18話 こちらはなんと放送終了から1時間以内なら100%OFFとなります!
切れ目が悪かったのでやっぱり更新します。
三話更新なんてこれがもう最後じゃ(フラグ)
追記:2000PV行きそう 皆さまありがとうございます。
奴隷だけでなく双方の護衛も全て退出させ、俺は持ち込んだ防諜用のオリジナルの魔道具をこっそり起動させたところで口火を切った。
「さて、些か唐突ではあるが…………貴様は自分の命、そしてこのウィルエント商会という巨大な組織に値段をつけるとしたら幾らの値段をつける?」
ソファーに深々と腰かけ、ふんぞり返って如何にも大物の風格を漂わせて、まずは挨拶代わりのジャブ。
「……………………大変申し訳ございません。この非才なる老骨では殿下の仰ることの意味を図りかねます」
ふむ、乗ってこないか。まあ計算通りだ。
「脅しには屈しない、そう言っているのか?そういう非生産的な話をしようというわけではない。ただ気になっただけだ。率直に、難しいことは考えずに申してみよ」
俺があっさりとそう返せば、会長の体が一瞬強張ったのがわかった。これは反応アリか。
この手の事は会長も慣れっこなのだろう。ただ、フォクセルのような人材を抱え込まず商品として扱える時点で会長の持つ手駒の数も質も相当の物と予想できる。おそらく貴族相手でも本気をだせば軽く封殺できるのだろう。しかし、第三皇子相手にこの態度は相当肝が据わってると思うがな。
だが、だからこそ、突ける隙もある。
「それは、正に“賭け変えのない”物ですな」
「そうだ、そこに値段などつけられないだろう。それほど膨大な時間の中で積み重ねられた経験の上にある組織、人材は極めて価値のある物だな」
まだ会長は俺の意思を測りかねているのか大きな反応がない。さあ第二弾、重めのフックでその分厚いガードをぶっ壊していこう。
「話は変わるが、貴様は第二皇子のことは知っているか?」
「――――ええ、存じ上げています」
ここで下手におべっかを使わないのは俺たちの関係性を知っているからだろう。一瞬間があったのはそこまで読んでの事だ。なら話が早い。
「それともう一つ、皇太子、要するに第一皇子はもう長くない。この意味がわかるか?」
俺がニヤッとしながら告げると、今度こそ会長は動揺を隠しきれず軽く腰をあげた。
「さ、先ほどから一体なにを仰られているのかっ!?」
「まあ落ち着け」
よしフックはしっかり決まった。動揺を誘うことに成功したらここからは一気に畳みかける!
「第二皇子は大層清廉潔白な人物で正義感の強い漢、であるそうだな。しかし奴は清濁併せ吞むということができない。皇太子がこのままその命の灯が尽きれば、次は一体誰が次期皇帝になるのだろうな?」
「ま、まさか」
さあ焦れ、もっと焦れ!
「第二皇子ローランは一切の犯罪を見逃さない。今は奴に大きな力がないから問題がないが、奴が力を持つようになれば奴は自らの理想のためにその力を振るいだす。当然、法的に所持が許されていない奴隷は検挙対象だな?特に自分の目の届く範囲は徹底的にその正義の敢行対象だ。もう貴様は目を付けられ始めている。このまま手を打たなければ、その“かけがえのない”物は一体どうなるのだろうな?」
会長に滲む汗は、今や焦りによる物だけではないだろう。目が微かに踊っていることから動揺しているのは間違いない。手が強張り血管が浮き出ており彼の心中は手に取るようにわかる。目をつけられている、というのはハッタリだ。ローランがそんなこと知るわけがない。なんせ手駒がなさ過ぎて力があるだけの庶民である主人公に頼るしかない人物なのだから。
しかし会長にとっては看過できないだろう。動揺により綻びた精神の防御壁はさらに歪みを引き起こし大きく亀裂が走っている。最初の余裕さも既にあるまい。交渉に於いて、特に実力者相手にはとにかく冷静さを奪うに尽きる。
「だが、我は違う。奴隷は“必要悪”だと考えている。必要な人的資源をより的確に再分配するのに奴隷商売はうってつけだ。法は全てではない。正義だけで人は生きられない。陰があるからこそ光がある。特に貴様のような極めて有用な奴隷商は敢えて保護してもよいと我は考えている。どのような人材であろうと有効活用すべきだからな。綺麗なことしかない国など御伽話の産物だ。故に、貴様には帝国の闇を担う必要悪になってほしいのだ。此度、汝はその器に足りえると我は強く確信した」
「殿下は、一体どのような…………」
会長は理解が追い付かないらしく苦し気な表情だが、それでいい。リップサービスもしてやったんだ。大いに混乱してしまえ。結果として彼に残るのは俺に認められたという事実だ。そしてその優越感は認識を歪ませる。崩れたガードに怒涛のラッシュだ!
