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『神殺し』の異世界転生    作者: ヤっちゃん
学園編 遠征研修
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第45話  殺戮者との邂逅




怪物行進(モンスターパレード)を乗り切った生徒達、教員達は多大な疲労を感じながらも、その偉業に喜び、興奮し、互いを称え合っていた。


「物語みたいな活躍だったな。」


「学園でも語り継がれるんじゃねえの?」


「生徒に犠牲者が居なくて、本当に良かった‥‥」


無論、犠牲が出なかったのは突如現れた黒衣の仮面のおかげでもあるのだが、それでも平均年齢10歳程度の少年少女達が怪物行進(モンスターパレード)を乗り切ったのは、彼らの優秀さの証であり、多大な功績だった。


しかし、みんなが喜色の笑みをしている中に、一人だけ浮かない顔をしている少女がいた。


エルシィ・ガーデン


可愛らしい容姿に反して「孤狼」と呼ばれ周りから恐れられている彼女は、表情を強張らせており、両の拳も強く握られていた。


(あれは‥‥なに?)


思い出すのは猛突猪(ラッシュ・ボア)に巻き込まれたフィウルスを助けようと、影を伝って追いかけた時のこと。


(あの影は間違いなくフィウルス先輩の影のはず。だったら‥‥)


前からマーキングしていたフィウルスの影を間違えることなどありえない。エルシィはごくり、と固唾を飲む。


(あの黒衣の仮面は‥‥フィウルス先輩?)


圧倒的な力。目で追うのでぎりぎりな速さ。卓越した技術に未知の力。瞬く間に幾多の魔物達を屠ってきた存在の正体に、エルシィだけが真相へ辿り着いていた。


(仮面から感じられた威圧感のようなものも‥‥学園の近くの山奥でフィウルス先輩から感じたものと同じような。)


何もかもが辻褄が合ってしまう。


先ほどの立ち振る舞いから見て、仮面‥‥フィウルスの実力は国軍の精鋭部隊と同等以上。冒険者のランクで表すなら、Bランク以上はある。まだ12歳の少年が、である。

エルシィはさあ、と血の気が引いていくのを感じた。


「エルシィ?大丈夫?」


「え?‥‥わ、わわっ!?」


そこにひょい、と顔を覗かせるのは誰であろう、そのフィウルスだった。

フィウルスは首を傾げて、子犬を彷彿とさせる仕草でエルシィに問いかける。

一人浮かない顔をしているエルシィを見て、心配になって近づいてきていたのだ。

もちろん、そのことに気付いていなかったエルシィは、唐突に現れた原因(フィウルス)に慌てふためく。


「元気なさそうだけど、どこか怪我してるの?」


「だ、大丈夫ですから!」


「ほんとに?」


「は、はい!」


大丈夫、と答えるエルシィの言葉に、フィウルスは安堵の表情を浮かべる。



「あ、あの‥‥フィウルス先輩。」


「ん?どうしたの?」


真偽を確かめようとエルシィは問いかけようとするが‥‥


「い、いえ。なんでもないです。」


「?」


(正体がバレないようにしてるってことは、知られたくないのかな‥‥。)


なんとなく胸の奥がチクリ、とする。

事が事だけに、周りに隠すというのは納得は出来る。

「神呪」持ちで全能力が低下しているにも関わらず、あれだけの戦力に未知の力。露見すれば、厄介ごとになるのは間違いない。

しかし、頭で納得はしても心が悲しみを訴えてくる。


エルシィの顔に再び影が差した時、


「っ!!」


鬼気迫る表情をしたフィウルスがある方角を向いた。








全身の毛が逆立つような感覚。一気に噴き出す冷や汗。危険だと警鐘を鳴らす本能。


(なにか‥‥ヤバイ奴がくる!?)


