第26話 男
ランキング戦が終了した日の夕方、ほとんどの生徒が居なくなった校舎内を歩く人影があった。
長い水色の髪をポニーテールにして、凛とした佇まいをしている。
五星・無限弓 ティリア・アーチェ
『魔弓王 オルゴス』の加護を授かっている五星の一人である。
(王立といっても五星以外で手応えのある者は‥‥あのカイルとかいう男ぐらいか。)
思い出すのはランキング戦でのこと。使った瞬間から無尽蔵に回復する闘気だからこそ出来る、大技の連発。
今のところは対処出来るだろうが、中々に厄介な戦法だと思う。
(さらに‥‥強くならなくては。)
強き加護を授かった者は、強くあるべし。そんな考えを彼女は抱いている。家族の者、特に2人の姉はそんなことに拘らなくていいと言ってくれているのだが‥‥。
(それにしても、それ以外に手応えを感じられらる者がいないとは。嘆かわしいな。)
入学して1年が経ち、学園の生徒達の現状に彼女は失望している。
(どいつもこいつも、卒業後のコネ作りに必死。言い寄ってくる男どもは、強くなることなど大して考えていない。‥‥男のくせに。)
彼女の家族構成は父親以外が全員女であり、同年代の男達とはこの学園で初めて出会った。
よく読み聞かせてもらっていた英雄譚から、逞しくて強く、頼りになる男。そんなイメージの男に一種の憧れを抱いていた彼女には、学園の男達は失望以外のなにものでもなかった。
事実、それほどまでに学園の男達はだらしなかったのだ。
ガンッ
そんなことを考えながら歩いていると、何かを殴ったような音が聞こえた。
(なんだ?誰かいるのか?)
そっと、音がした方を窓から覗き込む。すると、校舎裏の庭に白い髪をした者の姿があった。
(あれは‥‥フィウルス・ハワードか。)
その男のことはもはや学園において知らぬ者などいない。
(女みたいな顔をしてナヨナヨした奴だと思っていたが、あの戦いで最後まで諦めなかった姿には‥‥少し心が動いたな。)
同じ五星の一人とあそこまで喰らい付けるのは、数えるぐらいしかいないであろう。
彼女は心の中で称賛しつつ、フィウルスの境遇に同情する。
(せめて、呪いさえなけれ‥‥)
「くそっ!‥‥くそっ!」
「っ!!」
そこで彼女が見たものは、フィウルスの涙と心からの叫び声。
涙など屈強な男が流すようなものではない‥‥はずなのに、何故か馬鹿に出来ない。目が離せない。
理由はわからない。だが、その綺麗な雫に、天に吠えるその姿に、ティリアはフィウルスの「男」を見たような気がした。
胸の内がザワつく。何故か頬に熱がこみ上げる。
何故だろう。学園で最も弱い者のはずなのに、情景を抱いていた英雄と重なって見えてしまう。
その理由をティリアはまだ知らない。




