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13話 錬金術に関する自重はゴミ箱に捨ててきた

実は昨日こっそり2話分更新してたんです。

昨日11話しか読んでない方は先に12話へドウゾ



※完全に説明回。

錬金術の解説に関しては読み飛ばしていただいてかまいません。


後書きに要約を記載します。





 昨晩は何故かしんみりしたので、後半はクレアラとただただ雑談していた(最後には誤魔化すために筋トレしたが)。

 今の帝都のトレンドとか誰が何をしたとか何処そこの国でこんなことがあったとか概ね情報収集を兼ねたものだったが、クレアラも肩の力を抜いて気楽に話せているようだったので良しとする。そうね、こうやってガールズトークするからすぐに男友達枠に認定されるという悲劇を繰り返しているのよね。

 クレアラが俺に好意を向けることも、俺がクレアラに手を出す気も一切ないからいいけれど。純粋な精神休養も必要だ。

 

 たまに気になることがあるとついつい口を挟んでしまうのは抑えたいと思うが、クレアラが丁寧に対応してくれるのでまた口を挟むという負のスパイラル。クレアラ、ゲームだと気づかなかったけど凄くいい子ですよ、マジで。こんな妹がいたら楽しかったし凄く可愛がっただろうに、俺の実妹は跳ねっ返りで感情論派な為に険悪ではないがあまり意見が合わないことが多かったからな…………。実妹ってだいたいそんなもんだよね。裸体を見ても全く反応しないし、ばったりその状態でエンカウントしても「ちょっと太ったか?」と茶々入れて脛にローキックされるまでワンセットみたいなもんだ。

 対してクレアラはワンコだからなぁ。澄まし顔だけど褒めてやると尻尾は振りまくりで嬉しそうというかなんというか、やっぱりシベリアンハスキーの魂を感じる。



 どうしよう、クレアラに対するメンタル的な借りが多すぎてちゃんと返し切れるか心配だ。これでは利息もつけなどと言ってる場合ではない。リリスの直接攻撃より、クレアラは善意しか無いから余程辛い。正直、リリスがいくら詰ったりしても“デブーダ”がクソなのは俺も認めるところだし、実妹の罵りに比べればティラノサウルスとひよこぐらいの差があるので(それでも絶縁レベルの喧嘩はしないから周りから不思議がられるが、奴の罵りの師匠は俺だったのでなんとも言えない)はいはい、と受け流せるが、善意たっぷりの子は完全に信頼を預けてはいけないと思うことすら罪悪感を感じる。


 困ったな、今から真面目にランスロットル家に掛け合ってあげた方がいいのだろうか。だが幸福云々についてやたらベラベラ喋った手前(あとで恥ずかしくなった。ブラックヒストリーにまた一ページ追加されてしまった)、勝手にあれこれ押し付けるようにやるのも良くないし…………マジでどうしよう。願いを叶えてあげようにも前々から準備が必要なものもあるし、クーデターぎりぎりで言われても困るが、かと言って急かしたくはない。


 いいや、考えてもしょーもないことはすっぱり忘れましょう!後々の俺が悩んでくれるはずだ。頑張れ、未来の俺!



 というか、今現在服を着替えさせてくれる本人を前に考えることじゃ無いか。

 他のメイドも着替えさせてくれているが、クレアラの腐ったような目はまさしく名演技だ。そんじょそこらの女優じゃ太刀打ちできないほど綺麗だし演技も上手い。


 今日も今日とてヘルシーな朝食。本当に公務とか無いのだろうか思うが今日もやはりやる事はないらしい。不自然だがデブーダはこれが当たり前になってるようだ。ま、皇家の面汚しみたいな存在に周りもあれこれ言いたく無いのだろう。あるいは、完全に見放されているのだろう。


 出席すべき行事とかもほぼほぼ出席してないし、これでよく皇帝になりたいとデブーダも思ったものだ。本人は自分は特別に免除されてるんだなどと記憶の中では考えていたが、実際は爪弾きにされてるだけだ。


 第2皇后がいなけりゃ俺はひっそりと処分されてたのかもしれない。

だが第2皇后は妙にデブーダを溺愛しているので下手に手も出せないのだろう。逆に考えると第2皇后ってデブーダがこれだけの扱いでも旗頭に立ててクーデターを起こすほどの影響力がある。

