第66話 脱走
「そろそろ再開しにいくわよ。」
「ねえ、もう一思いに殺っちゃわない?」
学園の地下室へと向かう二人の女子生徒がいた。
「だめよ。情報を全て吐かした後、王国騎士の方に引き渡す手筈なんだから。」
鞭や棍棒など、物騒な物を持ちながら二人は話し合う。
「そうだけどさ〜。」
「しつこい。シャルル姫様からの命よ?」
納得のいかない様子に、相方の女子生徒は眦を上げる。
「もう、わかったってー。」
ふてくされた表情をしながら扉に手をかけて中に入ると、
「「え?」」
そこに魔族の姿はなかった。
強引にこじ開けられた檻の鉄格子が、何があったかを黎明と語っていた。
「うそ!?脱走!?」
状況を理解した一人の生徒は踵を返して駆け出す。
「姫様に報告よ!魔族が、逃げ出した!」
「わかりましたわ。由々しき事態ですね。‥‥サファ先輩。」
息を上がらせながら報告した女子生徒を労った後、シャルル姫はサファに目配せする。
「学園に張った結果に、破られた痕跡はまだないわ。」
今まさに起こっている、魔族の脱走も懸念していたため、結果は張った状態にしていたのである。
「‥‥ということはまだ学園に潜んでいますわね。恐らく、脱走してからそこまで時間が経ってないのでしょう。」
そう推測したシャルル姫は、懐から通信用の魔水晶と取り出して、
「ティリア。五星を全員集めてくださいません?」
「師匠、そこの角から二人の影を感知しました。」
「わかった。ライラ、こっちだ。」
フィウルスとライラは人目を忍んで移動する。
フィウルスの影にはエルシィが潜んでおり、「影感知」で周囲の状況を適宜フィウルスに伝えている。
「‥‥今、通り過ぎました。もう大丈夫です。」
エルシィがそう伝えた後、フィウルスとライラは物陰から姿を現す。
「よし。いくぞ。」
「は、はい!」
人間が魔族を助ける。
こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。
前を走るフィウルスの背中を見つめながら、ライラはそう考えていた。
――世界が敵になっても、僕は君を助けると決めたんだ。――
つい先刻交わされた言葉が脳裏に蘇る。
(ああ。ずるい人。)
抱きしめられて、真正面から言われて、拒絶なんて出来るわけない。
仄かに染まる頬。心が熱くなっているのは、きっと恋なんだろう。
ライラは自身の恋心を否定するのをやめた。
(私も、たとえ世界中が敵になったとしても、あなただけは‥‥信じてる。)
「っ!!師匠、学園の動きが慌ただしくなりました。恐らく、脱走に気づかれちゃったかと。」
「わかった!ここからは全速で突破する!ライラ!」
「へ?」
突然呼びかけられたライラは一瞬呆ける。
そして気づいたら、
「しっかりしがみついていて。」
フィウルスに抱えられていた。
「え、えー!?」
近い。あまりにも距離が近い。
先ほどまで抱き合っていたにも関わらず、フィウルスに抱えられたライラは身体中が火照った。
「こうするのが一番早いんだ。」
「そ、それはそうだろうけど‥‥」
「うう〜、いいなあ‥‥。」
影の中から様子を見て羨ましがるエルシィ。
「いくよっ!!」
「わ、わあっ!?」
突風のように駆け出す黒衣の仮面。
ライラを探していた生徒はその存在に気づくが、その速さに追いつけずにいた。
「やっぱり結界が張られているか!」
敷地の境界線に張り巡らされた結果の壁を確認するフィウルス。
突き破るしかない。
そう思い、足に力を込める。
その瞬間、
「っ!!」
「っ!!師匠危ないです!」
フィウルスの危機感知が働いたのと同時に、エルシィが警告を上げる。
急制止した先に飛来する何か。
着弾した瞬間に地を砕く轟音が鳴り、土煙が立ち昇る。
それは一本の槍だった。
「そこまでですわ!」
耳に響く、聞き慣れた声。
後方から現れたのは、ウェーブのかかった金髪の少女。その赤い瞳は敵意に染まり、こちらを睨みつけてくる。
その側には、気怠げな目をした短い青髪の少女。
さらに、水色の長い髪をポニーテールにし、凛とした佇まいの少女。
シャルル・ヴァン・アスタルシア
スース・テファイト
ティリア・アーチェ
3人の強者が、黒衣の仮面と魔族の少女に追いついた。
「っ!!あなた様は‥‥」
黒衣の仮面の姿を見て、シャルル姫は瞠目する。
「ハ、ハーエン山脈の‥‥」
その様子を見て、黒衣の仮面は言葉を発した。
「私はこの子を故郷へ送り届けようと思っている。」
「なっ!?」
さらに動揺するティリア達。
「‥‥それはなりません。あなた様には、助けていただいたご恩がありますわ。しかし、これに関してはどうしても譲れない案件ですの。‥‥どうかその少女をこちらに。」
ハーエン山脈の一件から、この仮面には恩があるシャルル姫だが、見逃すことは出来ない様子である。
「それは出来ない。」
そして、フィウルスとしても引く気はなかった。
だから、
「‥‥残念ですわ。心苦しいのですが‥‥」
「お互いに引くことが出来ないのなら、こうするしかない。」
両者互いに構え直す。
「ティリア、スースは遠距離から援護を。」
弓を構えるティリア。盾を展開するスース。
正面に槍をかざすシャルル。
そして、フィウルスは
「ライラ、私の側に居なさい。」
ライラを左手で抱き寄せて構える。
「「「え?」」」
この時、ライラ、シャルル、ティリア、スースの異口同音が響いた。
「そ、そんな状態で闘うつもりか、貴様!」
「‥‥あなた様の実力が高いことは承知しておりわすわ。しかし、私達もあれから力をつけたのでございますわよ?」
「ちょ、ちょっと、こんな状態で闘えるわけ‥‥」
あまりの態度に、抗議の声を上げるが、
「いいから、かかってこい。」
さらに挑発する黒衣の仮面。
その時、3人の少女の目が変わった。




