第40話 到着と爆弾の投下
「フィウルス先輩?しっかり寝れましたか〜?」
桃色の髪を揺らしながらこちらの顔を覗き込んでくるエルシィ。
「うん。エルシィのおかげだよ。」
「ったく。フィウルス!一人で抱えんじゃねえよ。」
フィウルスが寝ずに見張りをしていたことは、3日目の朝にエルシィがみんなに報告していた。
「気づけなかったのはオレらの落ち度だ、すまねえ。でも、おめえもオレ達を頼れよ。」
「カイル‥‥」
「‥‥オレ達は、ダチだろ?」
「‥‥うん!ありがとう。」
「うわぁ〜。カイル先輩ってあんなセリフ、真面目な顔で言ってる〜。」
「ぶ、ぶっ殺すぞ、てめえー!!」
そんなこんなでフィウルス達は目的地に向かって出発をした。
例年、厳しい訓練内容を設ける「遠征研修」だが、間違っても生徒に死人が出るような内容にはしない。
今回のハーエン山脈でもそれは同じである。
この山脈に潜む魔物達は低級ランクばかりであり、命の危険はないと判断された。Cランクのバジリスクでさえ発見された報告はなかったのである。いや、今回に限っては、バジリスクが人々に見つからずに上手く潜んでいたのであるが‥‥。
チリッと。
フィウルスは全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
この感覚は何度も経験があった。それは危険を知らせる、一種の虫の知らせだとフィウルスはこれまでの経験から推察している。
(何かが‥‥いる。)
感覚を伸ばし、周囲の反応を探る。だが、感じられるのは目前でカイル達と戦闘中の低級魔物の反応のみ。
(この近辺ではない。でも、この山の中にいる。)
何かが。自分達の命を脅やかす脅威が。
(黒衣と仮面は時空魔法に潜めている。もしもの時には‥‥)
「気」を開放する。
フィウルスは静かに決心する。
「オラアッ!!」
「ギャウンッ!?」
ヘルハウンドの群れ、その最後の一体をカイルが切り伏せる。
「よしっ。片付いたな。おい、フィウルス!目的地はもうすぐそこなんだよな?」
「うん。もうすぐで着くよ。」
「なら、サクッと行っちゃいましょお〜。」
ハーエン山脈の頂上にあたる部分は広大な広場が広がっており、一際目を引く大きな屋敷があった。
この辺りの領主、ブリトニー子爵家の別邸である。
その別邸の入り口には教員達が待機している。
そして今、教員達の前には5人の生徒の姿があった。
「おめでとう。75班の到着を認める。」
「おっしゃあ!」
「やった!」
「はあ〜。疲れた〜。」
フィウルス達、75班の面々である。
「くくっ。しかし、他よりも一人人数が少ない上に、荷物まで抱えて到着するとは‥‥」
教員の一人から嘲りの言葉が出る。その視線はフィウルスに止まっていた。
「あん?今なんつった?」
そして、その言葉にカイルが不穏な空気を醸し出す。
「い、いや。」
カイルに凄まれて、教員はうろたえる。余計な口を出してしまったと慌てているのだろう。冷や汗が溢れ出ていた。
「私たちが無事に到着出来たのは〜、みんなの協力のおかげでーす。勿論、その中にフィウルス先輩も入ってまーす。」
さらに追い討ちとばかりにエルシィが笑顔で言い放つ。しかし、その目は笑っていなかった。
「そ、そうか!うむ。わかった!中に入って、ゆっくりと休憩していたまえ!」
「狂犬」と「孤狼」に挟まれた教員は、これ以上は危険だと判断した。早口にまくしたて、フィウルス達を屋敷の中へ案内する。
屋敷は広く、学園の生徒と教員を受け入れるのに問題は無さそうであった。
フィウルス達が到着した生徒達が集まっている休憩所にいくと、
「フィウルス!」
「あ、シャルル。」
既に待機していたシャルル姫が近づいてきた。
「無事に到着したのですわね!お怪我とかはございませんか?」