だからこそデブーダが調子付いてしまったのだろうが、第2皇后にとってはデブーダはペットを可愛がっているのと変わらないのかもしれない。世話は他人に任せて、甘やかすだけ甘やかす…………デブーダもなかなか難儀なやつだ。


 こんな心象悪くなるようなことを訥々と考えていると、朝食も終わり最は近恒例化した人払いをする。メイド達はぺこりと頭を下げるとそそくさといなくなった。ほんと嫌われてるね、デブーダ。



 さて、魔道具のスイッチを入れよう。一応部屋自体に色々結界を張っているのでこれを正面から破るのは難しいのです心配し過ぎかもしれない。だが用心に越したことはない。この魔道具が作動し始めるとやはり心がホッとする。


 だって考えてもみてくれ、食事をする時も何も食べずに待機するメイド達を見ながら俺は平静に食える人じゃないんだよ。なんか悪いことしてる気分になる。食事時はメイドのお仕事タイムだから人払いもできないのがよくない、よろしくない。


 着替えも風呂も、トイレでケツを拭かれる時もメイドが世話焼くんだぜ?介護かっての。風呂以上にケツを他人に拭かれるダメージは大きいなんて知りたくもなかった。ルイ14世の頃の貴族は垂れ流しとか庭で平然としてとか今では卒倒し兼ねない文化がまかり通っていたようだが、こちらの世界では水貯売りなどという水生成に特化しちゃった魔法使いとかいるし、川の近くでなくとも水に困ることはない………というか宮廷で雇ってる水貯売りの多さは凄まじい。


 こちらの世界の城のトイレは和式便所に近いが、形だけで内部は傾斜しており水が流れ続けている。故にトイレ周りはそこそこ清潔だ。

 ここら辺の詳しい知識は無駄にあるデブーダ所有の本で知った。あそこにある本、本当に読むことを前提してないので適当な本が突っ込んである。とある学者の雑草レポートとか逆になんであるんだ。俺の2時間を返してくれ。


 いや、そんなことはどうでもいいが……これもどうでもいいが、面白かったのは糞尿の処理方法だ。


 城のトイレは壁の向こう側に水貯売りが定期的に供給する水槽があり、その水槽から水が流れて落ちた糞尿を傾斜で押し流す。押し流された糞尿はトイレの後ろにある部屋に行き着き、甕に溜められていく。その甕を奴隷達が城の外へ運び出す。

 城には使用人のみが通れるような道があるので俺が遭遇することはないが、彼らは貴族には知られることなく甕をえっちらおっちら運び出す。

 運び出された甕は道具屋や農地に買われるらしい。


 道具屋は魔物を追い払うための薬剤などを作るために、農地には肥料として、やばい使い道だと奴隷の飲み水………らしい。そりゃ糞尿含んだ水瓶は値段は低い。水貯売りを雇うよりは遥かに安上がりで水を奴隷に供給できるわけだ。

 信じらんねえええええ、と思ったがこれが現実らしい。一応そのまま使うわけではないみたいだが、現代科学ほどに完璧に処理できるわけもない。


 やけに衛生観念にしっかりした宮廷だが、どうやら糞尿などは穢れ物として無秩序にばら撒いてはいけないなどと法律があるらしい。ちなみにこれが一般市民の話になると、糞尿の処理は肥料売りが回収していくか、焼いて処分するらしい。

 ルイ14世の治世の時代はトイレは基本的におまるで、たまるとそこらの道端とか川とかに普通に破棄していたようだ。信じられないが水が貴重だからしょうがないのだろう。お陰でペストが大流行してしまったが、人間も大きな失敗を繰り返して成長するのかな。


 焼くってどうなんだよ、と思ったがその時の匂いがまた魔物を街から遠ざける役割を担っているわけで、こちらの世界では当たり前の知恵らしい。


 結果的に疫病などが広がらずに済んでいるが、人間って理屈は分からなくとも本能的に物事のいい悪いがわかるのかもな。


 こうした魔法がある故の文化の違いは考察しているだけでそこそこ楽しい。

 よく異世界転生系の話だと排泄とか散髪とかそういったことには触れられないけどどうしてるんだろう。水路の整備とかなんてそうそう簡単にできないし、地下水路なんてほいほい作れるわきゃねえ。


