第22話 初戦
「第12試合‥‥キルス・グリントン。」
貼り出された対戦表を見て、フィウルスは固まる。
その対戦相手は学園内でも有名だ。なにせ、五星のメンバーであるのだから。
四星・輝晶剣 キルス・グリントン。
剣術に高名なグリントン伯爵家の長男。剣術についても高いレベルにあるが、特筆すべきは「闘晶神リオンの加護」である。
「お、おい‥‥フィウルス。」
隣にいたカイルも、フィウルスの対戦相手を知って動揺している。
普通ならあり得ないはずだ。基本的に初戦は同じ組もしくは近い組同士で行われるはずが、最高峰の1組と最底辺の6組の組み合わせである。
(見せしめ‥‥。)
そんな学園側の考えが透けて見えるような組み合わせに、カイルは言葉を失う。
「ふむ。私の相手はあなたですか。‥‥呪い持ちの『混じり血』」
ふと、声をかけられた方を見ると、そこにはキルスの姿があった。短い青髪と、神経質そうな表情をしている。
「‥‥美しくない。この試合は早々に終わらせていただきます。」
それだけを言い残してキルスは去っていく。
「‥‥フィウルス。」
なにかかける言葉を探すが、カイルは名前を呼ぶことしか出来なかった。
「大丈夫だよ。カイル。こういうのは慣れっ子だから。」
そんなカイルにフィウルスは大丈夫、と語りかける。
「‥‥無茶、すんじゃねえぞ。」
カイルは友の背中にそれしか言えなかった。
「さあて!お次は第12試合!待ってました!その輝く力で周囲を魅せつける!五星の1人、四星・輝晶剣キルス・グリントンー!!」
オオオー!!!と会場には割れんばかりの観戦が鳴り響く。
「そして、対するは‥‥。くくっ。おっと、失礼しました。1年6組フィウルス・ハワードです!」
「出やがったな!『混じり血』がー!」
「あれが例の‥‥」
「キルスー!呪いごとぶった斬れー!」
飛んでくるのは野次や怒号。
「‥‥こいつら」
ザワッとマリー夫人の魔力が高まる。
「堪えるんだ、マリー。」
「で、でも!あなた‥‥!?」
「今は、まだだ。あの子も堪えているんだ。私達が先に爆発しては、あの子の頑張りを邪魔してしまう。」
そう言って、ウォルス公爵は拳を強く握りしめる。
「‥‥フィルちゃん。」
「さて、両者共準備はいいですね?それでは、第12試合、始め!」
フィウルスは静かに構えをとる。相手は五星の1人。油断していたら一瞬である。
しかし、キルスはまだ剣を構えない。
「ああ、なんて勿体無いのだろう。」
それどころか、普通に語りかけてきたのである。
「あなたの容姿は、とても美しい。それはこの私も認めましょう。なのに、あなたに流れる血は‥‥とても美しくない。」
「‥‥それは貴族の血じゃないから?」
「ええ。半分は美しい貴族の血なのに、下等な血も混ざっているあなたは、本当に醜いです。」
「そんなもの、僕には関係ない。」
「そうですか。ああ、本当に勿体無い。こんなことは、美しくない。」
これ以上問答しても仕方がないので、フィウルスはキルスの言葉を気にせずに攻撃を仕掛ける。
「‥‥遅い。それに、剣や槍を使わず素手で攻撃とは‥‥美しくないですね。」
そう言って、キルスは右手を開く。すると彼の闘気が結晶へと変換し、形を成していく。
「あなたにこの美しさを教えてあげましょう。輝晶剣キルスソード!!」
輝く結晶で形取られた、一振りの剣がそこにはあった。
フィウルスは咄嗟に後ろに飛んで、距離を開けようとする。そこへ、
「はあっ!」
キルスが剣を振る。すると、剣から無数の尖った結晶の破片が飛び、フィウルスに襲いかかる。
「うっ!ぐっ!!」
身体中に結晶の破片が突き刺さる。
「ふんっ!!」
怯んでいる間に接近してきたのだろう。既に目の前にいるキルスはフィウルスの腹部へ剣を突き刺す。
「あ、がああああっ!!?」
ズシュッと、音がして剣が抜かれた後、フィウルスは崩れ落ちる。
「いいぞー!!キルスー!」
「そのままとどめをさしてやれー!」
会場からはキルスを称える声と、フィウルスを蔑む言葉が降りかかる。
「こ、この‥‥」
マリー夫人は思わず立ち上がりそうになるが、ウォルス公爵に手を引っ張られる。
「あなた!もう限界‥‥」
ウォルス公爵に向かって言いかけたマリー夫人は、言葉を失う。
ウォルス公爵の表情はいまだかつて見たことがないほど、激昂していた。額には青筋が浮かんでおり、その目は今にも会場の人間を襲いかかりそうな色が浮かんでいた。
だが、
「マリー。‥‥我慢だ。」
ウォルス公爵は静かに言い聞かせる。
「あの子は、まだ諦めていない。逃げ出していない。‥‥私達に助けを求めていない。」
言われて、マリーは試合会場のフィウルスを見つめる。
そこには、腹に穴が開き、全身が血だらけで倒れていながらも、這いずりながらキルスに向かっているフィウルスの姿があった。
「!?‥‥フィルちゃんっ。」
涙が溢れる。もういいはずだ。もう、自分達を頼って、逃げてもいいのに。本来の力を使って、理不尽な事をしてくるあいつらをめちゃくちゃにしてもいいはずだ。
心の中でそんな叫び声をあげる。
しかし、彼は諦めていなかったのだ。
ゴシゴシ、と目元を拭いたマリー夫人は深呼吸をした後、真剣な眼差しで戦いの行く末を見守った。
「まだ諦めていなかったのですか。」
「へ、へへっ。ぜんぜ‥ん。きいて‥‥ないね、」
強がりながら、フィウルスは這いずる。
「ふ、ファイア‥‥ボール」
弱々しく唱えられとのは、火属性基本魔法、それもレベル1の魔法だった。
フィウルスの手から放たれた、小さな火の玉がキルスへと向かっていく。
「‥‥ふんっ。」
それをキルスは右手の剣で振り払い、かき消す。
「ほんとうに‥‥美しくない。」
そう言って、フィウルスの背中に剣を刺す。
「ぐっ!?く、‥‥ファイア‥‥ボールゥ!」
「んなっ!?」
剣を刺されながらも、放った魔法はついにキルスへの着弾を許した。
「こ‥‥の‥‥」
咄嗟に左手でカードしたのだろう。少し火傷をした左手を見て、キルスは怒りに震える。
「『混じり血』があっ!!」
「あ!?がっ!?」
怒りに任せて、何度も背中を刺す。
「そ、そこまでっ!」
その様子に流石に止めざるを得なかったのだろう。審判役の教員が止めたことで、試合は終了した。
その後、フィウルスは救護係によって治療室へ運ばれた。
フィウルス・ハワード
初戦敗退。




