1話 おきのどくですがあなたのぼうけんのしょはばぐりました。
初めましてミニ丸語です。
感想やブクマ、レビュー、評価をしていただけると非常に嬉しいです。
この作品をどうかよろしくお願いします。
「よっしゃ、遂に称号完全制覇…………!」
もうこのエンディングロールを見るのは何度目だろうか。昨今、アプリのゲームやMMOタイプのゲームが増えていく中、あえてMMOではないアクションRPGゲームが発売された。
そのゲームの名は『レジェンドドラゴンズオデッセイ・パーフェクト』
通称LDO・P。
商売下手と揶揄されるほど買い手のことを考える「ISK」という会社が制作しているソフトで、1作目から3作目が発売されていてどれも高い評価を獲得していたLDOシリーズだが、更にそれをリメイクし1作目から3作目までで明かされなかった謎を解く四作目にあたるシナリオを組み込んだLDOシリーズの集大成。それが「LDO・P」だ。
新しく販売された機種に向けて一作目からすべてデザインを一新しており、さらには追加ストーリーも実装。すでにクリア済みの人が購入しても楽しめるように工夫が施されていた。それでいてお値段11000円なのだから会社が倒産しないほうが不思議である。
いくらすべてを一から作っていないとはいえ、長編RPGを4作品、しかも一つは完全に新しいストーリーなのに、11000円である。
精巧で凝った作りのゲームシステムとやりこみ要素。
MMOではないからこその重厚なメインストーリーとそれを引き立たせるサブストーリー。
ルート分岐も多数用意され、その全てをやり尽くすのはとても時間がかかる。しかも『LDO・P』はシリーズのシナリオ同士を連結し、更にシナリオが広がる頭のおかしい(誉め言葉)ワールドシェアストーリーシステムというとんでもないシステムを実装。
一作一作がすでに神ゲー級の内容なのにさらにそれを3段階ぐらい進化させてきたのである。おかげでもはや1作目~3作目までも完全に別作品と評価していい出来栄えだった。
だが俺はやりきった。LDOに心奪われ、攻略サイトなどを見ずに自らの手で全てのエンディングを見て、さらにすべての実績を開放することができた。
「あー、眠い。でもベッドで寝ないと身体が…………」
連休の間ずっとやりこんでいたが、これでようやく解放された気分だ。俺は興奮と長時間画面とにらめっこしていたことで疲労が溜まり湯だったような頭を押さえつつ、ふらつきながら椅子から立ち上がりベッドに向かおうとする。
だが長時間椅子に座り液晶画面とにらめっこしていた俺の体は思ったとおりに動かない。もつれる足と失うバランス感覚。目の前に床が迫り来る、否、俺が床に倒れ込んでいるわけだが手さえ動かず…………そして俺は顔面を強かに床に打って激しい痛みが額から脳を突き抜けて視界が真っ暗になる。
◆
「うぉっ!!」
そこで俺は飛び起きた。
長い睡眠をとり、さらに二度寝をした後のようなボンヤリとした感覚。
ベッドに再び倒れこみ目を瞑り、俺は再び飛び起きた。
ここは一体何処なんだ、と。
まるで世界史の教科書の写真で見るような宮殿の内部のような豪華絢爛な部屋。
一人暮らし用のアパートの一室ではなく、無駄に広く用途不明な調度品なども置かれている。いや、問題はそれだけではない。
なんか壁際にクラシックなメイドさんがいっぱい控えている。
「お目覚めでしょうか、殿下?」
そして、そのうちの1人が俺に話しかけている。メイドとは思えない異様に綺麗な人だ。いや待て、殿下とはどう言うことだ。
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殿下(でんか・てんが、英:Highness)
殿下は、皇族・王族等の敬称。「殿舎の階下」の意味で、中国を起源とし、同一国内の称号としては皇帝・天皇等に対する陛下より下位に、高官に対する閣下より上位に位置付けられる。漢字文化圏で皇帝に臣従する(冊封下にある)国の国王や皇族・王族に対して用いられ、日本では摂関にも用いた。また、Imperial Highness, Royal Highness等、漢字文化圏以外の国の君主や王族などに対する敬称の訳語としても用いられ、この場合には必ずしも陛下や閣下等と上下関係にはない。
Wikipediaより抜粋
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そこで鋭い頭痛がして自分以外の、いや自分本来の記憶が見えるというより脳内に再度焼き付けられていく。そして俺は愕然とする。