 やばい、気になってきた。昔から変なところに目がいくよな、と苦笑されることが多かったが、気になる。

 そういえば全く関係ない話だが、中世レベルのヨーロッパでは既製品の衣服が売られていることはなかったらしい。よくオカマとかが服を売っているシーンがあるが、あり得ない光景らしい。


 でもこの世界だとあるっぽいんだよね、服屋。


 古代級の魔道具に機織りなどの機械があるらしく、それを模倣した機材があるのでハードルが下がっていると思われる。


 だが高級品には変わりなく、既製品の服ってあくまで購入できるモデル扱いなんだよね。普通は糸や布を売るものだ。

 異世界転生ものの服屋さん達は…………どうやってるんだろうか?服を作るスキルでもあるのかな?中世とかは普通は着回しが基本だし、生計は成り立ってるのか気になるところだ。

 むしろこの世界では古着屋の方が余程繁盛しているだろう。

 たとえボロ雑巾のような服でも古着屋には売れる。古着屋はそれを奴隷商などに一括で転売するのだ。

 捨てる神あれば拾う神あり、なのだろうか。よくできているシステムだ。




閑話休題。



 また思考が大脱走してたな。まあいいか。ボーっと1人で考え事ができる時間もメイドがずっと張り付いてる生活では贅沢な時間なのだ。


 最近常々思うが転生後最も痛感したのは自由のありがたみだ。


 休日になるとぐっすり寝ている父親はある時こう言った。

 『出世して賃金が増えるのは嬉しい。嬉しいんだ。けど次第に思う、金じゃなくて心置きなく休める休日を寄越せ、と。ただの休みをもらっても、休んだら休んだで仕事が溜まるだけなんだ。なんの憂いもなく休める、それがどれだけ素晴らしいか大人になればわかる』


 俺の父親は説教くさいことを滅多にしない人だったのでその時の言葉はよく覚えてる。それを聞いた時、俺は理屈で言葉の内容は理解していた。だが理解と実感には大きなズレがあった。こんな気分を味わうのなんてもっと後だと思ってたのに、デブーダになってから精神的にどんどん老け込んでいる気がする。


 誰の目も憚ることなく大きな欠伸ができるのがこんなに幸せだなんて知りたくなかったよ。


 俺は欠伸をして滲んだ目を擦ると、ベッドから降りる。

 そして魔法でゴーレムを生み出すと天蓋付きベッドをどかしてもらう。


 ベッドの下にあるのは他の床同様赤いカーペット。しかしある一点を強く押すと仕掛け扉のようにパカっと開く。中には今まで作りだめしていた金属のインゴットが貯蓄されており、俺はゴーレムにそのインゴットを取り出させる。


 秘密の床下収納なんて子供心が疼くワクワクワードだが、こんな面倒な真似をしているのにも理由がある。まずこの部屋は以前にも言ったと思うが定期的にメイド達が清掃している。

 それはメイド達の大事な仕事であり、元のデブーダもそれが当たり前のことなので嫌がることはなかった。故にもっとも手っ取り早い手である清掃の禁止ができない。

 だが錬金術の実験や魔力消費効率などを考えるとインゴットを作り置きしたり、製作したものは取っておきたい。しかしながらメイドにバレるわけにはいかず、それらをどううまく保管すればいいか、俺はかなりの試行錯誤をした。


 最初は本棚を改造したら楽しそうだな、と思った。だがメイド達はデブーダが読みもしない本までちゃんと虫食いがないか点検したり埃が溜まらないように丁寧に掃除している。これではうっかり何かの拍子で仕掛けが作動しても困るし、流石に大掛かりすぎてボツ。


 次に考えたのは天井。案外思いつきにくい場所だと思うし、メイド達も天井なんて滅多に清掃しない。万が一の事故を減らすにはうってつけだ。

 しかしそれを妨げる物があった。デブーダの部屋の天井裏には良からぬ人がごそごそ動いているのはゲームの時で同様で、最近は魔道具の結界をなんとか破ろうと日夜奮闘しているのは俺の魔法で確認済みだ。そんな時に天井に刺激を与えれば流石にバレるリスクがある。故にこれもボツ。


 そうやって次々とボツを積み重ねていった結果、最終的に1番護りの堅いベッドの下にしまえばいいと結論づけた。ベッド自体に様々な感知魔法が仕込んである上に、キングサイズのベッドの下の掃除は流石のメイドも他の場所と違い入念にすることはしない。光魔法で下の隙間を照らし風魔法でゴミを吹き出す程度だ。