「我は今まで、じっと伏して期を伺っていた。そして時は来た。今は一分一秒が惜しい。一つの駒が戦局を変える。そして我の描く盤上には、貴様の存在が不可欠なのだ。我が母上は隣国の王家出身、我が然るべき地位につけばよりその関係は強固となり帝国は更に栄えるだろう。国同士の交流も深まる。しかし国同士のやり取りは綺麗ごとだけは片付かない。帝国はそこが甘いからこそ今一つ停滞しているのだ。時に国はリスクも抱えてこその発展がある。そのような場では国の闇として動く存在が必要なのだ。…………はてさて、貴様は商会の長に収まっているだけの器か?」
「わ、私にそのような大役を?」
「貴様の所有する資金、情報、そして帝国中に張り巡らされたネットワーク。我をそれは非常に高く評価している。時間の上に得られた有用な人材と組織は非常に貴重だ。このまま闇雲に滅ぼすなど全くもってあり得ないナンセンスで浅慮な行動だ。如何なる賢帝であろうと犯罪をこの世から消しさることはできない。なれば其の芽を躍起になって摘もうとする徒労を味わうより、こちらの管理下に於けばいい。国益を損なう犯罪には介入すればよいのだ。そのパイプになるのが貴様だ。貴様なら帝国にある犯罪組織のこともよく理解しているだろう。貴様が帝国の闇を支配するのだ。
その資金は国から密かに融通することもできる。国という巨大な組織にとってなにより恐ろしいには災害そのものなどではなく“想定外”であり、盗賊も管理下にあればそれによっておきる被害は“予定調和”に収まるのだ。帝国という大きな国は計算された盤上の元でさらなる発展を遂げるのだよ」
さあ手札はほとんどオープンした。最後通告をするとしよう。
「このままガキの青臭い正義の元に潰えるか、繁栄せし帝国の“必要悪”となるか、貴様が選べ」
手応えはある。あとは言いくるめ(98)がどれだけ仕事するかだ。畳みかけはまだおわってないんだよぉ。ずっとずっと俺のターンだ!
「シンプルに言えば、これは『貴様の命』と『ウィルエント商会』という巨大な組織を担保とした“投資”だ。そして我はまだローランに本格的に動き出したことを悟られるわけにもいかない。故に我は近しい者にすら真意をほとんど明かしていない。敵を騙すにはまず味方から、というわけだ。故に現状では1300万マジェムという多額の貨幣を動かす訳にはいかない。だが我が奴隷を所持することは転じて、貴様に対するなによりの“保証”となるのだ。故に、我は奴隷を所望する。それは理解できるな?」
ここで重要なのは、俺が奴隷を持つ事に会長にも明確なメリットがあること、そして支払い能力がないわけでは無いように見せること。今までの茶番はこれを信じさせるためだけの物だ。値段交渉は既に「保障と投資」の話へすり替わっているのだよ。
俺が奴隷を持つということはすなわち、奴隷の存在を許さないローランへの反旗を翻す証…………つまり会長との協力関係を表す“保障”のように会長には見え始めているだろう。それはなによりも会長にとって魅力的に見えるに違いない。
さあもうガードは完全に消えた。そのがら空きの顎にアッパーカットをお見舞いしてやろう!
俺は懐から上質な袋を取り出し、俺と会長を隔てる机の上に置いた。その中身は緩い袋から零れ、会長にもその中身が目に入ったことだろう。
「こ、これは!?」
「そしてそれは奴隷に対する料金ではない。我と貴様の間に結ぶ協定のささやかな“担保”だ」
そこにあるのは他の研究を返上して2週間毎日せっせと魔法で作った宝飾品の詰め合わせ。クレアラやリリスのアイデアも参考に、かなりの苦労をしてデザインした超のつく力作だ。ゲームでなくなり自由度が格段に上がったことでデザインの可能性は大きく広がったが、製作にかかわる労力も激増したのだ。
ただその分の価値は確実にあることを、公爵令嬢として目が非常に肥えているリリスも太鼓判を押してくれた。流通しては宝飾品そのものの値崩れを起こしかねないレベルの危険な代物だが、担保として存在する限りは問題ない。ダイヤにルビー、サファイヤ、トパーズにエメラルド、オパール、アメジスト、クオーツ、ターコイズなど。金属には金、銀だけでなく魔法金属であるミスリルやオリハルコン、アダマンタイトなどを使ったものもある。宝飾品自体も指輪、ネックレスにブレスレットにイヤリング、鏡からマジックアイテムと化してる短剣などもある。
最も魔法習得に苦労したブラックダイヤモンドとレッドダイヤモンド、普通のダイヤをあしらい他のパーツは加工が超難しいアダマンタイトに魔法的効力の高いミスリルを使い、しかもそこに俺が開発した錬金陣を刻んだことで超強力なマジックアイテム化した、最も上手にできたネックレスはリリスにパクられたが、まあどのみちあれは悪乗りしすぎてヤバい代物だったのでどのみちつかえなかったから俺は気にしてない。デブーダうそつかない。うそ、つかない。でも宝飾品製作に関わる俺の労力とリリスの労力の差額分はきっちりなにかで支払ってもらうつもりだ。
それと、ついでと言わんばかりにアザゼルもサラッと2番目に出来栄えが良かった、これまた悪乗りが過ぎた力作をナチュラルにパクっていったのも釈然としない。あまりに堂々と盗られた上に目の前で装着したので唖然としてツッコむこともできなかった。でも君は装飾品制作の工程で一切協力してないからリリス以上にパクるのはおかしいと思うんだよ、俺は。いや情報収集してくれる対価として贈ってもよかったんだけどなにか一言言ってほしかった。
似合うでしょ?みたいな感じで無言で視線を向けられてもリアクションに困るんだよ。実際とても似合ってたけどさ。
リリスは一応、一応だが女性としてアクセサリーに関わるアドバイスをしてくれたし、ド素人の俺から見てもセンスのあるデザインを提供してくれたんだ。その対価として一つぐらいは元からあげるつもりではあったのだ。ただ一番力をいれてデザインし、横から煩いくらいに色々と細かい指示を出し続けたネックレスをパクったので全部帳消しだよ。その時点で薄っすらとまさかコイツ、と思ったけど案の定だったよ。コンチクショウ!
