第33話 調査
授業が終わってすぐに、エルシィは寮部屋に戻った。
(フィウルス先輩の影は‥‥書庫ね。一緒にメイリィ先輩もいるみたい。スース先輩は寮部屋。姫様と他の人達は‥‥訓練場ね。)
集中して、マーキングしていた影の位置を補足する。
(まずは‥‥姫様達のところで情報収集しようかな?)
そう決めて、彼女は影に潜り込む。
アスタルシア学園では、授業を終えた後、大多数の生徒が訓練場で各自鍛錬をする。
彼らはそこで基礎を積み、仲間と模擬戦をして日々成長しているのである。
そんな広大な訓練場の一角では、誰もが一目置く生徒達が模擬戦を行なっていた。
シャルル姫、ティリア、カイルの3人である。
「魔弓術 蛟の矢!!」
ティリアから魔力で練られた大量の矢が放たれる。
放たれた矢は意思を持っているかのように動き、蛇の形を模して襲いかかる。
「断裂刃!!」
それに向かってカイルが放ったのは、闘気Lv8の大技。
蛇の形を模した矢を、左右に両断する。
「魔弓術 流星!」
そこにティリアが追撃を仕掛ける。
上空から無数の矢がカイルに襲いかかる。
「オラアァァッ!!!」
それをカイルは闘気弾の連発で相殺する。放った直後から闘気が回復する、彼だからこそ出来る芸当であった。
「お、おい。見ろよアレ。」
「やっぱり五星は桁違いだな。」
「しかし、『狂犬』も流石だな。あの技に喰らい付いていやがる。」
周りで鍛錬をしていた他の生徒達は、手を止めて呆然と立ち尽くす。
「そこまでですわ。」
やがて、行く末を見守っていたシャルル姫が、模擬戦の終了を合図する。
「中々やるな、カイル。まさか流星すらも相殺するとは思わなかった。」
「へっ。なめんなよ。あれぐらい朝飯前だ。」
ティリアとカイルはお互いの健闘を称え合う。
「そ、それにしても、フィウルスは、その、今日も調べ物か?」
「あぁ。ひとまずあの書庫の本を調べ尽くすみてえだ。」
「そ、そうか‥‥。」
今日もフィウルスは参加しないことを聞いて、ティリアは目に見えて落ち込む。
「フィウルスもご一緒にしてほしいのですが、『神呪』を解くために必死ですからね。」
「‥‥ま、それを先に解けないことには始まらねえからな‥‥」
3人は神妙な顔になる。いくら稀有な神呪とはいえ、過去にはそれこそ数十人はいたであろう。それでも、誰一人として解除する方法を見つけられなかったのだ。いかに困難なことかは、容易く想像出来る。
「本当に解除出来るとお思いなんですかあ〜?」
「「「!?」」」
そんな3人に投げかけられる言葉。声の主を見ると、
「どうも〜先輩方♪こんにちわで〜す。」
悪戯な笑みをしたエルシィがいた。
「てめえ、何の用だ?」
今にも噛みつかんとしそうな気迫で、カイルは問いかける。
「いえ〜大したことはないんですけど〜。本当に神呪を解除する方法なんてあるのかな〜って思いまして〜。」
「エルシィさん。フィウルスは、それを探すために日々頑張っておられるのです。」
また喧嘩にならないようにと、シャルル姫は落ち着いた口調でエルシィに説明する。
「ふ〜ん。でもぉ、わたしだったら、神呪の影響を受けない力を身につけようとしますけどね〜?」
そう言って、エルシィは若干目を細めて3人の反応を窺う。
「ああ?なに、訳わかんねえこといってんだ?」
「『神呪』は全能力に対する制限だ。受けない力などあるはずがない。」
「‥‥そうですわね。私もそのような力は聞いたことがありませんわ。」
それに対して3人は返答する。
「‥‥そうですかぁ〜。それもそうですよね〜。ま、特に気にしてませんし、用事もありませんのでわたしはこれで〜♪」
「何だったんだ、あの野郎。」
「さあ?」
(‥‥あの3人とも知らなさそうね。)
先ほどの反応を見て、エルシィは即座にそう判断した。
これでも、強大な力を持った貴族の娘。秘密の探り合いにも精通している。それも、相手は純粋な姫様に、直線的なティリアと頭の悪そうなカイルだ。あの質問を投げかけた時の反応だけでわかる。
(一番長く付き合いのある姫様とカイル先輩ですら知らないとなると‥‥誰も知らないのかしら?)
ならば次はどうするべきか?
エルシィは考え込む。そして、
(そういえば、もうすぐ遠征研修があったね〜♪)