 万が一を最も減らせるのが最終的にベッド下だったのだ。よく漫画とかではエロ本の隠し場所にされがちだけど、実際に隠している人がおそらくいないであろうメジャーな場所である。


 いつかベッド下に物が入りきらない予感があるが、こうやって瑣末なことで悩んでいるといかに主人公のインベントリーがチート魔法かわかる。


 俺も試しに使えるか実験したが当然ながら無理だった。

 因みにデブーダは大地属性に超絶的才能があったが、別に大地属性オンリーではなく水魔法も少し使える。それ以外の属性は平均以下どころか発動すらしないが、おそらく他の属性の才能まで全部大地属性に持っていかれてる気がする。(目下錬金術でインベントリ機能付きの魔法具を作ろうとしているが、まったく完成の目途はたってない。)

 水属性は攻撃力、防御力が共に低いが回復系統の魔法と重複しているので、水魔法があるとちょっとした傷はすぐに治癒できるし、コップ一杯の水くらいなら無理なく生成できる。比較的便利な魔法だが、やはりこっちも派手さとかが無い。流石デブーダ、自分の趣向とは真逆の魔法しか使えないとは哀れだ。


 そんな大地属性と水属性だが、錬金術では大変お世話になっている。










 錬金術について少し解説しよう。

 錬金術とは、この世界の電化製品的な魔道具の基盤かつ機構を作る魔法陣を描く技術とその学問総称を指している。


 従来の意味での生命の想像や物質の昇華を目指す錬金術とは少し違う。いや、一応としてはそれらを錬成するために魔法を解析し作られたのが魔法陣、又は錬成陣なので起源は同じだ。

 ただ、技術の発展と共に魔法の再現が可能な点な方に注目が集まり今の錬金術と言う体系を完成しただけだ。今では従来の意味での錬金術に挑むものはいない、というより技術が消失している。


 そんな錬金術だが、この中世〜近世ヨーロッパ感ある世界とは思えない高度かつ奇妙な技術であり、最初に錬金術に触れた時は俺もその複雑さに目を剥いた。


 まず魔法陣を書くには円を書く必要がある。三角や四角では魔素の流れに差ができるので、出来るだけ均一で正確な円がいい。

 次にその円の中に少し感覚を開けてもう一つ円を書く。これで1番の基礎中の基礎は完成だ。言うなればプログラムを書き込んでいくためのソフトを起動した状態だ。


 次に大まかな機構を組み立てていく。この時に使うのがドラグラム神繋文字と呼ばれるマヤ文字とヒエログリフを合体したような複雑怪奇な象形文字だ。この文字を内側の円の内部に書き込んでいく。


 この文字を複数用いて機構を決定していくのだが、一つ一つがどのような性能を持っているかは未だに正確にわかっていないし、また数年に一度は新たに出土した古代級の魔道具から新しいドラグラム神繋文字が発見される謎に包まれた文字だ。


 俺が所有する本にはご丁寧に一般に流通しておる魔道具とそこに使われるドラグラム神繋文字まで記載されていたが、俺も最初はルールが分からず大苦戦した。


 例えば着火機能を持つ魔道具には、『イーンアルフ』と名付けられたドラグラム神繋文字を使用する。イーンアルフは火を取り扱う上でも最も一般的な文字で、図鑑でも火を表す文字として紹介されていた。

 だが不思議なことに、冷却機能を持つ魔道具にも文字の一つとしてイーンアルフは使用されている。

 火を表す筈の文字が冷却機能の魔道具に使われている奇妙な謎、ここに俺はつっかかった。

 またこのようなケースは他にもあり、風を生み出す文字が発光機能を持つ魔道具に使われていたり、水を表す文字が物を温める機能を持つ魔道具に使用されていたりする。


 規則性があるようでイレギュラーの多いドラグラム神繋文字、俺はその法則性を解き明かすべく熟考した。必死に解読を試みた。

 そしてふと気付いたのだ。もしかしたら文字として考えちゃいけないのかもしれない、と。ドラグラム神繋文字は内側の円の内部に書き込むのだが、この時に複数の文字を使ってもズラして書いたりせず重ねて書き込んでいく。重なって元の文字が分からなくなっても関係ない。試しに書き込む順番を変えても、同じ結果を生み出した。


