第70話 決闘
晴れ渡る空。鳴り響く歓声。
闘技場に対峙する二人。
「今日こそ君に勝たせてもらう。」
金髪の前髪をかき上げながら、アルス王子はそう言う。
「サファ・ハワード。君だけだ。君だけは僕の思い通りになってくれない。」
「‥‥不快な思いをさせてしまったのなら、謝罪いたします。」
「いいや、違う。そういう意味で言ったんじゃない。」
「それでは?」
「王子という身分に生まれてから、大抵のことは僕の思い通りになっていた。僕が望んだことは手に入ってきた。だけど、君だけは違った。」
アルス王子は目を閉じて、過去を回想しながら呟く。
「どれだけ僕が声を掛けても、素っ気ない態度。誘っても常に断られる。だけど、そんな君だからこそこんなに惹かれたんだろうね。」
「‥‥」
「だから僕は決めたんだ。自らの力で手に入れるってね。」
そう言ってアルス王子は己の剣を掲げて、大声で叫んだ。
「この僕、アルス・ヴァン・アスタルシアはここに宣言する!!サファ・ハワード!君に、決闘を申し込む!!」
「決闘!?」
その内容に、誰もが驚愕した。
決闘をするということはお互いに何かを奪い合う場合、もしくは何かしらの怨嗟があることを示す。
「なんだ、アルス王子はサファ・ハワードに何を求めるんだ!?」
サファ・ハワードとアルス王子は特別に親密な関係ではないが、憎しみ合うような関係でもない。
ならば、この試合の決着で相手に何かを求める物があるに違いない。
「僕が勝ったら‥‥君が欲しい。僕の婚約者になってくれ!!」
「っ!!」
「キャ〜!!アルス王子〜!!」
「おお!ついにアルス王子が勝負に出た!」
アルス王子の投下した爆弾に、周囲の者は囃し立てる。
「おお〜っと!唐突な決闘の申し込みはなんと!アルス王子からサファ・ハワードへの求婚だー!!さあ、これにサファ・ハワードは何と答えるのかー!??」
とびきりのネタを前に、司会者も興奮して煽り出す。
「お、お兄様ったら‥‥」
「サファおねーちゃん‥‥」
実の妹であるシャルル姫は、恥ずかしさに顔を赤く染める。
一方、フィウルスは行く末を心配そうに見つめていた。
(この大衆の前でなんてことを‥‥)
当のサファは澄ました表情を保ちながらも、その内心では困惑していた。
別にこんな決闘など、受けなくても問題はない。しかし、周囲の者は熱気に溢れており、そんな冷めるような流れは許さないだろう。
(ほんとに、迷惑な人。)
王子の恋心は知っているし、光栄だとも思う。たが、自分はアルス王子と共になることを望んではいないのだ。
サファは考えを逡巡させてから、口を開いた。
「いいでしょう。その決闘、お受け致しますわ。」
「おおーー!!!」
「いいぞー!!!」
「受けたー!!婚約者になる決闘を、サファ・ハワードが受けたー!!」
サファの返答に会場中の者が盛り上がる。
「‥‥いいんだね?」
まさかすんなりと受けてくれるとは思わなかったアルス王子は確認する。
「ええ。しかし、私が勝った場合‥‥」
一呼吸置いて、サファは続けた。
「二度とそのような申し出をしないで下さい。」
「そ、それは‥‥」
「決まりですわね。」
有無を言わせないサファの圧力に、アルス王子はなす術なく了承した。
「これでお互いに賭けるものは決まりました!栄光と勝利を掴むのはどちらなのか!?それでは、最終試合‥‥」
アルス王子とサファはお互いに剣を構えて合図を待つ。
「始め!!」




