第36話 水浴び
「グ、グギャアアア!!」
断末魔の叫びを上げながら、一匹のゴブリンは両断された。
「よし。あとはそいつだけだ!」
ゴブリンを両断した男、カイルは叫ぶ。
「「はい!」」
「グ、グギッ!?」
「ファイアーボール!」
「サンダーボール!」
残った一匹に対してマイルとジャスミンが魔法を放つ。
「ギャアアッ!!」
炎と雷の球が直撃し、やがてゴブリンは動かなくなった。
「ふう。」
「やったね!」
マイルとジャスミンは一息ついて、お互いに手を取り合った。
「はいは〜い。みなさんおつかれさまでぇ〜す。」
パチパチ、と拍手をしながらエルシィは労う。
フィウルス達は川を起点に頂上を目指す道中であった。
「それにしてもよお、思ってたよりも魔物の数が多いな。」
研修が始まって既に数時間経過しているが、魔物との戦闘が多く中々進めずにいた。
「確かにこの感じだと数日はかかりそうだね。日も暮れてきたし、そろそろご飯にして、今日はこの辺りで休憩する?」
疲労の色が見えだした周りの表情を見て、フィウルスは提案する。
「ああ。その方が良さそうだな。」
「わかりました!」
「くそっ!全っ然捕まらねえ!!」
「こ、こっちもだめです。」
川の中でも腰までの深さがあるところでカイルとジャスミンは魚を捕まえようとしていた。
「えーっと、あの二人は何しているのかな?」
焚火用の木や枝を集めていたフィウルスとマイルが帰ってきて、その様子に疑問を持つ。
「フィウルス先輩が言ったんですよ〜。川の魚を捕まえて、晩ご飯にしようってぇ〜。何の道具もなければ、無理だと思うんですけどねぇ〜。」
「ああ、うん。そうだったね。」
「オイ!フィウルス!こんなの無理だ!」
フィウルスが帰ってきたことに気づいたカイルが川から上がってくる。息が上がっており、魔物との戦闘よりも疲れているように見えてしまう。
「フィウルス先輩、素手で魚を捕まえるのは無理ですよー。」
同じくジャスミンも弱音を吐いて、川から戻ってきた。
「いや、まさか素手でとろうとするなんて思ってなかったから‥‥」
「ああ?道具なんてもってねえんだぞ?だったらどうしたらいいんだ?」
フィウルスの言葉にカイルがそう噛み付くのも仕方がないであろう。この研修が始まる際、教員からはナイフと寝袋しか配られていないのである。
「へ〜。フィウルス先輩には何か良い案があるんですねぇ〜♪」
「うん。マイルさん、魔法で氷の網を作ってもらっても良い?」
「あ、は、はい!!」
突然のフィウルスの指示に戸惑いながらも、マイルは氷の網を生成した。
「んだよ。そんな網でも逃げられちまうぞ。」
「次は、そうだね‥‥あの辺にサンダーボールを打ってくれる?」
川へ指を指しながら、フィウルスは指示する。
「サ、サンダーボール!」
雷の球は川へと着弾し、数秒後、
「あっ!」
「あっ!」
「あ〜。」
感電した魚が数匹、浮かび上がってきて、それをフィウルスは氷の網で掬っていく。
「こんな感じで簡単だと思ったんだけど‥‥」
「くっそ〜!考えてみれば、そりゃ簡単だわ!」
「す、すごい。」
「フィウルス先輩って意外と頭良いんですね〜。」
「意外とは余計だよ‥‥。」
夕ご飯を食べ終えたフィウルス達はその場で一晩明かすことにした。
エルシィ、マイル、ジャスミンの3人は体を洗い流すために川で水浴びをしている。
「フィウルス先輩方〜。絶っっっ対にこっち見ちゃダメですからねぇ〜〜!」
「わ、わかってるよー!」
(ほ、ほんとにダメですよぉ〜。)
言葉や態度では余裕そうに見えるエルシィだが、実際はまるで余裕がなかった。少し振り向けば見えてしまうこの状況では、まだ子どもとはいえ年頃の少女には魔物と戦っている時よりも心拍数が上がってしまう。
「ふう。‥‥それにしてもマイル先輩方はどうしてこの班を希望したんですか〜?」
フィウルス達に聞こえないくらいの小声でエルシィは問いかけた。
「え!?え〜っと‥‥」
「ね、ねえ?マイル‥‥思い切って言ってみよっか?」
「うん。あ、あのね‥‥エルシィさん。わたし達も‥‥」
マイルは深刻な表情をして‥‥
「わたし達もあなたと一緒でフィウルス様の美しさに心を奪われた者なのよっっ!!」
勢いよくエルシィに迫って言った。
「え?‥‥え!?」
「あなたも気づいたのよね?あのフィウルス様の美しさ、可憐さ、儚げさにっ!」
後ろから回り込んで来たジャスミンにも迫られ、エルシィは逃げ道を閉ざされた。
「い、いやわたしはそんなこと‥‥っていうか先輩方、フィウルス先輩に惚れ‥‥」
「いいえ。惚れた恋したの話ではないの。わたし達は崇めているの。」
「何を!?」
あまりの様子に、つい敬語も忘れてしまうが、マイル達の暴走はまだ続く。
「ああ。フィウルス様はまさに天使!こんなにお近づきになれる日が来るなんて‥‥」
「わかっているわ、エルシィさん。あなたもわたし達と同じ心を抱いてるのよね?わたし達はフィウルス大好き隊の組織に入っているの。あなたなら、いつでも大歓迎よ?」
「いや、抱いてねーよ!今抱いてるのはあなた達、狂信者に対する恐怖だけよ!そんな組織知らないし、入りたくもないわよっ!」
血走った目で入会を迫ってくる二人を何とか振りほどき、エルシィは離れた位置へ避難した。
(な、なんて人達。惚れたとかそういうレベルじゃないわっ!それに、あんな人達の組織が形成されているっていうの!?)
ゾワッとする。自分の知らなかった学園の闇を垣間見たような気がした。
(だ、大体わたしはフィウルス先輩のことなんて‥‥)
落ち着かせようと考え直した彼女だが、脳裏に蘇ったのは、フィウルスが鍛錬中に覗いてる時に見た‥‥
(た、確かに可愛い顔の割にイイ体‥‥ってちがーーう!!!)
フィウルスの半裸を思い出し、逆に冷静さを失ってしまった。暴走したエルシィは思わず水面を思いっきり叩きつける。
ザパァンッ!!
「っ!?どうしたの?いったいなんの音‥‥」
不幸とは連鎖するものだ。急に聞こえてきた水面を叩く音に、不測の事態が起こったと勘違いしたフィウルスが振り向いて‥‥
「あ。」
「あ。」
エルシィと目が合った。
エルシィは固まる。頭の中では次第に今の状況を理解し始めてきた。水浴びの最中で全裸の自分。そしてフィウルスの視線。そして、理解した途端、頬や胸の内に熱が篭り、やがてそれは全身に広がっていき‥‥
「ご、ごめん!」
「先輩の‥‥えっちー!!!」
フィウルスに向かって魔法で作り出した水球を、思いっきり叩きつけた。