 ここで俺は違和感を感じた。


 もしドラグラム神繋文字が本当に“文字”の概念を持っているなら、重ねて書いたり順番が適当でも成立するのは些か不自然ではないかと

 ここで俺が思いついたのは2つの可能性。

 1つはドラグラム神繋文字は地球で言うところの漢字の部首のような物であること。書き順は関係なく、結果的に出来上がる重なった文字が重要で、金偏のように単体でも意味を成し、他と組み合わせると別の意味を成すような文字もあり、また組み合わせの傾向が見られたことからも俺はこの考えに行き着いた。

 2つ目が、文字とかそんなレベルではなく、1つの文字に複数の意味が込められている場合。全く性質の違う現象を発生させる理由を説明しようとした時、俺はこの可能性に思い至った。所謂連想ゲームみたいなところがあるのでは?と思ったのだ。


 まず1つ目に検証したのは部首説。ドラグラム神繋文字を部首として捉え検証し直した。結果から言えば、組み合わせの性質を持つことはほぼ確信したがやはり性質矛盾の問題を説明できずに断念した。


 次に2つ目の連想ゲーム説で検証した。そして最終的に俺は性質矛盾の問題をなんとか自分で納得できるようになったことから、2つ目の説であっていることをほぼほぼ確信した。

 例えばイーンアルフを例にとってみた時、俺は最終的にこの文字を火を表す文字ではなく、『燃焼』『熱』『赤』『青』の4つの概念を内包している記号と結論づけた。


 ドラグラム神繋文字は言うなれば、複雑化しすぎた連想ゲームだ。一つ一つの文字が複数の要素を内包しており、その中で最も関連づけやすい事象が適応されている。

 例として『燃焼』『熱』『赤』『青』『地』『光』『白』の内、出来るだけ多く自由に選びとって連想できる事象を言ってください、と言われた時…………大方の人間は『燃焼』『熱』『赤』『光』『青』などから“火”を連想しやすいだろう。

 イーンアルフは既に単体でも火を連想しやすい概念が揃っているので、故に火を表すと勘違いされた。では冷蔵庫の魔道具はなぜイーンアルフを用いるのか。それにはドラグラム神繋文字の複雑なルールが絡んでくる。


 そしてそれを簡易に纏めると以下3つだ。


❶ドラグラム神繋文字は複数の概念を持つ

❷内包する概念の中で優先順位がある

❸ドラグラム神繋文字の中でも優先順位がある



 わかりやすく説明すると、先程の要素がたくさん並んでいる状態を思い出して欲しい。だがそれを黒地の紙に書き写して行く時、色を変えたらどうなるだろうか。例えば『燃焼』『熱』などは真っ白のペンで、『地』などは黒に近い色で書いてみる。

そしてパッと見せられたら、誰でも目立つ要素の方に注目するのは当たり前のことだろう。

 少しわかりずらいが、イオン化傾向として考えても良い。それが一つの文字の中でも序列があるのに別の文字を跨いで複雑な序列があるからドラグラム神繋文字は厄介なのだ。冷蔵庫の魔道具も、イーンアルフより一般的氷を表すルーウオメガスと言うドラグラム神繋文字の方が優先順位が高いために火の要素が薄まっているのだ。

 この場合、冷蔵機能にはイーンアルフの『青』の要素が絡んでいるが、俺は過度な冷却をせずに済んでいるのはイーンアルフの『燃焼』などの要素が妨害しているからでは、と睨んでいる。

 文字の組み合わせによる効果の変質などはまだ検証中だ。


 しかしながら、俺の部屋のランプ型魔道具然り、城内は防御用のとっても高価な魔道具が複数設置されているのでドラグラム神繋文字のみを解析しサンプルを増やすことは難しくなく、防護や諜報、罠系に用いられるドラグラム神繋文字の研究はかなり進んでいる。



 まあ、ドラグラム神繋文字だけでも魔法陣完成ではないので次の工程に移る。



 やっとこさドラグラム神繋文字を書き込んだら、次は円と円の間のスペースに古代から伝わるマアステル啓告文字という楔文字を書き込んでいく。機構の完成の次はそれを制御するプログラムを用意しなくてはならない。順番が逆な気がするが、錬金術はこの順番の通りに行う必要がある。このマアステル啓告文字はドラグラム神繋文字よりも解析が進んでいて、翻訳辞書的な物もある。

