第72話 決闘3
(やはり手強い……。)
態勢を整えてから、アルスは剣を構え直す。
吹き飛ばされたこともあり、両者の間には十数m程の開きがあった。
(……これ以上の様子見は悪手だな。)
そう判断してアルスは意識を集中させ、全身に闘気を巡らせていく。
闘気による身体強化である。
(君には入学してからずっと負け続けてきたけど、今日だけは勝たせてもらうよ。)
(来たわね。)
アルス王子から発せられる闘気を感じて、サファは眉をひそめる。
闘気による身体強化を施した以上、ここからが本気の闘いになる。先程までの打ち合いなど、軽い挨拶のようなもの。強者同士の闘いは、ここから一段上のステージへと移行する。
(闘気を使われる前に、出来るだけ体力を減らしたかったのだけれど……仕方ないわね。)
闘気力に関してはアルス王子の方に軍配が上がる。
そして、身体強化をされた以上、こちらも同様に身体強化をしなければ勝負にならない。
故にこうも早く闘気を使われるのは、サファにとって痛手であった。
(あんな決闘を受けた以上、負けられないわ。)
サファは意識を集中して全身に闘気を巡らせた。
学園内にある闘技場を最も広く、近く見下ろせる場所がある。そこから見学出来る者の数は限られており、それは学園内最高峰の権力者、国内でも地位の高い有数の貴族、そして……
「如何でございますか?陛下。」
アスタルシア王国の国王であった。
エドワード・ヴァン・アスタルシア国王。
王族の血筋によく見られる金髪金眼で立派な髭を生やした男が、傍目から見ても最上級と理解できる椅子に座っていた。
齢五十を迎えたにも関わらず鍛え抜かれた肉体は、周囲の者にいまだ現役であろうと思わせる迫力があった。
「……うむ。バーンよ、お前はこの闘いをどう見る?」
エドワード国王は、真後ろに直立不動で待機している男に話を振った。
「はっ!率直に申し上げます。アルス殿下は持久戦に持ち込むかと。」
顔色と表情を変えずに答える男に、エドワード国王はさらに質問する。
「ほう。その理由は?」
「サファ様は魔力が圧倒的に高いですが、体力、闘気力に関してはアルス殿下が優れております。加護に関しましてはお二人の位階は拮抗…いえ、わずかにサファ様が上回っていおり、そこに結界も組み込まれてはアルス殿下に分が悪いことは明らかです。」
「故に消耗を狙うと?」
「はい。お互いに身体強化を施したなら、時間とともに減り続ける闘気が底をつくのはサファ様が先です。アルス殿下が勝機を見出すなら、そこでしょう。」
「ふむ。我が近衛騎士団長のお前がそう言うのなら、余もその考えに同意だ。」
「持久戦ね……」
「ああ。アルス殿下はそれ狙いだろうな。」
同じ頃、観客席にいるウォルス公爵夫妻は、国王と近衛騎士団長の考えとまったく同じであった。
「え、?なんでですか?マリー様?」
付き添いのメイド、メルがマリー夫人に問うと、
「そうね…まず、サファの結界剣術を掻い潜って攻めるなんて芸当、そうそう出来ないわ。あれは、盾や踏み台にするだけでは無いの。相手の動きを制限させることも出来る。例えば…相手の足元に小さい結界を作って、躓かせたりね。」
マリー夫人の説明をウォルス公爵が引き継ぐ。
「危険を冒してまで攻めても旨みがないし、何よりもあの結界剣術は空間把握に集中力、そして結界の構築に魔力を消費する。長時間使用するには向いていない。」
「そ、そうだったんですか。」
「ああ。そこにアルス殿下が身体強化をした以上、こちらも身体強化をしなければ反応が遅れてしまう。これで闘気力も使用させられている状況だ。」
サファは全身の身体強化が完了したのを確認すると、前を見据える。
彼我の距離は十数mはあるが、身体強化をした今の状態なら、一瞬で詰めることができる距離である。
(相手の狙いは持久戦。だったらこっちは長期に引きずられる前に叩きのめす!小手調も様子見も不要。余計な時間はかけずに一気に攻める!)
そう判断して足に力を込めて、一気に駆け出した。
(先手必勝!!まずは…)
サファの思考はそこで止まった。
眼前に既に剣を振りおろそうとしているアルス王子がいたからである。
結界の構築も間に合わなかったサファは、アルス王子の攻撃をまともにくらって吹き飛ばされた。