細身だった手はムッチリとし、下を見れば脂肪で膨れた腹。深くベッドに沈む体の重いこと重いこと。
「あー、すみま……(いやいや、“俺”の喋り方はこうじゃないのか。そのうえ意識してみれば、日本語ではない言葉が自分の口からスラスラと…………まあ、それは今は後回しだ)おい、鏡を持ってきてくれないか!」
「……かしこまりました 」
一拍間があったが表情を動かさなかったのは宮仕えのメイドだからか、“俺”だったら『もってこい』というところを妥協して『持ってきてくれないか』と言ったのだがやはり違和感があったらしい。だが俺にとってこのメイドは“初対面ではないが、初対面のようなもの”。そして俺は庶民な日本製社会人だった。命令口調で誰かに話しかけると言うことにえらく抵抗があるのだ。
メイドは周りが金細工でゴテゴテな、“俺”の趣味には到底合わない鏡を持ってきてくれる。俺はそれを受け取ると(思わずありがとう、と言ってしまったが流石のメイドも目を見開き俺の事を三度見していたが無視した)、俺は溜息をつきそうなのをグッとこらえた。
ぽっちゃりとした頬と垂れた顎肉。首もムッチリと太った色白な肌。
そして俺はこの顔を見るのは初めてではない。むしろよく知っている。
デブーダ・ペンドラゴン第三皇子。
LDO・Pにて新シナリオである4部、攻略チャートで言うところのM1ルートの主人公とヒロインの間をあの手この手で引き裂こうと妨害する典型的な三下系名物悪役皇太子である。
でっぷりと太り、わがままで横暴で自分勝手。そのくせプライドだけは人一倍高く、思い通りにならないことがあると癇癪起こして暴れるどうしようもないクズである。
名前からして悪意ありとはLDOでもよく言われている。
デブーダ、要するに「デブだ」、とシンプルに伝えてくる悪意100%の名前だ。
そしてこのデブーダが活躍するのが1番難易度の高いM1ルートだ。
LDO・Pでは第一作目、つまり第一部の時点でストーリー分岐が開始。ストーリーの終わり方次第でシナリオが連結された第二部、二作目の環境や主人公の能力が変わる。そこから更に分岐して三部、三作目も大幅に分岐。この時点で旧三作目と全く異なるシナリオが大枠で8つ、細かく分けると24も用意されている(本当に頭おかしい)。
それを踏まえたうえで始まる4部は、スタート時点で話の舞台も主人公すらも異なる。そこから更にストーリー分岐が発生するのだ。一つのソフトで4年間遊び続けられるのもこのゲームくらいだと俺は思う。
4部のストーリーは分岐によってまず3人の主人公がいるのだが、それぞれの主人公に個別に複数のヒロイン(ギャルゲーっぽい要素がある)がいる。その中でもベストエンドとされるM1ルートのヒロインは貴族の令嬢なのだ。見た目はお淑やかなのに御忍びで街を出歩いたりするちょっとやんちゃなところがある子でもあり、人気投票では1位になるほど可愛らしい。
主人公は今や伝説とされる第1部の主人公の血を引いているとされている、貧乏貴族の末っ子。ヒロインが調子に乗って街の外にまで出て魔物に襲われたところを助け交流を持つようになり、主人公とヒロインは惹かれあっていく。
そんな彼女に言いよるのが、デブーダである。
彼女の可愛らしさに目をつけて、側室になれと迫り続けるのだ。
彼女は辺境伯の一人娘で、またその辺境伯も身分を超えた皇帝の良き友人であるために皇帝が密かにその横暴を抑え込んでいるが、さらに厄介なのがデブーダの母である第2皇后。こいつは隣の大陸の国から嫁いだ奴なのだが、その国が発展しているからと言ってペンドラゴン帝国を蔑み、デブーダのそっくりのわがままと横暴さで、息子の暴走に積極的に手を貸すような大馬鹿である。
LDOのMルートでは、第1皇太子が不治の病で亡くなり、第2皇子と第3皇子の激しい後継者争いがバックストーリーにある。第2皇子は非常に有能かつ美男子だが妾の子供。第3皇子デブーダはどうしようもない低スペックの産廃だがバックに母親、つまり大国が付いている。
そしてデブーダは目の上のたんこぶである第2皇子が大嫌いで、絶対に皇帝になどさせたくない。だが第2皇子もそれには気づいており、うまくかわしている。第2皇子はそんな第3皇子を鬱陶しく思っていた。だが彼には自由に動かせる味方がいなかった。そこで白羽の矢が立ったのが主人公。
第2皇子はなかなか強かで、M1ルートでは身分差のある主人公とヒロインとの間を取り持つ代わりに後顧の憂いを断つためにも共にデブーダをやっつけてしまおう、とヒロインの父を通して接触してくる。