 このマアステル啓告文字も一種の表語文字なのだが、デブータの部屋にあった研究書によると別の言語でもいいらしい。簡単に言えば、PC言語がいくつもあると言えばいいのか。個人の好みで別れるらしいが、どれも複雑だ。

 特にマアステル啓告文字は『複』と『復』みたいな僅かな違いの文字が10種あるとかザラで、書き間違いしまくるので、このマアステル啓告文字が原因による魔道具の暴走、事故が発生しやすいらしい。


 おかげで俺のイライラ係数はグングン上昇し、マアステル啓告文字以外の解説書は何か無いのかと探したが他言語は概略しか載っていない。そこでふと気になる記述を見つける。何故ドラグラム神繋文字は世界共通なのにシステムを司る言語は共通ではないのか。もしかすると古代語である必要ではないのでは?………そんな記述だ。


 しかし実際のところ現代での文字は通用しなかった。この世界での現代文字はアルファベットのように音素文字。プログラムに使う言語の様にそれそのものが意味を持つことはない。…………ここまでくれば勘のいい人では気づくかもしれない。今日日ファンタジーで妙に活躍する『漢字』使ってみようと俺はそこで思い至った。


 あの時は非常にワクワクした。それは今迄の中でもかなり強いワクワクだ…………そしてうまくいかなかった時の落胆も、俺は忘れない。


 魔素の流れがあるのに何故か反応しない魔法陣になってしまい、魔素がながれ一瞬成功したと思っただけに思わず落ち込んだ。だが俺は諦めなかった。流れ自体はあったからな。どうにかして漢字を使えはしないか検証した。


 そしてその答えは割と早く出た。

 『漢字』はただ書いてはいけない。そう、漢文の様にルールがあるのだと気づいた。漢文はそのままでは日本人では読みづらいので返り点やレ点などを実際は入れて行くのだが、陣も同様でマアステル啓告文字のいくつかの文字をそれらの記号として使用してみた。すると徐々に魔素の流れが整っていった。

 まるでパズルゲームでもしてる気分だったが、本当に大まかな文の構造が漢文に近かったので割とドラグラム神繋文字ほどは滞りなく、ある程度体系化できた。できてしまった。


 この様な複雑な工程を経て作り出される魔法陣だが、魔法陣を描くことに自体にも、特殊なインクを用いたり、描くための台座にも拘らなければならない。簡単な魔法陣なら紙でもいいが、最後の工程においてだいたいは性能が落ちる。


 そう、魔法陣は完成しても続きがある。

 最後に魔物を殺した時に取れる魔石に魔法陣を封じ込めなくてはならないのだ。

 この世界において魔法やスキルといった不思議パワーが使えるのは人間だけではない。中でも死亡時に魔石と呼ばれる結晶を体内から産出するファンタジー生物を魔物と呼ぶ。魔石はいわばバッテリーだ。この世界において炭やら何やらといった燃料資源以上に必要とされる資源だ。


 LDOではドロップしなかったし登場もしなかったが、魔物を倒すと何故所持金が増えるか、その謎の答えが魔石ではないかと思ったりする。石油同様、使える人に渡さなければただの綺麗な結晶に成り下がってしまうのが魔石という物質だ。主人公だって冒険中にこんな複雑な錬金術を一からやってる場合じゃないから魔石は全部売っていたのだろう。というより、色々と調べてみると魔石自体が国を跨いだ共通貨幣としても使用できるらしい。


 そんな魔石だが、こいつは魔法陣を内部に転写することで魔法の再現が可能になる。転写自体は実は簡単で、魔法陣の等級に見合った魔石を魔法陣中央において魔石に魔力を流し込む…………以上だ。本物のデブーダでもわかるシンプルな工程である。


 ただしこの魔法陣を形成する物が紙や木材だったりすると一瞬で炭になるし、地面自体に書き込むと魔法陣の精密さが落ちる。では何が1番適しているか、それは金属だ。それも出来るだけ物理的にも魔法的にも丈夫な金属だ。


