少なくとも一方的に話を進められてしまうようなヘマを犯したことはなかった。



 だがしかし、彼とはなかなか目が合わない。まるで自分の能力を読まれているが如く、徹底して目が合わない。その真実は、単に彼が会長の情動を理解し、リリスのマインドリーディングの一件以降念には念を入れて逆に自分の感情が読まれないように会長の手足の動きに注目していただけなのだが、もっとぶっちゃけると単に会長の際どい生え際に自然と目が向かってしまっていたというくだらない事実があるのだが、彼に圧倒された会長はもうそのすべてになにか高尚な理由があるように錯覚していた。

 得てして時に真実は残酷なまでに陳腐なのだが、会長にそれを知るすべはない。今や彼の意図を大きく逸れるレベルで会長は彼を大物どころか化物のように思っていた。

 忠犬クレ公の亜種になりかねない物を図らずも彼は反省を生かせず生み出してしまったわけだが、彼もまたそれを知る由はない。



 これは本腰を入れて“彼”について調べねばならない、会長がそう強く決心していると指示を出すまでもなく自分のやるべきことを理解し、その貴重すぎる宝飾品を片づけ始めていた秘書の出し抜けに聞こえた声で意識を引き戻される。


「会長、これは…………」


 少し青ざめた秘書が手に持つのは、宝飾品の全てを出し切った空っぽの袋。

 使われている布は上質だがこれといって特徴のない袋だ。しかし秘書がその袋の内と外を裏返すと秘書が青ざめた原因がわかる。


『我の“担保”は気に入ったかね?汝とはこれからも『良好な関係』を結びたいが故に少々奮発したのだ。故に汝が深慮する必要はなく、今はなにか『行動』を取る必要はないと言っておこう。安心せよ、我の目は存外遠くまでよく見える。例えば『貴様の取ろうとする行動』もな。

親愛なる汝の友人より』


 渇いた血文字の様な色でぼろ布に記されたメッセージ。その布が縫い付けられていたのだ。与えられた宝飾品を然るべき場所に移そうとすれば必ずわかるように、会長の意図を全て読んだように、そのメッセージは用意されていた。


 このメッセージを寄越したうえで防諜用の魔道具を寄越してきた彼に、会長は背筋が凍る様な気分だった。貴様の防諜対策など無意味と言われているように会長には思えてしかたがなかった。違法奴隷を取り扱ううえで会長はなにより防諜機能の充実を徹底してきたはずだった。だというのにこの始末。


 ハッタリではないのか?

 会長の今まで徹底して鍛え上げた防諜機能を信じる理性がそう囁くが、一方で彼の商人としての勘がこれをただのハッタリと思わせなかった。つまりこれは、防諜機能をより鍛え上げよ、という彼からの指令。彼は本気で自分を手駒として動かそうとしているのだと会長は悟り、其の身に稲妻が落ちたような衝撃を感じた。


 実際は、「アニメとか小説とかこんな感じの演出があってカッコイイよな!せや、ワイもやってみよう!」という軽めの深夜テンションで仕込まれた物だったが、それもまた神のみぞ知る。一つ言えることは、自分の能力に圧倒的な自信を持っていたが故に、それを完全に打ち負かしてきた男に対して奇妙な信仰心が芽生え始めていること。


 時にファンブル以上に恐ろしいクリティカルが密かに起き、“彼”も知らないところで今ここに忠犬クレ公の亜種、自覚なき狂信者が生まれたのだった。

実績:またオレ何かやっちゃいました?

なろうで定番のやつ。私は嫌いじゃない(好き)

リリスさんは確信犯。公爵令嬢が大満足の宝飾品=国宝級

リリスさんは金のかかるおんなだね


実績:無自覚な狂信者

シークレットダイスで01クリティカル。失敗から学ばない豚さん

有能なおじいさんが敬虔な信徒になったよ、やったね!








裏実績:陳腐な真実

豚さんの中の人そこまで考えてないと思うよ

















真・裏実績:片鱗

豚さんは気づいてない。“貴方”が目覚めたことでもう一つ大きな物が致命的に変わったことに。その“力”は何かとよく似ていることに、“貴方”が気付くのはいつだろうか。




偽実績:日刊ランキングのってました

皆さま本当にありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 「またオレ何かやっちゃいました?」は納得できる理由があれば構わないけど、荒実滑稽な感じなのは訳わかんなくてスルーするかな(嫌いとも言う)
[良い点] 世界観が良いですね。現代知識を流用するだけでは上手く行かない感じが実にグッド! 主人公が国のトップを狙わず自由を求める所。一般人ならそうする、俺だってそうする(共感出来る) [一言] 無…
[一言] さすデブ!(致命的な認識違い的な意味で) 勘違い物としても出来がとてもいい…… スリルジャンキーというかついつい調子に乗って後から後悔するとみた。 やっぱり主人公以外の視点もある作品は最高だ…
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