そこから紆余曲折はあるのだが、Mルートのベストルートへつながるチャートでは、最後にクーデターまで起こした第2皇后とデブーダは主人公などの活躍によって敢え無く取り押さえられ、頼みの大国もクーデターなど起こした第2皇后には愛想つかして手を貸さず(というより政治的配慮から知らぬ存ぜぬを突き通し)、彼らは炭鉱送りにされる。
主人公はその活躍を讃えられて貴族位を獲得しヒロインと結ばれる。
だが世界にはまだ魔王の脅威が残っており、主人公は魔導師としては天才級の才能があったヒロインと次の旅へ出発する…………と言うのがM1ルート前半。
第2皇子も無事、次期皇帝としての地位を確固たるものとしてベストルートを歩めると資金援助なども行ってくれたりするので前半のベストルート確定まではかなりキツイが、そのお蔭で中盤・後半は結構楽にいける。
そして魔王を倒した後は稀代の英雄として祭り上げられ爵位をもらい、またペンドラゴン皇家の懐刀として、次期皇帝の親友として、満を持してヒロインと結婚。エンディングロールの最後では第2皇子とその妻、主人公とヒロインが机を囲んで、お互いの息子と娘が仲良く手を繋いで遊んでいる様子を見ているというムービーで終わるのだ。
このルートを歩むためにはデブーダの妨害を全て封じなければならないのだが、小知恵ばかりはやけにきくド畜生なので、プレイヤーは幾度となくデブーダを罵ることになる。
またデブーダにまつわるサブストーリーも多く存在し、ここで得られた知識などはデブーダとの争いで結構に役に立ったり、うまくいくと内通者をゲットできて攻略難度を下げることができたりする。
下手をするとメインシナリオのラスボスの魔王以上に設定があり、その分こいつが炭鉱送りにされるシーンは魔王撃退よりはるかにスカッとする。何というか、魔王も実は色々な事情があって撃退した後も少し考えさせられるのだが、デブーダと第2皇后に関しては酌量の余地もなくこちらの心も全く痛まないクソさなので、それはもう画面前で『ざまああああああ!』と叫びたくなるのはしょうがないのだ。
そのデブーダに俺がなってしまった。
いや、確定かは決めつけるのは早計かもしれないが、俺の横に控えてるメイドだってルートでは内通者の1人になる人物で地味に登場人物ランキングでも上位に来てた人だし、デブーダの顔も4部で大苦戦した俺が見間違えるわけもない。
難易度設定が一つだけおかしいMルートのベストルートで炭鉱送りにしてやった時など椅子を蹴倒して立ち上がりざまああああああ!と叫んで翌日お隣さんに昨夜は何かあったんですか?と聞かれるほどだったのだ。お隣さんには黒光りするカレとの長い激闘の末つい叫んだと説明したが、あれは嘘だ。お隣さんまじでごめんなさい。
いや、そんなことはどうでもいい。何で俺がデブーダになってんだとか、色々疑問はある。今にも頭が弾けそうだ。ムカつくのはこの状況でも空いてる腹か、食い意地はってるデブーダに関してか。
俺はもう何が何だか分からず、メイドに「もう少し寝る、朝食はいらん」と告げて(見事な5度見をされたが気にしない)ベッドに潜り込んだ。だが一向に眠くなりもしない。腹はなるばかり。頬を思い切りつねったが痛いだけ。
夢じゃない。夢じゃないなら最悪だ。
俺はどうやら本当にデブーダになってしまったらしい。
その事実は重く俺にのしかかった。
◆
考えても落ち込んでも、俺はデブーダであることに違いはなかった。
この世界がどこまでLDOと合致しているのかはわからない。だが俺に焼き付けられた、実際には思い出したデブーダの記憶は俺の認識と何の違いもなかった。現王から第1皇子 、つまり皇太子や第2皇子の名前やその他あれこれの知識はピシャリと一つの違いもなくLDOと同じだった。
そして俺は最悪事態に陥ってないことに ホッとした。今のデブーダは17歳。原作では18歳前後で登場するが、色々と余裕があるというわけだ。
つまりは俺がちゃんと考えて行動するなら炭鉱送りルートは回避できそうだ。
だが、そんなことより直近の問題がある。
このデブ体型は動きづらくてしょうがない。歩くときに腹で足元が見えない恐怖をまさか味わうとは思わなかった。
このクソ豚皇子はわがままばかりで皇族としての教育すらまともに受けようとしないせいで不健康でデブデブなのだ。だが俺がそのままでいる必要はない。つまり何が言いたいかと言えば、炭鉱送り回避も当然としてまず痩せたい。だらしのない肉体であることが苦痛だ。