 もう一度言う…………金属、だ。


 この世界の魔法的金属は、地球の金属の様に簡単に鋳型を作って大量生産可能、みたいな素直な金属でもない。一つ一つ丁寧に金属を彫って精密な魔法陣を描く必要があるのだ。


 魔法陣が高難度な物ほど、扱いの難しい金属を要求される。

 折角完成した魔法陣も、金属整形可能なレベルまで解像度を落とさないと机上の空論扱いだ。だが、俺の場合は大地魔法がある。一度下書きした紙を金属プレートの上に置き、線に合わせて凹ませる程度ならできる。


 どんな金属だろうがLDOじゃ全部ショートカット生成できるレベルまで魔法は極めたし、1日7つ程度なら無理なく魔法陣の金属プレートは創れてしまうのだ。

 あとはそのプレートの上に魔石(綺麗な結晶なので宝飾品としても利用価値がある。なのでデブーダがお強請りしてもそこまで不思議じゃないので取り寄せは楽だった)を置いて転写。


 これにより、ほぼ古代級の高度な物を創り出せる様になった。

 中でも古代級魔法具の解析を入念に行いなんとか完成させた魔素収集・増幅器と魔石充魔素器は最高傑作だ。魔石は無限にエネルギーがあるわけではなく、内部の魔素が無くなればただの石ころになってしまう。この時の最大保持魔素量が等級に関わってくるのだが、古代級の魔道具はエネルギーの再充填がほぼ必要ない。

 今では考えられない超高度な技術らしいが、それを形だけでも俺は再現できた。


 それができれば魔石の心配が減ったので、結界系や探知系の魔法陣を次々と完成させてこの部屋をガチガチに守っている。そして今、俺が挑んでいるのは電気エネルギーの使用だ。


 電気の発生の大まかな原理は高校物理を学んでいればわかる。

 先の2つの傑作、そして物を回転させることのできる魔法陣があれば、強力な磁石も魔法で自作できるのでモーターの原理で発電はできると考えたのだ。

 たかがモーター発電、されどモーター発電。正直に言えば電気エネルギーを蓄電しておく魔道具を作る方が困難だった。

 え、電池の作り方?そんなラノベの超人主人公じゃないからそんな実用化レベルの電池の作り方なんて知らねえよ。むしろ誰か教えてくれ。


 魔法陣に電気の要素を掻き集めて、魔石充魔素器と魔素収集増幅器の技術を転用してようやく電池擬きができたんだ。先人達の知恵ありきの発明なので、過去の天才様様だ。一から作ってたらまず完成に漕ぎ着けなかった気がする。

 現状、電気の使い道は車輪を回すとかその程度だが、クリーンエネルギーには違いない。一々魔物殺して魔石を用意したりとかが必要ないので、ちゃんと使えれば色々な道具のコストが下げられる気がする。ただこの世界に関する常識が未だあやふやな俺でもヤバい技術であることはわかっているので公表するつもりは無い。


 あ、言い忘れていたが、魔法陣封入済魔石はただそれだけだと使いずらいので外枠となる形も当然作る。魔石剥き出しじゃ危険すぎる上に盗難の危険性とかもあるからな。





 ここ最近はずっと防御か諜報か感知用の魔道具しか作ってないが、自分の部屋くらい安心安全が保障された状態にしたいと思う気持ちが先行するのでしょうがない。今日も天井裏の密偵さんは頑張っている様だが、その努力が報われる日が来るのだろうか。こられちゃ困るんだが、なかなか排除もできないしさっさと諦めて欲しいものである。


 本当は武器とか作りたい気もするんだがな…………そっちに手を出し始めたら歯止めが効かなそうなので今は必要に思えないし我慢している。せいぜい作っても迎撃用の罠くらいまでだ。


 はてさて、そんな殺伐とした現状と表裏一体な錬金術だったが、今日は前から作ろうとしていたものを作ろうと思う。それは素人でも頑張れば作れそうな器具…………そう、ダイエット器具だ。


 と言っても最も重要な回転機構を再現するのに必要な魔法陣はほぼほぼ完成済みなので、あとは形にするだけ(これも十分大変だがここでも大地魔法が役立った)。

 今回俺が作ったのはダイエット器具として知名度のあるロデオマシーンとルームランナーだ。


 ルームランナーよりロデオマシーンの方が座席の問題などがあったが、そこは粘土系の物質で誤魔化した。いや、実際のところケツの脂肪がクッションになってるだけだと思うが一先ずは使用できる最低限度は満たした。