「うん。大丈夫だよ。シャルルも無事だったの?」
「そう。良かったですわ。わたくしも見ての通り、大丈夫ですわよ!」
「おめえが怪我なんてするかよ‥‥」
「まあ!カイル!その言い方はなんですっ!?」
カイルの言葉に、シャルル姫はぷりぷりと怒る。
「フィウルスが到着したって!?おい、フィウルス!け、怪我はないか!?」
3人で談笑している中に、血相を変えて飛び込んできたのは‥‥
「ティリア!大丈夫だよ!」
「ほ、ほんとに大丈夫なのか?お前はいつも隠して、一人で背負うんだから‥‥」
ティリアはフィウルスの体に触れていき、異常がないか触診する。
「ふふっ。ティリアったら、ここに来てからずっとフィウルスの心配をしていたのですわよ?」
「ひ、姫様!」
シャルル姫の報告に、ティリアは真っ赤になる。
「ありがとう、ティリア。」
「〜っ!べ、別に!今度からも鍛錬に支障がないか、気になっていただけだっ!」
素直なフィウルスの感謝の言葉に、ティリアは咄嗟にそういうことにした。
「‥‥フィウルス。」
ちょんちょんと裾を引かれて見てみれば、青髪の小柄な少女がいた。
「‥‥おかえり。」
そういってコテン、とフィウルスの体にもたれ掛かる。
「ふふっ。ただいま、スース。」
「こ、こら!スース!貴族の淑女が簡単に殿方へ体を預けるなど‥‥ふ、ふしだらだ!」
その様子を目撃したティリアは声を荒げる。若干羨ましそうな目をしているのは、気のせいであろう。
「‥‥ティリアだって、フィウルスの体‥‥まさぐっていた。」
それでもスースは普段と変わらず、気怠そうな目をしながら抗議する。
「あ、あれは触診で‥‥」
「フィウルスー!到着したの?休憩の時間暇だから、一緒に本読もうよ〜。」
ティリアの言葉を遮って、メイリィが駆け寄ってきた。
(みんな無事で、いつも通りだな。)
そんな光景にフィウルスは嬉しく思う。
しかし、ふと背中から冷たい視線が突き刺さっていることに気づく。
「ん?」
振り向いた先には、
ジト〜。
こちらを冷たく見ていたエルシィの姿があった。
(‥‥女の人ばっかり。)
エルシィが抱いたのはこれであった。
(別に、あの人達と仲が良かったのは知ってたけど〜。なに、女の人に囲まれて嬉しそうにしているんですか、フィウルス先輩。)
何故か胸がざわつく。ついこの間までは抱かなかった感情がまとわりついてくる。
知らず、ジトっとした目線で見つめてしまう。
(〜っ!)
このまま何もせずにはいられない。溜まった感情を発散するため、彼女は爆弾を投下する。
「せんぱ〜い。まだ疲れが残ってるんでしょ〜?少し寝たらどうですか?良かったらまた、あの時みたいに、わたしの膝の上で♡」
その瞬間、周りの空気が凍った。
この後の展開を正確に予測したカイルは、フィウルス以外の班員を連れて、そそくさと部屋の隅に避難した。
「「「ひ、膝枕〜!?」」」
「まあ、そんなことを‥‥」
頬を染めて、何かを想像しているシャルル姫。
「ど、どういうことだ、フィウルス!?」
詰め寄り、説明を求めるティリア。
「‥‥なら、私はフィウルスの膝で寝る。」
珍しく対抗心を燃やしたスース。
「や、やっぱり、それぐらい積極的な方が‥‥で、でも、そんなふしだらなこと‥‥」
真っ赤になって右往左往するメイリィ。
「え、えっと、エルシィ?」
まさかの爆弾投下に、フィウルスはエルシィに視線をやると、
「べっ!」
悪戯な笑みと舌を出して、エルシィは去っていった。
「こ、こらフィウルス!ちゃんと説明を‥‥」
「‥‥フィウルス。膝貸して‥‥」
「スース!お前まで、そんな‥‥ふしだらなことを!」
「な、なら私は反対の膝を‥‥」
「ええ!?メイリィ!?」
「それでしたら‥‥フィウルスはわたくしの膝に乗ります?」
「「「ひ、姫様〜!?」」」
場は壮絶な混乱と化した。




