第16話 姫様の友達
「シャルル姫。私はアーガント家の長男でオレイユと申します。良かったら私とともに昼食にしませんか?」
「いいえ、姫様。私と一緒にしましょう。先日、かの有名な加護を‥‥」
「その程度でつけあがるんじゃない!姫様!私はドレイル伯爵家の跡取りでして‥‥」
もううんざりですわ。
入学して数日。何度もこのようにお誘いがくるとは夢にも思いませんでしたわ。
基本的に組分けは実力主義。この1組にいる者は、それ相応の能力を持っている者たちが集う場所‥‥のはずですが、相応しくない者も多数いる様子。やはりコネや贈賄の匂いを感じますわ。
(お兄様も気をつけるように言ってましたけど、これほどとは‥‥)
正直言うと目の前から消えてほしい。
だか、仮にも相手は有名な貴族家の者たち。王族といえど、ないがしろにするわけにもいかない。
それに、自分だけが弱音を吐くわけにもいかない。シャルル姫程では無いが、五星の者達はみんな毎日このように勧誘が後を絶たないのである。
「申し訳ありません。今日はちょっと体調がよろしく無いようですので‥‥」
「なんてこと!急いで治療室までお送りいたしましょう!」
やんわりと断るつもりが、見当違いの返事が来ることに知らずため息を吐きたくなる。
「いえ、一人で大丈夫ですわ。」
そう言ってそそくさと教室を離れる。
(どこか‥‥人気のないところでゆっくり食べたいですわ‥‥。)
シャルル姫はあても無く彷徨う。
(家柄と強大な加護に目が眩んで近寄るなんて‥‥。まだわたくしと同じ5、6歳だというのに、舞踏会で見るような醜い豚達と一緒ですわね。)
王族故にシャルル姫の目は肥えていた。その辺の下心などお見通しだったのである。
(もっと‥‥こう、お互いに高め合うようなお友達が欲しかったですわ。お兄様はサファさんというライバルがいてるようですし。羨ましいですわ。)
五星のメンバーはみんなピリピリしていて、お友達と呼ぶには気が引ける。しかし、それ以外となると醜い豚候補達しかいない。
(あら、あそこならゆっくり食事が出来そうですわ!)
校舎の裏にある庭まで足を運ぶ。すると、人影が見えた。
(ん?誰かいますわね?)
咄嗟に校舎の影に身を潜めて様子を伺う。
(あの白髪。かの‥‥彼は確か、フィウルス・ハワードでしたわね。)
人影の正体は、姫と同じく人を避けて食事をしているフィウルスであった。白髪はこの世界でも珍しく、学園の中でもフィウルスしかいない。
(入学前にお兄様から聞きましたわ。ハワード家に養子として迎えられた‥‥『神呪』持ちの方。なんでこんなところに‥‥。)
サラリとした純白の髪。金を帯びた瞳はどこか物憂げで、とても儚い印象だった。放っておけばそのまま消えてしまいそうなほどに。
(声を‥‥かけてみようかしら)
人を避けてきたはずだが、何故かこのまま放っておけない気分になり、シャルル姫はフィウルスに話しかける。
フィウルスは、シャルル姫の存在に驚いた様子だが、すんなりと相席を許してくれた。
(とても‥‥純粋な目。さっきまでの豚達とは大違い。)
フィウルスにまったく下心のようなものがないと感じたシャルル姫は気を良くする。
だが、それだけでシャルル姫は心を許さない。餌をチラつかせれば、すぐに豹変する者がいることも知っている。
「あなたはわたくしとお近づきになりたいですの?」
フィウルスに対しての問いかけは、揺さぶりのつもりでもあった。
(わたくし、嫌な女になってきていますわね。王族にこの様に問われたら、答えなんて決まってますのに‥‥。)
しかし返ってきたのは、そんなシャルル姫の予想とは全く違うものだった。
「僕は‥‥あなた達と並び立ちたいです。」
白髪の少年は真剣な目をしてそう答えた。
先ほどまでは儚い、消えてしまいそうな印象だったはずなのに、今では大きく、力強く感じてしまう。
その言葉の意味を、あなた達が何を指すのかも姫は理解した。
今、この少年は、五星である自分達と並び立つと‥‥同じ土俵に立ちたいと言ったのだ。
最弱の6組、しかも『神呪』持ちの少年がだ。他の者が聞いたなら、嘲笑するか憤慨するかのどちらかであろう。
だが、姫にはそれが、将来本当にそうなるような予感がした。根拠などないが、勘が告げてきたのだ。
それに、
(‥‥この目。‥‥この表情。‥‥この言葉がわたくしは欲しかったのですわ。)
彼ならなれる。自分達のライバルに。そして、自分との友達に。
(ああ。この出会いに感謝ですわ。)
この日、シャルル姫にとって初めての友達が出来た。