 俺は恥ずかしい話だが元々努力家という言葉とは縁遠い性格をしている。基本的に単調な仕事をコツコツ続けることが好きな性格ではない。だがダイエットは1日の妥協で3日分目標まで遠のく物だと思っている。ダイエットに妥協を持ち込んだ瞬間、それは後に更なる妥協を招くのだ。こうなったら負のスパイラルは完成しリバウンドフラグまで立ってしまう。

 だが今の俺にはプランナーがいて励ましてくれたり、どれほどの痩せたかも一切数値として確認できないので俺の努力の成果が明確に実感できないし、部屋の中をずっと往復して早歩きするのは飽きてきた。


 ならば、もう強制的に走るようにすればいいのだ。

 ルームランナーという器具の上で、巨大な砂時計を見ながら走り続けるのだ。普通に往復して走っていると何往復したか忘れたりペースも緩くなってしまう。かといって時間で決めるとどれくらい走ったかわかりにくい。その点、ルームランナーは強制的に一定間隔で走るしかなく、砂時計で終了時刻もわかっているので後半の予定も立てやすい。


 今のところは変速なんてできないが、時速6km/hぐらいのスピードになるように設定してある。これで約2時間ずっと早歩きだ。

 正直に言って後半は気持ち悪くなるし腹が痛いし疲れすぎて逆に食欲失せるが、それでいいのだ。この贅肉とさっさとおさらばするには辛くてもやるしかない。階段をおっかなびっくり上がる生活はもうたくさんだ!


 そしてそんな俺でも今日は動きたくない、そう思った時の伝家の宝刀がロデオマシーンだ。座ってるだけでいいのだ。それで痩せるのだから儲けものだ。ただ長時間やると確実に酔うこともわかっているので多用はしたくない。

 それにルームランナーは台座を用意しておけばより安定して本を読みながら走れるので、やはりルームランナーが主流になるだろう。ロデオマシーンはそんなに揺れてないはずなのに贅肉に振り回されまくるから辛いったらない。たぶん普通体型の人ならちょっとした遊び道具だ。


 こうやって自分の身を守る為以外の魔道具を作ったのは初めてだが、作ろうと思えば思うほど地球における過去の開発者達がいかに素晴らしいかよくわかる。俺の場合はインチキじみてるし、できてせいぜい回転機構の開発くらい。


 いつか、いつか何の憂いもなくこうした生活用の魔道具だけを趣味で作れる日が来るだろうか。いっそのこと雲隠れできればいいのに…………俺は絵空事を思い浮かべて深々と溜息を吐き出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


補足

▶︎地の文ではくどくなるのでこの世界の魔法について


この世界の人間はほぼ全ての人間は魔法を使えます。ですが使えると言っても、戦闘に使えるレベルから日常生活にしか使えないレベルまで個人によってその度合いは千差万別。


平均として火属性でいえば着火、水属性でいえば水の生成、光属性でいえば発光などゲーム的には基礎中の1番基礎の魔法しか使えません。

その中でも稀に得意な魔法属性を持って生まれる人々が存在し、戦闘に使えるレベルの魔法が使えるようになります。

2属性も得意な魔法があれば一生食うには困らず、得意な魔法が上級属性になればもっと希少になります。


主人公はここら辺の常識がまだわかっていません。


誰もが戦闘に使用可能なレベルで魔法が使えるわけではなく、数字にすると全体量の5%程度しかいません。



実績:錬金術と魔法の融合!

錬金術を用いて新たな技術体系の構築に成功したよ、おめでとう。でも解説が長いよ自重しようね


実績:新しい試み(漢字)

チートフラグはビンビンだね!さらにここから自重は消えていくぞ!



要約:錬金術でルームランナーとロデオマシンを開発した!錬金術は主に2種類の記号体系を利用する超絶面倒な学問だぞ!主人公はそこにファンタジーでたまに活躍する漢字を活用し始めたぞ!

















裏実績:(´・ω・`)あやまって?

後書きで済ませられる回とか頭おかしいよ?これはお詫びが必要だよね?


ということでストック無視で本日も2話分更新します(血反吐)

(´・ω・`)14話は本日19:40頃に出荷よー

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[一言] 「実用化レベルの電池の作り方」 おすすめは備長炭にアルミホイルを巻いて中に少しの塩水を入れたものです アルミホイルの端を導線で繋げば使えるはずです
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