第30話 孤狼
(ほ〜んと意味わかんない。将来性のある人達が揃いも揃って、あんな男とつるんでいるのか。)
教室に向かう途中、エルシィは先ほどのことを思い浮かべて考えていた。
(‥‥まさか惚れたとか?いや、それは流石にありえないでしょう。そりゃ、顔はちょっといい感じだったけど‥‥。)
顔は悪くない、と件の少年の顔を思い出す。
(けど、あまりに不釣り合いよ。自分より弱い男なんてあり得ないわ〜。)
そう結論づけて、彼女は自分の教室に入る。
ガラッ
「「「っ!!」」」
クラスメイトの視線が集まったかと思うと、先ほどまで楽しそうに談笑していたのが嘘のように、全員が黙り込む。
(‥‥ま〜たいつも通り、嫌われてるね〜私。)
4年1組 エルシィ・ガーデン
同世代で他の追随を許さない実力者である彼女は、友人を作らず、恋人を作らず、常に1人でいる。
ぱっちりとした目に、桃色の髪をしており、かなりの美少女なのであるが、同学年‥‥あるいは他学年の者まで彼女に近づこうとしない。おそらく彼女とまともに話を出来るのは、7年生のサファとアルス王子、そして五星のメンバーという学園のトップ連中のみであろう。
その理由は彼女の実力が飛び抜けているのと、ある「加護」にみんなが怯えていること、そして彼女自身が他者を寄せ付けていないことにある。
「絶影 ラギリアの加護」
それは自身と相手の影を自在に操って、攻撃・防御・束縛させることが出来るものである。
(‥‥友人?あんな嘘で塗り固められた存在、わたしはそんなのいらない。)
思い出すのは学園に入ってすぐのこと。彼女の明るい性格もあり、最初はクラスの中でも友人と呼べる存在はいた。
自分とは大きな差があったが、それでも一緒に鍛錬し、昼食をともにし、笑い合っていた存在がいた。
しかし、今はもういない。
その日はいつも通り一緒に鍛錬を終えて、寮部屋に戻った時だった。
(あっ!借りていた教科書、返さなきゃ!)
友人から借りていた教科書を返すのを忘れていたのだった。そこで、悪戯好きな彼女は返すついでにびっくりさせようと計画した。
彼女の加護の能力に、「影移動」というものがある。
自身の影に飛び込んで、マーキングをつけた相手の影まで移動できるという技である。
彼女はこれを使って、友人の元へ突然飛び出して驚かせるつもりだった。
(えいっ!え〜っと〜。あっ!これだ!‥‥到着〜っと。)
目的の友人の影に潜り込み、機を窺っていると‥‥
「あ〜〜。疲れたー。ほんっとエルシィうざーい。」
(っ!!)
友人の声から、聞きたくもない言葉が聞こえてきた。
「アンタ、よく一緒にいられるよねー。」
「だって、お父様が仲良くなっておきなさいってうるさいんだもんー。本当は嫌なんだけど、仕方なくよ。」
「まー、あたしもそうなんだけどねー。ちょっと強いからって、余裕ぶっこいてさ〜。」
「ほんと。ムカつくよね〜。消えてほしいなー。」
(‥‥‥‥)
なんだこれは。一体、自分は何を聞いているんだ。
心が傷つき、割れる音がした。胸の中が黒い感情で埋め尽くされていく。
ショックと怒りで理性を失った彼女は影から飛び出して、友人だった者たちを襲った。
騒ぎを聞きつけた教員が止めに入るまで、彼女はひたすらに暴力を振りかざす。
その友人達は治療室へ運ばれて、なんとか回復したそうだが、翌日には自主退学をしていた。
その一件以降、彼女は周りを寄せ付けず、また周りも彼女に近づかなくなった。
「孤狼」 エルシィ・ガーデン
彼女は周りからそう呼ばれている。




