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『神殺し』の異世界転生    作者: ヤっちゃん
学園編 遠征研修
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第38話  膝枕と責任



(そろそろ朝か‥‥。)


徐々に辺りが明るくなってきた。意識を広げると、活動を再開しだした獣や鳥の動きを感じる。

フィウルスは地図を広げ、現在地の確認をした。


(このペースで行けば、3日目の夕方頃には着きそうだな。)


「ふあぁ〜あ。あ、フィウルス先輩。おはよぉござーま〜す。」


大きなあくびと寝ぼけ眼をしながら声を掛けてきたのは、エルシィだった。


「おはよう、エルシィ。」


「先輩って、朝はやいんですね〜。」


そう言って、エルシィは石に腰掛けているフィウルスの傍まで寄ってきて、


「はう〜。」


フィウルスの大腿に上半身を傾けて顔を乗せる。


「えっと‥‥エルシィさん?」


「わたし〜、起きてすぐに活動出来ないんで〜、ちょっとここでゆっくりさせてくださ〜い。」


またいつものからかいかと思ったフィウルスだが、朝に弱いのは本当らしく、エルシィはフィウルスの反応に構わず、目を瞑ってもう一寝入りしている。


(まぁ、まだみんな起きてこないし、いいかな。) 


膝を貸すぐらい構わない、とフィウルスは考えてそのまま放置した。


「くぅ〜。」


寝息を立てはじめるエルシィの顔は、時折見せる険しい表情や悪戯好きな小悪魔な表情でもなく、とても穏やかなものだった。

フィウルスが頭を撫でてやると、口元がにんまりと動いて、幸せそうな表情を作る。


(どんな夢をみてるんだろうな。)


生意気な態度や場をかき乱す、手の焼ける後輩のそんな表情に、気づかずにフィウルスは優しげな目をする。


「あはぁ、イイ身体〜♡」


「‥‥」


その寝言をフィウルスは何も聞かなかったことにした。





それから1時間ほどしてから、エルシィに続いて他の者達も起きてきて、昨夜と同じように魚を獲って腹ごしらえをした後出発した。






(は〜、あの動きの秘密全然わからないままだなあ〜。)


目的地へと目指しながら、エルシィは胸中で呟く。

そもそも戦闘になると、前衛のエルシィとカイルがほとんど倒してしまい、討ち漏らしは中衛に控えているマイルとジャスミンの魔法で掃討しているため、フィウルスが動くことはほとんどあり得なかった。


(わかったことは、意外にサバイバルに慣れているってことぐらいか‥‥)


事実、フィウルスの示した指針と行いは、限られた人員と道具しか持っていない状況において、最適ともとれるものだった。

班員はもちろんのこと、他の班‥‥生徒達には気づけないことに気付き、その問題に対して適切な対処を施す。

学園側の狙いである、サバイバルへの適性と不測の事態への対処能力の向上において、フィウルスは幼少期の経験から既に完成されていたのであった。



(結局2日目経っても、何もわからずじまいか〜。)


日が暮れ始めている景色と、マイルとジャスミンが最後に残った魔物にとどめを刺した光景を見てエルシィは項垂れる。







(順調だな‥‥。これなら明日の夕方には目的地にたどり着く。)


みんなが寝静まり、一人見張りをしているフィウルスはこれまでのペースと残りの距離を照らし合わせて考える。

まったく睡眠は取れてないため、正直なところ辛いのだが、明日の夕方までは持つだろうと判断し、みんなの安全のために今日も不眠で過ごすつもりだ。



「んうぅ〜〜、」


そんな時、一人が寝ぼけながら声を上げた。


「うぅ〜〜、‥‥あれ?フィウルスせんぱ〜い?」


目を擦りながら起き上がってきたのは、エルシィだった。

傍にある石に腰掛けているフィウルスを見つけると、近くまでやってきた。


「こんな時間になに、してるんですかあ?‥‥あ、もしかして‥‥一人で見張り?」


寝起きにも関わらず、彼女の頭はしっかりと働いているようで、この状況をすぐに言い当てた。


「まあ、念のためね。」


「もしかして、初日もずっと見張りを?」


「え‥‥え〜っと、」


どこか責めるような視線に、フィウルスはつい目を逸らして言葉に詰まる。その様子が答えを物語っていた。


「もお。そこに気づけなかったわたしも悪いですし、感謝もありますけど‥‥一人で無茶しないでくださいっ!」


そう言って、フィウルスの頭を抱えた彼女は‥‥


「‥‥あれ?」


自らの膝上にフィウルスの頭を乗せて、仰向けにさせる。


「‥‥交代です。」


膝枕であった。


「い、いや、エルシィ‥‥これ、」


「次はわたしが見張りをしますから、フィウルス先輩は寝ていて下さい。」


「でも、これ‥‥」


「いいですから!ちゃんと睡眠とらないと、倒れてしまいますよっ!」


ほんのりと頬を染めながら、ふんっ!と、エルシィは膨れっ面になる。


「‥‥ありがとう、エルシィ。」


「別に、わたしの方がフィウルス先輩よりも頑丈で強いですから。」


「ふふっ。そうだね。それと、エルシィは優しいね。」


「へ?」


不意に褒められた彼女は、間抜けな声と表情になる。


「わ、わたしはべつに、優しくなんかないですよっ!知ってるでしょ!?わたしの二つ名と、‥‥その理由を。わたしが‥‥周りから避けられているのを。」


「うん‥知ってるよ。」


「だったら‥‥」


「でも、エルシィはいつも周りを気にかけている。」


「っ!!」


「研修中、ジャスミンやマイルに危険がないかを注意して見てるし、今も僕が無理してるのを知って、こうやって休ませてくれようとしている。」


「そ、それは‥‥」


「生意気な態度を取ったり、憎まれ口を叩いていても、君はそうやって周りを気にしてくれている。優しい子だね、エルシィ。」


「〜〜〜〜っ!!」


フィウルスの言葉と、真っ直ぐな瞳に直視され、エルシィは自分の仮面がひび割れ、剥落する音が聞こえた気がした。

気づけば視界が何かでぼやけている。その何かに気付いて、咄嗟に上を見上げることで隠す。

零れ落ちる涙を。


「‥‥星、綺麗ですね。」


無理やりにでも話題を変える。そうしないともう、一滴、二滴では済まないと直感したため。


「うん。そうだね。」


彼女の様子を悟って、フィウルスもその話に乗る。


「‥‥ありがとうございます。」


消え入りそうな声で、エルシィは呟いた。 







エルシィが見張りを代わってくれたため、フィウルスは安心して意識を落としていく。


寝息をたて始めたフィウルスの顔を、膝枕した状態のままエルシィは見つめる。


「‥‥先輩のばーか。」


あれはずるい。あの表情と瞳で、あの言葉をかけるなんて。

芽生えかけていた甘い感情が、はっきりとこの胸に灯ってしまった。自分でも自覚してしまうほどに。


(‥‥優秀なステータスと、公爵家に見合った家格の殿方と‥‥なんて思ってたのになあ〜。)


それはぼんやりと考えていた妄想。しかし、現実には最底辺のステータスと庶民との混血。

それでも、彼女ははにかんでいた。これ以上ない幸せな表情をしていた。


「どう責任とってくれるんですか、せんぱーい?」


フィウルスの頬を摘みながら、エルシィは心からの、いたずらな笑顔で囁いた。

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