第62話 ライラの捕縛
真夜中。
ベッドで横になっていたライラは目を覚ます。
息を潜めて同居人の様子を伺うと、聞こえてくる規則正しい寝息の音。
物音を立てないようにベッドから離れて、机に着く。
今日も集めた情報を精査して、用紙に書き込まなければ。そろそろ黒鳥もやってくる頃だろう。
(これだけの情報があれば、対策は立てるはず。もう‥‥必要ないの。)
脳裏に浮かぶのは白い少年。
弱いくせに、他者を思いやる優しい性格の彼だ。
(もう‥いいの。終わったことよ。)
頭を振って無理やり忘れる。
自分がやらなければいけないのは敵との友達ごっこではない。
そうして、引き出しの奥に手を伸ばすが‥‥
そこには何も無かった。
(‥‥あれ?)
一瞬、呆けた後、
(無い!?どうして、確かにここに‥‥)
嫌な汗が流れる。
心臓が、不味いと鼓動を逸らせる。
嫌な予感が頭に響いた時、
「探しているものは、これですわね?」
聞こえるはずのない声。
そして、その声はよく知っている。
背中に冷たいものが走り抜けるのを感じながら、ライラは恐る恐る部屋の入り口を見る。
そこには、
この学園のトップに君臨する姫の姿があった。
いつでも戦闘ができる完全武装。
右手に携えている槍は切っ先をこちらに向けている。
そして、反対の左手には一枚の用紙があった。
「そ、それは!?」
見覚えのある用紙。
それは、ライラがこの学園で集めていた情報をわかりやすくまとめて書き記した用紙であった。
「魔族‥‥小人族のライラさん。」
「っ!!?」
(バレた!?どうして!?)
心臓が跳ね上がる。
「やっぱり、そうだったんだ。」
聞こえてくる別の声。
声のした方向を見ると、
そこには同居人の姿があった。
「夜な夜な何かしていたから、気になって見てしまったの。」
(気づかれていたのか!)
奥歯を強く噛み締める。
いつも気づかれてないと思っていたが、甘かったようである。
(それよりも、まずは逃げないと!)
ここまでバレてしまえば、後戻りは出来ない。
ライラは即座に判断して行動に出る。
「黒煙」
目眩し。
そして目指すは部屋の窓。
「逃しませんわよ!」
黒煙により視界が悪いにも関わらず、シャルル姫の槍がライラに襲いかかる。
「くっ!」
間一髪、槍の一閃を回避するライラ。
そのまま逃げの姿勢で、部屋の窓を蹴破る。
張り裂ける音ともに感じる、浮遊感。そして落下していく感覚。
「ウ、ウィンド・アーマー」
魔法を発動して風の鎧を身に纏い、落下速度を減少させていく。
「よ、よし!急がないと!」
地面に降り立ったライラは、すかさず駆け出す。
懐から魔水晶を取り出す。
緊急事態に備えた通信用の道具である。
「こ、こちらライラ!敵に間諜行動がバレた!今、撤退を‥‥」
手短に簡潔に内容を送りながら、学園の敷地を出ようとするが、
「んなっ!?」
そこには透明な壁が、学園を囲うようにあった。
「こ、これは‥‥結界!?ま、まさか!」
「そこまでよ。」
ライラの頭上から制止の声が飛ぶ。
見上げた先には、
「サ、サファ・ハワード‥‥」
現在、学園における正真正銘の頂点がそこにいた。
「ありがとうございます。サファ先輩。」
そして後ろから聞こえてくる、シャルル姫の声。
(ああ‥‥。こんなことなら‥もう少し夢を見たかった。)
諦観とともに脳裏に浮かぶのは、白の少年。
間諜としての任務も全う出来ないと知っていたら、もっと長い時間をあの少年と過ごしたかったと、本音が漏れてしまう。
(だけど、もう手遅れ。あの人も、いずれ私が魔族であることを知って‥‥)
嫌だ。彼にまであんな目を向けられるのは、耐えられない。
「大人しくついてきてくださりますわね?」
ライラは小さく、はい、と呟いてその場にへたり込んだ。




