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2話 お兄さんそんなことしてると禿げるよ


「それで、急に何の用ですかな」


 思い立ったが吉日。

 俺が押しかけたのは第2皇子ローランの元。現在の年齢は確か同い年の17だったはず。

 黒髪に碧眼。スラっと身長は高く、男性キャラでありながら人気ランキングでは上位に食い込んでくるテライケメンである。

 LDOではデブーダは大層ローランに嫉妬しており嫌がらせは日常茶飯事。その関係は冷え切っているなどとというレベルではなく、急に押しかけた時の殺気だった空気と緊張感はなかなかのものだった。


 今ローランの部屋にいるのは俺とローラン、それとその護衛であるジークブルムのみである。ジークブルムは今こそ白髪で壮年の武人だが、若い頃は英雄として名を馳せた超絶強い人物。サブストーリーの中で主人公がこの人に師事することがあるのだが、半端なく強かったのを未だに覚えてる。そしてこのジークブルムはローランの一番の忠臣で、デブーダ達がローランにさし向ける暗殺者達が毎回行方不明になるのはジークブルムのせいである。


 護衛兼執事、最強爺ちゃん。それがジークブルムである。


 俺のお付きは全て下がらせて、ローランにはジークブルムだけ残すように指示したが、逆にこれが警戒心を抱かせてしまったらしい。だが、他に漏れたら困る話なのだ。


「ローラン、話をする前にこの部屋は防音結界は張っているだろうな?」


「…………なぜそんなことを?」


 LDOはファンタジックなアクションRPG。スキルや魔法という概念も存在している。そして魔法の攻防戦はプログラマーとハッカーの戦いみたいなものだ。

 盗聴系の魔法に対し防音の魔法。防音魔法崩しの魔法に妨害系魔法をさらに妨害する魔法、とイタチごっこだ。


「その反応を見れば充分だ。ま、チャチな防音などならとっくに我に暗殺されているだろうからな」


 俺がまずジャブをいれると、ローランは目を見開き、ジークブルムの手が剣の柄へ僅かに動き、殺気なんてものとは無縁の俺でも頸がピリピリするほどの重い空気が部屋に広がる。


「此度、なぜ我が急に訪問したかわからぬという顔をしているな。だから率直に言ってやろう、次期帝位についてだ」


 俺がそういうとローランは思わずといった風に急に立ち上がり、ジークブルムは剣の柄に手をかけた。どうやら相当警戒されているらしい。いや当たり前か。

 ローランは第2皇后とデブーダに2日に1度嫌がらせをされ、1ヶ月に一度は暗殺者をプレゼント・フォー・ユーされているのだ。そんな相手が帝位の話を持ちかければ思わず剣に手をかけても警戒しすぎということはない。些か大胆すぎると思うけど。

しかしそれだけデブーダ単品など彼らにとっては気に留める存在ではないに違いない。


「貴様、何が狙いだ!?何をしにきた!?」


「随分なご挨拶だな、ローラン。ジークブルムとやらも、剣の柄に汚れでも付いていたのか?ローランよ、まずは座れ」


 確かこれでいいはず。デブーダはこんな感じだ。いや、本来なら「ふん、庶民の穢れた血が混じったものが我に声を荒げるなど。これだから庶民の血の流れたものはダメなのだ」ぐらいは言うが流石にそこまで言う気はない。


「さて、ローラン。お前も知っているだろうが、皇太子はもう長くは持たん」


「貴様!先ほどから何を「痴れ者が!“次期皇帝”がこの程度で慌てふためくでないわ!座れと言ったのが聞こえぬか!」」


 机越しにソファーに腰掛け向かい合う俺たち。ローランは遂に身を乗り出し俺に詰め寄ろうとしたが、腹に力を込めて吠えてやったら呆気にとられて目を大きく見開き、気圧されたように座り込んだ。


「…………ん?待て。今なんと言った?」


「ローラン、人の話は黙って最後まで聞け。いいか、まだ陛下達は誤魔化しているが、第1皇太子の病は不治の病。おそらく10年は生きられぬ。日に日に衰弱し、今や起き上がることすら困難になりつつある。さて聞こうか。第1皇太子が亡くなった後、何が起きるのか」


