第17話 圧縮
(‥‥集中。‥‥集中しろ。)
現在フィウルスは寮部屋の中で座禅を組んでいる。
(魔力を集めて‥‥もっと濃密に、それを小さく圧縮して‥‥)
かなりの集中力が必要なのだろう。じっとしているのに、額から汗が流れ落ちる。
(圧縮‥‥成功。これを繰り返していけば‥‥)
彼が行っているのは、魔力の圧縮である。
上限の低い彼が見つけた打開策、それは器が小さいのなら、中に入れる物をコンパクトにすればいいじゃん?である。
わかりやすく説明するなら、彼の魔力上限が100だとする。そこへ、一般的な魔力100を彼にとって1になるよう濃密に圧縮する。
すると、
魔力 100/100 → 1/100
となったのである。
魔力残量は1だが、その内容は他の人にとっての魔力100に値する。これを上限まで繰り返すと、数値上では100の魔力が10000に値するということである。
致命的な欠点としては圧縮の難しさと時間が非常にかかることだが‥‥。
元々『気』を始めとした、体内に存在する力の扱いには慣れているフィウルスにとって、圧縮の難易度はそれほど問題ではない。しかし、時間だけはかかるため、これからは毎日の日課にする様子だ。もちろん闘気も同様である。
「ん。もう時間か。」
そろそろ朝の授業の時間である。手早く制服に着替えて教室へと向かった。
「魔族とは知恵を持った魔獣であり、その性質は極めて邪悪なる存在。戦闘能力は高く、長らく人類を脅かし続けて‥‥」
教室では、初老の男性が歴史の教科書を読み上げている。内容は魔族についてだ。
「しかし、人類の中で勇者と呼ばれる者が誕生した。その者の名は?君、答えなさい。」
「はい。勇者シルバ様です。」
「その通り。勇者シルバ様は、その強さを持ってことごとく魔族共を追い詰めていった。しかし、魔族の絶滅には至らず、最後にはある者と相討ちとなってしまった。その者の名は?次、君だ。」
「ええっと、魔王レアです。」
「正解。魔族を束ねていたとされる魔王レアは‥‥」
(この歴史の教科書‥‥。全部事実なんだろうか?人類こそが正義って感じがして‥‥なんか深読みしてしまう。)
魔族、と聞いてもフィウルスにはあまりピンと来なかった。実際に相対した訳でもないのに、この教科書だけでは判断出来ない。このことは頭の片隅にいれるぐらいにしとこう。と、教師の説明を聞きながらフィウルスは考えていた。
座学の次は戦闘訓練の時間である。
「へへっ。おい、今日もあいつをサンドバッグにしようぜ?」
「いいねえ。憂さ晴らしには丁度いい。」
そんなやりとりをして、複数の生徒がフィウルスを囲む。
そして始まるのは、殴り、蹴り、魔法の連射である。
まともにくらったフィウルスは、全身がボロ雑巾のようになり倒れて動かなくなってしまう。
「君たち、訓練はほどほどにな。」
それを咎めずに放っておく教師。
この1年6組の中でフィウルスの味方は一人もいない。
そうやっていつものように瀕死寸前まで追い詰められたフィウルスは、いつものように担架で治療室まで運ばれる。廊下を走る救護係を見るのは、周りの生徒達もここ数日で慣れてしまった様子である。
(ぐ‥‥くそ‥‥。あ、諦めねえ‥‥。絶対に‥‥。)
たとえどんなに辛いことが起きても。
フィウルスの心はまだ折れていなかった。
回復魔法で治療してもらったフィウルスは治療室から出る。
「よう。」
そこへ、声をかけてくる男の姿があった。
角刈りにした茶髪の鋭い目つきをした男だ。
「おめえ、なんで諦めねえんだ?」
腕を組んで睨みつけながら、男はフィウルスに対して問う。
「‥‥負けたく‥‥ないからです。」
思い出すのは前世での最後。かなりの強さを身につけたと思っていた。だが、未知の力によってあっけなく死んでしまった自分。それが、今でも許せない。
「‥‥フッ。そうか。」
そう言って男はフィウルスに背を向けて歩き出す。
「カイルだ。」
「え?」
振り返らずに男は言う。
「1年2組のカイルだ。おめえ、中々根性あるじゃん。気に入った。」