なんだか不平等な気がしたのでクレアラには自分でデザインしたブレスレットを別個で作りお礼として贈ったが、凄い丁寧にお礼の言葉をくれたし、なんだか予想以上に喜んでくれたんだぞ。
そりゃまあ、そのブレスレットは最初からクレアラに贈ることを想定し仕事の邪魔にならない様にとか色々工夫をしてあるから力の入りようも違うし、色々な陣を仕込むことができたから俺も楽しかったのもあるけれど、それを受け取ったクレアラの喜びようといったらそれはもう可愛げにあふれていた。たぶん尻尾があったら千切れるほど振ってくれただろう。ただ彼女には伝えてないが、あんまり凝りすぎてちょっとヤバい機能が色々と付いたりなかったり。
いやー、深夜テンションって怖いね!ヘタするとストーリー後半のボス手前の強力なモブ相手にも防御面だけなら通用しかねない超強力マジックアイテムになってるけど、もうどうにでもな~れ★の精神で気にしないことにした。気にしないったら気にしない。
閑話休題。
さて、小袋いっぱいの公爵令嬢が大満足するレベルの宝飾品は彼でも驚愕に値する物のようで、我慢して手には取っていないが会長は食い入るように見つめていた。彼の心情としてはこれが本物かどうか今すぐにでも調べたいだろう。だが、まだだ!まだ終わらんよぉ!
「そして、これも貴様に預けておこう。とあるルートより入手した古代級の防諜用の魔道具だ。有効活用してくれ」
続けて懐から取り出したのは、デブータの部屋に元からあった防音用のランプ型魔道具だ。今やこの魔道具に関しての研究も進み、改良品を自分で作り出せたのでお役御免となったのだ。しかしこの魔道具も同じなのはガワだけで中身は結構な改造を施している。
会長は今や俺が見せた品々に完全に魅了されていた。さあゲームセットだ。ど真ん中ストレートをお見舞いしK.O.勝ちさせてもらおう。
「最後にもう一度問う。このままガキの青臭い正義の元に潰えるか、帝国の必要悪となるか。汝はどちらを選ぶ?」
俺はこれ見よがしに袋から一つ零れた、現在では不可能なまでの緻密なカットが施された大きなダイヤをあしらった指輪を手に取り不敵に笑ってみせた。
◆
結果、俺は実質無料で1400万マジェム分の奴隷を手に入れた!失敗した時のためにあと6パターンほど言いくるめ計画があったのだが一番穏便に落ち着いてよかったわ。本当はある程度マジェムを払う気だったのだが、思いのほか防音用魔道具に感謝されたのだ。まあお下がりとはいえ皇族の使うような貴重品だからね。彼のような職業の人には非常に役立つだろう。
だが…………その魔道具、実は盗聴機能付きなのさ!これで情報は抜き出し放題!!諜報機能は大きく強化された!!2週間分の俺の時間を奴隷のために費やすわけがない!ただでは転ばない、一石二鳥は基本、ガハハッ勝った!!
そしてとても疲れた。こっそり城から抜け出すのが凄い大変だったのだ。帰ったら即刻寝てやるぞ。寝てやるぞ!だから邪魔するのはやめろよリリス!
実績:詐欺師
自重を捨てた豚さんけっこうヒャッハーしてるね。あとででっかいしっぺ返しが来ないといいね
実績:100%OFF
マジェムはびた一文支払わない清々しいまでの守銭奴
実績:宝飾品マスター
2週間毎日頑張ったおかげでやたら宝飾品づくりが上達したぞ!
リリスに御高説たれておきながら自らそれを無視していく豚さん。そこに痺れるあこがれない。
裏実績:忠犬クレ公・改
ひそやかに忠犬レベルが上がってるクレアラさん。実は彼女、まともにプレゼントとかもらったことない人で、しかも宝飾品に女性らしい憧れを持っていたの。そんな人に滅茶苦茶手の込んだオーダーメイド品を贈呈。豚さん狙ってやってるの?