第35話 ハーエン山脈踏破
ハーエン山脈。
ブリトニー子爵領に存在する、幾つもの険しい山が連なっており、山脈内には魔物が跋扈している。
魔物の数は多いが、下級ランクが大半であり山の恵みも多いことから、学園の生徒でも十分に活動できるとして、今回の遠征研修の実施場所として選ばれた。
ハーエン山脈の麓で75の班、数百人の生徒が整列し、その前に教員が数十人並んでいる。
「それでは今回の研修内容について説明する。」
代表の教員が生徒に向かって説明を始める。
「君たちにはこのハーエン山脈の頂上を目指してもらう。数日はかかる登山になるだろうが、各自魔力や闘気の使用を考慮し、食材や野宿も現地にあるものでしてもらうこととなる。また、道中で魔物と遭遇することも多いに考えられるため、一時も油断しないように。頂上には領主の別荘があり、到着した班はそこで待機するように。着順による得点の差はないため、競争をする必要はないが、他班との協力や妨害行為も認めないこととする。」
それを聞いて生徒達は今回の研修の目的を理解する。
小隊規模でのサバイバル。
王国の兵となった時、必ずしも大軍での行動とは限らない。時には、5〜6名での小隊で活動をすることもあり、山中の踏破が必要な場面も数多くある。
人手が少ないため、荷物や食糧も必要最小限。後方支援もないこの状況で、確実に任務を遂行するための訓練であった。
「それではこれより遠征研修を始める!各自、持てる力を振り絞り、無事に辿り着くように!」
教員の号令後、生徒達は一斉に山奥へと駆け出していった。
「さあて、オレ達も行くかぁ。」
「待って、カイル。先に各自の役割と方向性を決めよう。」
先に行った班たちと同じく、今にも駆け出そうとしたカイルをフィウルスが止める。
「方向性?頂上狙うならこのまま真っ直ぐ向かった方が近道だろ?」
「それはそうなんだけど、配布された地図を見てみて。」
その言葉を聞いて75班の面々は、立ち止まって地図を広げる。
「まずは川を目指そうと思うんだ。」
「川?」
「うん。数日かかる登山だと水分補給は必須だ。このまま真っ直ぐ頂上に向かって行ったとしても、どこかで必ず川へ寄らないと行けなくなる。それなら最初から川まで向かって、川沿いを通った方がいい。その方がいつでも水分補給出来るし、使うことが出来る。それに、ここの山は頂上まで川が続いてるから道に迷うことも少なくなるしね。」
「ああ‥‥なるほど。確かにその方がよさそうだな。」
「ほ、ほんとですね。」
「へぇ〜〜。フィウルス先輩って、意外と考えてるんですね〜。」
「よっしゃ!それじゃあ、先ずは川に向かうか!」
「うん!」
「「はい!」」
「は〜い。」
辺りには木々が生い茂り、虫や鳥の鳴き声が響き渡る道中を、フィウルスたちは歩いていく。
「オイ。てめぇ、いったい何を企んでいやがる?」
カイルは小声でエルシィに問いかける。
「だ〜からぁ、別に何も企んでませんってば〜。」
「どうだか。」
「カイル先輩はわたしにどんな印象抱いてるんですかぁ〜」
そう言ってエルシィは頬を膨らませる。
「イヤな後輩。」
「うわっ!ひっど〜い!」
えーん、とわざとらしい嘘泣きをするエルシィに対して、カイルは舌打ちをした。
「フンッ。アイツに何かしやがったり、馬鹿にしたら今度は許さねえからな。」
「‥‥ねえ、カイル先輩。」
「あん?」
「どうしてそんなにフィウルス先輩を気にかけるんですか?」
それはこれまでのやり取りが嘘だったかのように、真面目な声音だった。
「それは‥‥あいつがオレのダチだからだ。」
「どうして友達になったんですか?」
「どうしてって‥‥」
「ほとんどの生徒はフィウルス先輩に対して嘲笑か関わらないかのどちらかです。先輩達だけがフィウルス先輩のことを気にかけています。何故ですか?‥‥同情ですか?」
「そんなんじゃねえよっ!!」
「だったら、何が切っ掛けで彼と友達になったのですか?」
「‥‥あいつの強さを求めている姿を見たからだ。」
「え?」
「まだ入学して少し経った頃だが、あいつは生まれと呪い、そして毎日ボロ雑巾のようにされていることで噂が絶えなかった。だが、ある日オレは見たんだ。そんな状況でも、アイツは歯を食いしばって努力している姿を。その時に思ったんだ。アイツとなら友達になれるって。」
「‥‥そうなんですか。」
「ああ。‥‥って、なんでこんな話をてめえにしなきゃ‥‥」
「あ!みなさ〜ん!川が見えてきましたよ〜!」
カイルの言葉を遮って、エルシィは他の者たちに声を掛ける。
「‥‥チッ。」
先に駆け出していったエルシィを見て、カイルは再び舌打ちをした。