デブーダはこのでっぷりとした身体に慣れてしまっているために俺も肉体的に違和感は感じないが、精神的に違和感大有りだ。歩くたびに恐怖を覚えたくない。
さて、そうなるとすべきことはダイエットだ。
ダイエットと言うといの一番に考えつくのは運動だが、実はダイエットに極めてハードな運動は必要ない、というかこの体では現状では無理だ。
改善すべきは食生活。このデブーダ、記憶の限りでは肉とパンとおやつばかりで野菜をちゃんと摂っていない。
野菜は食事の一番最初に取ることで糖の吸収を抑え、またよく噛む野菜にしておけば満腹中枢も刺激され食事の量を抑えておける。
肉も牛ばっかり食べている記憶があるが、鶏肉が一番健康にいいと俺は思っている。炭水化物は朝と昼に摂取して夜は控えても良い。間食にケーキなどをどか食いしていたようだが、腹が空くなら野菜でも食ってればいい。
俺はよく洗ってちぎっただけのキャベツとかスルメを食べたりガムを食べたりして間食を控え、夕食の量も控えていた。お陰で父のように小太りにならずに済んでいる。
運動もとにかくランニングすればいいと思いがちだが、それは違う。
重要なのはインナーマッスルだ。チンケな健康番組みたいな言い方になってしまったが、短距離を息切れするまで走るより、遠距離を同じペースで早歩きした方が身体には良いし、この運動不足肥満体型にも無理のない運動だろう。
後は全身のストレッチも欠かせない。
17歳なのだ。何だってできる気がする。
デブーダになったと思った時は絶望したが、逆に考えれば王族なのだから勝ち組とも言えるし、余計なことせずに静かにしてれば皇弟として優雅に過ごしていける。
いや正直未だに混乱しているには違いない。だが絶望しても悲観してもしょうがないのでポジティブに行くしかない。
そうだな、後は…………主人公がもしいるのなら、会ってみたい。
なんなら魔王云々に関しては全面協力してもいい。と言うより魔王云々を倒してくれなきゃ皇帝弟生活が優雅に送れない。第2皇子との顔つなぎをしてやってもいいし、むしろヒロインとくっついてほしい。
俺はMルートのヒロインが一番好ましいが、俺が好きなのはヒロイン自体というよりかは主人公×ヒロインのカップリング。むしろ理想のカップリングが間近で見れると考えると夢の世界なのかもしれない。あと一番きついルートだけあって思い出補正はかなりかかってると思うけども、それでも良いと思えるのがLDOの面白さなのだろうか。
よしよし、いい感じにポジティブになってきた。
ではやるべきことを纏めよう。
❶生活改善・痩せる
❷炭鉱送り回避(従者など周りの人間関係改善も含めて)
❸主人公とヒロインをくっつける
❹魔王云々に関して主人公に協力
纏めればたったの4つだ。加えて現状は❸と❹は今はしなくて…………あ、待てよ。今しがたとても面倒なことに気づいた。
ヒロインが街によく出て行くのは、生来の性格だけでなく強烈なアプローチをしてくるデブーダと出来るだけ接触しないようにするため、という理由があったはず。❷を遂行するためにはヒロインとの接触をしなければいいと考えていたが、それでは❸が達成されないのでは?
それに❸と❹は連動している可能性もある。所謂バタフライ効果というやつだ。ヒロインとくっつくことで魔王攻略の難易度はグッと下がる。❸はただの道楽じゃなく自分の人生にも影響がある。
そして思い返せばデブーダの妨害があったからこそ、彼らはより一層強い絆で結ばれた感も大いにあるし、デブーダと第2皇后が失脚したことによりその取り巻き達のクソどもも粛清できたおかげで国力が上がり、主人公への支援も大きくなっていた。
❷の遂行と❸❹の遂行の食い違いが発覚した。
やべえぞ、これは無理ゲー臭い。いや、演技でもいいからヒロインにはちょっかい出して、クーデターを起こさなきゃいいだけなのか?いやいや、クーデターをしたからこそ取り巻き達も言い逃れができずに粛清されたんだ。
…………いや、前提から変えればいい。俺が最大限に回避すべきは炭鉱送り。帝位なんてこれっぽっちも興味ないというか面倒くさそうだし、最悪僻地へ送られようと不満はない。
ならば、俺のやることなど決まってる。
俺は炭鉱送り回避のためにさっそく動き出した。
実績:あT亜rα死1目zAめ
あんたのぼうけんのしょはバグったぞ!リセットとセーブ無し縛りだけど頑張れ!
※LDOはウィッチャーやスカイリム、ドラゴンクエストあたりをモデルに考えています