第60話 荒立つ感情
「まあ。ライラさんですのね?よろしくですわ。」
「あ、は、はい。」
昼食の時間、ライラはフィウルス達とともに居た。
「ふむ。何というか普通の子だな。」
「可愛らしい顔してますよ〜?ま、私の方が可愛いんですけどねっ♪」
(ティリア・アーチェ、スース・テファイト、エルシィ・ガーデンにカイル・バンディッド。そして‥‥シャルル・ヴァン・アスタルシア。これほどの人達に近づけたのは好機よ。集められる情報は集めないと。)
愛想笑を浮かべながら、ライラは冷たい思考を進ませる。
少年の気遣いに対して裏切るような行いだが、ライラにとって何よりも重要なのは任務。
それに、
(‥‥どんなに優しくしてくれたって、私の正体を知れば、きっと‥‥。)
そう。今はどんなに仲良くなろうとも、彼らは敵。間違いのない敵なのである。
せめぎあう葛藤を、無理やり黒い考えで押さえ付けて情報を収集する。
(危険度の高い人物から‥‥)
それからもライラはシャルル姫達に、得意な分野、苦手な分野など細かい部分にもわたって質問をしていた。
そしてその様子を、桃色のショートカットをした少女が、感情の無い目で見ていた。
それから数日が経った、夕刻前の書庫室で、
「ライラがみんなと仲良く友達になってくれて嬉しいよ。」
朗らかな笑顔とともに、フィウルスはそう話す。
メイリィは今、教員から呼び出されており、書庫室にはライラとフィウルスの二人だけだ。
「‥‥別に、友達になったわけではありません。」
本に目を通しながら、ライラはそう切り捨てる。
「‥‥ねえ、ライラ。」
フィウルスはライラの顔を覗き込みながら、
「どうしてそんなに、人を信用出来ないの?」
と、心配な視線を送りながら問いかける。
「‥‥っ。」
ライラは奥歯を強く噛み締める。
信用?信用なんて出来るわけがない。
本当の事を知ったら、きっとあなたですら私に殺意を抱く。
「‥‥昔に何かあったの?」
「‥‥。」
昔?そうよ、昔よ。千年以上も前から、人類は私達を敵視して、根拠の無い憎悪を込めて虐殺してきた。
黒い感情が蠢く。
フィウルスの言葉がライラの胸の内に深く届いて、刺激し、閉じ込めていた怒りや憎悪が膨れ上がる。
それはフィウルスの言葉が届くようになるほど、ライラは心を開いている証左になるが、ライラはそのことに気付かず、頭に血が上っていく。
「ライラの力になりたいんだ。僕でよかっ‥‥」
「あなたにっ!!」
ついにフィウルスの言葉を遮って、ライラは立ち上がり叫ぶ。
「人類に分かるもんですかっ!?」
「ライ‥ラ?」
「昔も今も変わらない!!人類は、永遠に私達の敵だっ!!」
言ってしまった。
感情の昂るままに叫んだ事で、今度は急速に頭が冴えてくる。
(わたし‥‥なにを感情的になって‥‥。)
視線を向けると、驚いた表情のまま固まっているフィウルスがいた。
「‥‥わたしがあなたたちを信じることなんて、絶対にありませんから。」
そう言い残して、ライラは逃げるように去っていく。
廊下を駆け出す。
ズキズキと痛む胸。引き返して謝りたいと泣き叫ぶ心。
思い返してみれば、たった少しの日々。
そんな刹那の思い出が、こうまでも自分を苦しめるのか。
(忘れるのよ。忘れなきゃ。‥‥これで終わりよ。)
頬を伝う滴の理由を、ライラは考えないことにした。




