第37話 エルシィの見返し
「あ〜〜〜っ!!もうっ!!ホントに信じらんないです!!」
顔を真っ赤にしながら、エルシィは叫ぶ。
「んだよ、おめえが紛らわしいことするから、フィウルスが心配して駆け付けたんだろう。そんなに怒んじゃねえよ。」
エルシィが機嫌を損ねているのは、先程の水浴びの最中にフィウルスが裸体を見てしまったことについてだ。
エルシィとて、カイルの言ってることはわかってる。しかし、故意でなかったとはいえ、乙女の柔肌を見られてしまい、黙ってることは出来なかった。
「ご、ごめんなさい。エルシィ。」
「‥‥ヤダです。フィウルス先輩のえっち。」
故にジトーッとした目をフィウルスに向けて、素っ気ない態度をとってしまっていた。
「まぁ、そんなことよりもオレ達も水浴びしようぜ、フィウルス。」
「そんなこと!?わたしの裸を、そんなことって言いました!?」
そして、もうめんどくさいとばかりな態度のカイルへも飛び火する。
「ああ?だったらおめえもフィウルスの裸を見りゃいいじゃん。これでお互い様だろ。」
そう言ってカイルは水浴びの準備を始めた。
「ちょ、ちょっと!そんなこと貴族の淑女が出来るわけ‥‥ってああ!もう!勝手に脱がないで下さいよ!フィウルス先輩!!覚えててくださいね!!」
カイルが脱ぎ始めたため、エルシィはそれだけを言い残して慌てて離れていった。
「やっと、うるさいやつがいなくなった。」
「ちょっと強引だよ、カイル。それにしても、悪いことしちゃったな。」
「気にしなくていいんだよ。それに‥‥ほんとに見せてやったら?おめえのその脱いだらすごい体。その体見たら、もっと真っ赤になるんじゃねえか?」
カイルはそう茶化して笑った。
エルシィは川辺から離れて辺りの警戒をしていた。
(あ〜〜!もう!なによ!おめえも見ればいいじゃんって!大体わたしはフィウルス先輩の体は見たことあ‥‥)
そして、先程の話の流れから、またもやあの時の姿を思い出してしまう。
(ちがーう!!そんなんじゃないの!!思い出したらだめよ!!!)
もはや怒りなのか羞恥なのか、わからない感情で真っ赤に染まる。
(で、でも。‥‥そうよ。こっちは見られたんだから、見返してやらないと‥‥き、気が収まらないわ!!)
やがて、その感情を収める方法は、彼女にとっては不本意‥‥不本意なのだが、先ほどカイルが言ってたことも一理あるという結論へ辿りついた。
それからの彼女の行動は迅速だった。
加護の能力を使ってまで近づいていき、木陰の傍からそっとフィウルスを覗き込む。
(だ、大丈夫よ!これはふしだらな思いでしているわけではないのだから!)
自分を正当化する言葉を自身に言い聞かせる。
(い、いた!)
そして、目当ての人物に目が止まる。
(あぁ‥‥やっぱり、イイ体‥‥。)
彼女はとても蕩けた表情をしていることに、彼女自身は気づかない。
男の裸を覗いて蕩けている女。他の人から見れば、完全に怪しい女である。
(細い体だけど、それは引き締められている細さ。そして、ここからでもはっきりと見える、確かな凹凸のある筋肉。だけど、その筋肉も主張しすぎず控えめで絶妙なバランス。しなやかな腕や肢体‥‥うっすらと割れている腹筋‥‥。)
今回は指の隙間から覗いてる訳ではない。だから、彼の体を穴が開くほどに見つめる。ひとつひとつの筋肉、そして全体像を。
結局、彼女はフィウルス達が水浴びを終えるまでの間、ずっと覗き見て恍惚としていたのであった。
日が昇っている間は、鳥や虫、獣の鳴き声で騒がしかった山中だが、夜になるとそれらは一斉に止んで静寂な時間となる。
辺りが真っ暗になった川の傍で、カイル達は寝袋に入り、就寝中である。険しい山を登りながら、魔物達との連戦にみんな流石に疲れたのだろう。下は硬い地面のはずだが、みんな深い眠りについているようだ。
そんな中で、フィウルスだけが小さな焚火で灯りをつけながら岩に座って起きていた。
夜襲してくる魔物や獣も存在することを、経験則から知っている彼は、それを警戒するために寝ずの番をすることにしたのだ。おそらく、サバイバルが初めての他の者達には夜の見張り番のことが、頭に浮かばずにいたのだろう。
(‥‥もっとだ。もっと。)
こうしている間にもフィウルスは、闘気と魔力の圧縮作業を怠らずにいた。既に膨大な量が圧縮、蓄積されているのだが、学年のトップ‥‥姫や五星の者達と渡り合うためには、もっと必要だと感じていた。
昼は山の踏破と魔物との戦い。夜は周囲の警戒と圧縮作業。
フィウルスは一睡もすることなく、そのまま次の朝を迎えた。