 しばしの沈黙。ピリついた空気が部屋に満ちて、ローランの表情は困惑しつつも厳しく固い。


「ま、わかっているだろうが、貴様と我の帝位争いになるだろう。第4皇子以下は能力では貴様に劣り、血筋では我に劣る。周りが神輿として担ぎ上げるのは我々だ。だから先に言っておこう。我は帝位などいらぬ。そんなもの貴様に全てくれてやる」


 俺がそういうと、ローランとジークブルムはポカーンと間抜けに口をおっ広げてフリーズした。思わずスクショ撮りたいなんて思うほどの間抜けズラだ。超クールなキャラのローランやジークブルムではあり得ない表情を見れたことについ俺は笑ってしまった。


「ローラン、間抜け面だな。鮭の産卵時のような顔だ」


 俺が笑いながら言うと、2人ともハッとして姿勢を正す。


「すまない、最近疲れていてな。もう一度言ってくれ。今なんと言った?」


「帝位をくれてやると言った」


 腕組みと足組のダブルパンチ…………太りすぎてなんかうまくいかないが、ソファーに踏ん反り返って俺は言い放った。

 ローランは顔を顰めると眉間によった皺を指でほぐし始めた。


「ジークブルム、これは夢か?何か悪質な魔法でもかけられてたか?」


「ローラン様、それは私めも同じでございます」


 俺こそそんな気分なんですけどね、と心で自虐してみたが虚しかったのでやめた。ほんと、夢であってほしいよ。


「では、夢の続きを見せてやろう。ローラン、いや、兄上、今迄の非礼をまず謝罪させて頂きたい、本当にすまなかった」


 俺が深々と頭を下げるとフリーズするローラン。次の瞬間、ゴスっと鈍い音が2つした。ローランとジークブルムの両名が自分自信を思いっきり殴ったようだ。


「気でも狂ったか?」


「貴様こそ、偽物ではあるまいな。夢や魔法ではないと言うのにこれは一体どう言うことだ」


「はっはっはっはっ、現実だ。それで兄上よ、我の話を聞いてはくれまいか」


 俺が兄上と言うと喉の奥に小骨が刺さったような顔をするローランがちょっと面白い。


「ま、いきなりこんなことを言われては混乱する気持ちもわかる。故に、釈明させてほしい。もう一度言うようだが、我は帝位に興味はない」


「信じられるわけがなかろうが!貴様が私に何をしてきたか省みてみよ!」


「ふむ、そうだな。実を言うとあれは全てフェイクだ。ハナから本気で暗殺などする気は無い。寧ろ金払いさえ良ければ帝国に牙を剥く者達を炙り出し処分しているのだ。それをジークブルムに任せきりになっているのはすまなく思うが、そう言うことだ。嫌がらせも、“我”は本気でするつもりはない。我と兄上が対立しているように見せることこそが狙いなのだよ」


「そ、そんな馬鹿な!?貴様は誰だ!?魔法で私を謀り何をしようとしている!!?」


「兄上、話はまだ終わっておらん。全てを聞くまで喚くでない。みっともないぞ、皇族とあろう者が」


 この身体で言うセリフじゃねえな、と思ったけどスルーしよう。


「我の盛大なる筋書きをとく聞くが良い。我は第1皇太子が病気と発覚してから、この舞台を整えてきた。兄上が皇帝になるためにな。今の我の評判は兄上もよく知っているだろう。横暴で自分勝手、まるで豚のように意地汚く欲求の塊のようなプライドと家柄だけが高いだけのクズでど畜生だと」


「なっ…………!?」


 おっと、言い過ぎた。あまりのことにローランとジークブルムが顔面崩壊レベルのエネル顔でびっくりしてるじゃないか。


「良いのだ。“狙い通りだ”。そしてローランよ、類は友を呼ぶと言う格言は知っているだろう?(あれ、日本語通じるのかな?いや、デブーダの記憶からトレースもしてるしいいのか。どうなってんだこの世界……ま、それは後に考えるとして………)ど畜生と名高い我の周りに集まっている者達、あれらも大概腐っている」