「え?せ、先輩!?」


今までの比じゃない危険信号を感じたフィウルスは、それの感じられる方へと走っていった。







「フィウルス?」


「なんだ?」


「なにかあったのか?」


必死な形相で走っていくフィウルスに、ただならぬ予感を感じたメイリィ、カイル、ティリア、スースはフィウルスの後を追いかけた。


「あら?フィウルス?どうしたのでしょうか?」


そして、フィウルスはシャルル姫の側まで近づき、森の奥を睨みつけながら言った。


「シャルル。何かがくる。今すぐみんなを避難させたほうがいい。」


「な、なにかって‥‥」


「おーい」


「どうしたんだ、フィウルス?」


「せんぱーい?」


そこへ後を追いかけていたカイルやエルシィ達も合流した。


「フィウルス、なにかっていうのは‥‥」


気を取り直してシャルル姫が再び問いかけようとしたその時、


「ゴギャアアアアアッッ!!!」


「「「っ!!?」」」


絶望を告げる声が響いた。


突然聞こえてきた、魂の底から恐怖を呼び起こすその声に、歓喜の渦にいた生徒達は一気に顔を青ざめた。

先ほどまであった熱気が嘘のように冷え込み、声が聞こえてきた森の奥を凝視する。


やがて、殺戮者は現れた。


2〜3メートルの巨躯を誇る人型に紅の肌。捻れた双角に、鋭い牙と長い爪。堅牢な装甲と臀部から生えている尾には棘刺がびっしりとあった。

紅く光る眼光は生徒達を見据えており、逃がさないと言ってるようだった。


その姿を見て、本を読むことが好きな茶髪の少女は、唇を震わせながら呟いた。


「ジャバウォック‥‥。」


数多くの英雄譚や物語の中で語り継がれてきた死の権化。

多くの人間がその爪の餌食となり、屍を重ねてきた。

それを倒せるものは英雄と称され、英雄でなければそれは倒せない。


危険度A +ランク。


存在が確認されれば、一国が総力を挙げて対処しなければならない程の存在。


物語の中の存在だった殺戮者(ジャバウォック)を前に、生徒達はただ固まることしか出来なかった。







チガウ。


怯えて固まる生徒達を前に、殺戮者は不満の感情を抱いた。

魔物達をけしかけて間引きするつもりだったものが、結果は全員が生存。

全員を一瞥し観察するも、最も強いと感じたのは金色の雌だった。

しかし、それでさえ己と闘うには遠く及ばない。


落胆の気持ちのまま殺戮者は尾を振るう。

それに伴って鋭い尾棘の一つが、金髪の雌に向かって放たれた。

反応すら出来ない速さで飛来するそれに、やがてその雌の顔は赤く染まることだろう。


しかし、殺戮者の予想していたのとは違う光景があった。


ぱしっ。


「っ!?」


最も強いであろう金色の雌の顔に直撃する前に、隣に立っていた最も弱いであろう白色の雄が、己の尾棘を掴んでいたのだった。

その時、一瞬だけ白色の雄から感じられた威圧感を、殺戮者は見逃さなかった。


ナンダ?アノ「オス」ハナンダ??


不可解なことであった。尾棘を掴んだ後の白い雄からは既に威圧感は消え、ただの雑魚のように感じる。


‥‥オモシロイ。


殺戮者は口角を上げた。己の敵になり得るのか、それともただの偶然だったのか。見定めようと、白色の雄を凝視する。


‥‥サア、ツギハナニヲスル?





(いきなり仕掛けて来やがった。)


フィウルスは内心で舌打ちをする。咄嗟に「気」を一瞬解放したことで、シャルル姫を守ることが出来たが、今の一連の動作だけでその魔物の実力がかなりのものであるとわかった。


「あ‥‥う‥‥」


突然のことにシャルル姫をはじめ、生徒達は事態を理解出来ていなかった。しかし、先程の一瞬の出来事は自分達が死んでもおかしくなかったということだけは分かった。

特に真っ先に標的となっていたシャルル姫の顔色は蒼白になっていた。


(やるしかないっ!)


だから。


今動けるのは自分だけだと。


そう直感したフィウルスは、次の行動に出た。


「ブラインド!」


放つのは闇魔法L v2のブラインド。

対象であるジャバウォックの周りが闇に包まれる。


(まずは視界を防いで、その間にみんなを‥‥)


そう考えていたフィウルス。

だが、その時。

ジャバウォックとは別の存在を感知する。


「っ!!」


見つめるのはジャバウォックと自身との距離の中間地点にある()()


直後、


ビシッと。


空中に()()()が出来た。


その裂け目から二つの人影が現れる。

その二人は金色に輝く髪をしており、一人は優男風の青年。そしてもう一人は碧い瞳をして高貴な佇まいの美少女。


「サファ‥‥おねーちゃん?」


ここにはいないはずの第8学年の頂点(トップ)

アルス・ヴァン・アスタルシアとサファ・ハワードがそこにいた。


「っ!!断刻の結界!」


「ゴッ!?」


突如現れたサファは、ジャバウォックの存在に気づくと同時、結界魔法を発動した。


そうして、結界に包まれたジャバウォックは時が止まったのように動かなくなった。


その後サファはフィウルスの姿を見て、一瞬だけ安堵の表情を浮かべた後、再び真剣な表情に戻った。


怪物行進(モンスターパレード)が起こったと聞いて、空間転移(テレポート)の使える私とアルス王子があなた達を救出に来ました。」


サファはシャルル姫の目を見て言った。


「あ、ありがとう、ご、ございますわ。」


未だ恐怖が消えていないシャルル姫は、そう答えるのに必死だった。


空間転移(テレポート)‥‥」


「時空間魔法L v7だよな‥‥」


周りがざわつく中、


「ただ、予想外の状況になってるね、」


アルス王子が困った表情を浮かべながら言った。


「サファの時を止める結界魔法で今は抑え込んでいるけど、あの化け物は僕たちでも()()()()。」


「っ!?」


「そんな!?」


一瞬、希望の光が差し込んだ生徒たちの顔が再び曇り始める。


「急いで撤退の作戦を。『智将』は?」


周りの悲鳴をお構いなしに、サファはメイリィを探した。


「は、はい。」


突然の指名に困惑しながらも、近くにいたメイリィはサファの前へ出る。


「加護を使ってちょうだい。生存率の高いものを。」


「わ、わかりました!」


そう言って、メイリィは目を閉じて集中する。


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