第59話 利用
数日後、
「その本、どうだった?」
「んー、あんまりでした。」
「あ!じゃあ、この本なんかどう!?」
「‥‥読んでみます。」
普段はほとんど生徒の出入りがない書庫室で、3人並んで机に座る人影があった。
フィウルス、メイリィ、そしてライラである。
あれからもフィウルスはライラへ話しかけ続けて、ライラも距離を置くのが面倒になり、ついに根負けしたのである。
(この二人は直接的な戦闘力も低いし、何かあれば如何様にも出来る。)
というのは後のライラの言い訳だとか何とか。
(‥‥結局、絆されちゃってるし。)
どんなに冷たく言い放っても、近づいてくるフィウルスに、ライラは初めて関わりを結んでしまった。
だが、
フィウルスの言葉はいつでも温かみがあって、こちらを本気で心配してくれているのを感じ取ってしまったのだ。
それを知ってしまったから、長い間人と深く接してこずに凍てついていたライラの心は、溶けきってしまうのにそう時間はかからなかった。
(あんな態度をとったのに‥‥優しい人。)
「あ‥‥」
唐突にフィウルスの口から声が漏れる。
「‥‥?何ですか?」
ライラが疑問を投げかけると、
「今、ライラ笑ってたね。」
「えっ!?」
知らずに笑みが溢れていたのか。
ライラは驚いて、顔を赤くさせる。
「わ、笑ってません!」
「うん。わたしも見たー!」
否定するが、メイリィが追い討ちをかける。
「か、勘違いですっ!」
「「うんうん。そうかそうか。」」
(息を合わせて言うな〜〜っ!!)
ライラは羞恥に悶えながら、二人の生暖かい視線を無視して本に目を通す。
「ししょ‥‥せんぱ〜い!」
「あ、エルシィ。」
よく聞く声と同時に現れたのは、エルシィ。
(え、「孤狼」エルシィ!?)
要注意人物の一人が登場したことで、ライラは身を震わせる。
「今日も訓練場には来ないんですか、って‥‥誰ですかその人。」
エルシィの目が細くなり、ライラを観察する様に見つめる。
まるで天敵に睨まれた小動物のように、ライラは縮こまる。
「ああ、7年4組のライラって子だよ。最近よく書庫室に訪れるんだ。」
「一個上だったんだ。ふーん。」
訝しげな視線を送るエルシィ。
「ま、いいや。先輩もあんまり人を誑し込まないで下さいね。機嫌が悪くなる人もいてるんで。主にティリア先輩とかシャルル先輩とかスース先輩とか。」
「人聞きの悪いこと言わないでよっ!?」
「じゃ、カイル先輩には今日も書庫室で調べ物兼女の子を口説いてるって伝えて来ますんで〜♪」
そう言ってエルシィは書庫室を後にした。
「ひどいっ。そんな事実ないのに!」
「あはは〜。‥‥どうかな?」
口説いている自覚のないフィウルスは落ち込み、心当たりのあるメイリィは否定出来ずにいた。後半の言葉は聞こえていないようだが。
そしてライラは、
(え?‥‥え!?何、どういうこと?今、エルシィが言ってた名前の人達って‥‥。ええー!?なんで、フィウルスそんな人達と繋がりがあるの!?)
信じられなかった。
学園で最弱の男が、トップに君臨する者たちと友好的な関係を築いていることに。
(これは‥‥もっと近づけば。良い情報が手に入る?)
本職に徹するなら、これ以上に都合のいいことはない。
少年の純粋な思いを利用するような真似になるが、ライラにとって優先すべきは身内へ情報を流すこと。
ズキン、と心が痛む音がした。
(‥‥ごめんなさいね。)
こんなやり方はしたくない、と叫ぶ心の声を無視して、ライラはフィウルスに話す。
「あの‥‥。」