 ここら辺はサブストーリー補完だが、デブーダと第2皇后のパトロンみたいな悪役商会とかここら辺も第2皇后の権威を傘に麻薬の密輸などをしている大概クソなのだ。


「国内に流れ込む違法の薬物、それを流しているのは我の取り巻きであるバンデント大商会とそのシンパなど、と言うのは教えておいてやろう」


「貴様!知っていながら黙認しているのか!?」


「そうだ」


 俺がそう言うと、ローランの目つきがキツくなる。


「貴様、自分の言動の意味を理解しているのか?密輸入に関しどれほど陛下が頭を悩ませ、それが如何程の大罪とされていることも」


「無論、承知の上だ」


「ならば何故貴様は「兄上、次期皇帝よ、大局を見るのだ。今ここでバンデント大商会を叩くのは容易い。だがな、それでは意味がない。バンデント商会は我という後ろ盾を得て今まで以上に脅威を振るっている。しばらくすれば他の密輸業者どもも吸収され、その全てを掌握するだろう。密輸の為の流通ルートを全て支配下に置くだろう。奴は性根は腐っているが頭はキレる」


 原作でもそうだったしね。犯罪者の中にもたまにいるのだ。表の世界でも十分成功できるだけのスペックを持った者が、犯罪に手を染めてしまう。


「その段階で初めて動けばいい。そうなれば一網打尽にした上で全ての流通ルートを国が抑えることができる。いいか、奴らは鼠のような物だ。家に開けられた穴を塞ごうとすぐに次の穴を開ける。チマチマやっていてはイタチごっこだ。鼠とその病巣、侵入経路をまるごと叩き潰さねば、次の奴らが出てくるだけだぞ。それにだ、姿形もわからぬ犯罪者より、自らの監視下に置いてある犯罪者の方が安全で御し易い」


「その間、違法取引、薬物による汚染を黙って見ていろと言うのか!?」


「一を捨て十を取る。帝王学の基本だ。兄上、いやその呼び方は違和感があるようだからローランと呼ばせてもらうが…………ローラン、正しさだけでは国は回らないのだ。帝国の民の多さは知っているだろう?圧倒的な力は確かに強い。しかし最後の最後に全てを決めるのは民なのだ。数は力だ。農耕から始まり第一次産業を動かしているのは民なのだ。小をいちいち取っていては埒が開かん。小の民より数多の民を救わねば帝国というのは成り立たぬ。そしてその罪を背負うのが、上に立つ者だ。小を切り捨てる重みを背負う覚悟がある者が至るのが皇帝という存在なのだ。権威を振りかざすのは皇帝とは呼ばぬ。権威の重みを誰よりも真摯に向き合う者こそ真の皇帝というものだ」


俺が堂々とした態度でのたまうと、ローランは苦渋に満ちた表情で頭を抱え頭をかきむしる。自分の言葉が正論とは思わない。しかしこれもまた“最善”に対する一つの答え。そしてローランは俺の言葉に少なからず納得してしまったからこそ、このように苦悩にするのだろう。


「分からん……何が狙いなんだ…………」


「我の最大の目標は第2皇后の排除だ」


 俺が頭をガシガシと掻くローランにそう言ってやると、髪の毛を掴んだローランはブチブチと自分の髪の毛を引っこ抜き、俺の襟首を掴み上げた。Oh、アグレッシブ。


「吐け!貴様何者だ!?」


「道理の分からん奴だな。デブーダに決まっている。全てを聞けと何度言えば良いのだ?手を離せ」


 俺がローランの目をまっすぐ見て言い切ると、ローランはドンっと俺を突き放しズカズカと暖炉の方に向かうと壁に掛けられた剣を引っこ抜いた。よくある演出だけど、どうして暖炉の上あたりとかって物がよく飾られるのだろうか?

 ローランは雑に鞘を投げ捨てる。そしてソファーに座る俺の眼前にその鋭く光る剣先を突きつけた。これは、儀礼用じゃないな。儀礼用に見せかけた真剣だ。


「最後の機会だ。言え、貴様何者だ」


「そっくり返してやろう。これを言うのは最後だ。座れ、そして話を聞け。別に剣を突きつけたままがいいというならそうしておればいい。我は話を続ける。もしここで我に危害を加えれば、何が起こるか分からんがな」


 流石にマズイと思ったのかジークブルムがローランの肩を引いて少し強引に下がらせるが、ローランは剣から手を離さない。いやー、怖かった。剣先突きつけられて叫ばなかった俺を褒めたいね。勘弁してくれよ全く。俺は平和を愛する日本人だぞ。


「はっきり言っておくが、我が母上、第2皇后はこの国の病巣だ。そして予言してやろう。皇太子が亡くなり、お前が次期皇帝と定められた時、第2皇后は確実にクーデターを起こす。勿論、我を旗頭にしてだがな。我の狙いはそれだ。クーデターを起こし便乗した取り巻きごと叩き潰しこの国の病巣を一斉排除。ローラン次期皇帝の新たな治世のスタートするのだ。今のペンドラゴン帝国は些か成長し過ぎた、病巣も含めてな。ここで引き締め直さなくてはいつか破綻するだろう」


「帝国の為だと言うのか?全ては帝国の為だと、貴様はそう宣う気か?」


おっかない目つきだな。視線に力があれば俺はローランに殺されていただろう。しかし、ここが勝負どころだ。TRPGで鍛え上げたリアル言いくるめ(98)を舐めるな!


「ハッ、知れたことを。これは我の為でもある。我らは内で揉めている場合か?魔王という脅威がありながら、それに目を背け、くだらない争いで国力を低下させる。それこそ大局の見れぬ大馬鹿者だ。我はもう飽き飽きしたのだ、権威に擦り寄るゴミムシの顔を眺めるのが。全てが終われば僻地に飛ばしてもらって構わん。貴族と金輪際おさらばできる地を貰えればそれでいいのだ」


「今の今まで、それらが全てそれを成し遂げる物だと言うのか?帝位にあれだけ執着していたではないか」


「あんな座に魅力など感じぬ。城に縛り付けられた一生など我は御免被る。皇帝の弟として気ままにしていた方が余程楽というものよ。ただ、確かに太り過ぎた。僻地に飛ばされる前には痩せるようにする」


 俺が腹を摘みながら思わず素で喋るとローランは目を剥きなにか言いたげだったか、なんとか飲み込んで渋い顔をする。シリアスに交えた意表をつく一言は相手を冷静にさせられる。これはちょっとした小技だが日常生活でも使えるぞ。


「では、アリス嬢に対する側室の強要はなんと弁解するのだ」


 アリス嬢。アリス・アトランティア……Mルートヒロインだ。


「アリス嬢には済まぬが、あれも我の悪評の為の布石だ。アリス嬢の父、アトランティア辺境伯が皇帝陛下の親友で、陛下がその縁で我を妨害するとわかっているからこそ心置きなく言い寄れる。ただ言いよるのに都合が良かっただけで、もとよりアリス嬢に固執などしておらんわ」


「では、何故この話を今になって持ちかけてきた。それも急にだ」


さて、ここからがどれくらい言いくるめを成功できるかは、ダイスの女神クソビッチに賭けよう。煌け、俺のリアルINT!


「理由などないわ」


「貴様っ、さっきから聞いていれば「痴れ者が。理由などないからこそだ。確かに第1皇太子がもう長くないことがほぼほぼ確定したというのもあるが、確定した後に接触すればこの程度の混乱では済まぬ。それに入念に準備して訪れても不自然過ぎるではないか。何も理由がないからこそ、周りも知ったところで勝手に解釈するだろう。大方、アポ無し電撃訪問という嫌がらせをしただけ、とかな」


 俺は咄嗟に切り返したが、この誤魔化しには言い返せなかったのかローランもジークブルムも完全にポカーンとしていた。キタッ!言いくるめクリッた!


「話は終わりだ。我は立場と目的を表明しただけのこと。信じられぬというなら疑い続けていろ。急に押しかけて済まなかった。あ、それとだな、この上にいるであろうかつて黒い虎と呼ばれた者も、余計なことは話すでないぞ。お喋りは往々にして早死に、雉も鳴かずば撃たれまい、と言うしな。(あれ、ことわざで通じるのか?まあいいか)そこの壁だか何処に隠れているだろう失踪したはずの者もだがな」


 最後に最大級の爆弾を投下して俺は部屋を出た。


実績:つるっぱげの白馬の皇子


理想の皇子を体現したローランに心労9999ダメージを達成!ストレスで禿げれば未来は暗いけど頭は明るいぞ!

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう転生系で一番楽なのは「演技をしていた」「もう疲れた」みたいなのになるんだよな 「心を入れ替えた」とか信用される方が怖い(信用クリティカルならあるかも) リアル言いくるめ(98)は凄い…
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