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『神殺し』の異世界転生    作者: ヤっちゃん
幼年期
2/78

第1話  雄の死


「ただいまー。」

そう言って玄関の扉を開ける少年、竹中 雄は、中学校の授業を終えて帰宅した。

短髪の黒髪に、小柄で細身な体で、見た目はどこにでもいる凡庸な15歳の少年である。目つきが鋭い以外は。


「おかえりー!おにいちゃーん!」


「おにい!おかえりー!」


そして、少年に飛び込んでくるのは9歳の双子の妹、凛と玲である。


「こら、凛!玲!危ないから飛び込んだらだめだろう?」


そう言いつつ、抱きついている二人の頭を撫でる雄。

そして、廊下に視線を向けると、


「‥‥にい。おかえり。」


廊下の角からヒョコッと顔を出している、8歳の弟。おそらく、同じように飛び込みたいが、恥ずかしくて出来ずにこちらを見ている。


「ただいま、陽。ほら、こっちにおいで。」


「う、うん!」


そんな弟の気持ちを知り、苦笑しつつも、甘えやすい状況に持っていくこの男は、下の子の面倒見に実に慣れている。


「ねー、おにい。今日も楓おばあちゃんと修行するの?」


そう言って首をかしげる凛に対して、


「ちがうよ。今日は楓おばあちゃんはアメリカで大統領の護衛をやるって言ってたよ!」


双子の妹の方である玲が答えていた。

ちなみにこの双子、ショートカットが姉の凛、ロングヘアで髪を下ろしてるのが妹の玲である。髪型が違うのは、周りから誤解されるのを避けるためだとか。


「じゃあ今日は、にいも一緒に遊んでくれるの?」


陽が腕に抱きついて、期待の眼差しを向けるが‥‥


「いや、3人ともごめん。今日は俺の方にも依頼があってな‥‥また今度でいいか?」


「「「えーーー」」」


「その代わり!3人の好きな『あらいぐまヤスカル』のDVDを借りてきたぞ!晩ごはんまで、みんなで仲良く見てるんだぞ?」


「「「わーい!ヤスカルー!」」」


泣きついて来そうだった3人を、見事ヤスカルへと導くことに成功。


そして雄は自分の部屋に入って、道着に袖を通す。

見た目は凡庸な少年だが、彼は『鬼神』九重 楓の唯一の弟子である。幼少の頃に出会い、なんとか弟子入りを認めてもらい、今でも稽古をつけてもらっている。


『鬼神』とは、楓に付けられた二つ名であり、武術界において二つ名を与えられるということは、達人である証拠に他ならない。さらに『神』とつけられる者は群を抜いている。公式大会等では、強すぎるために出場禁止となるほどに。


そして、雄もまた二つ名が与えられている。

『闘神』と『神殺し』である。

この2種類の名前は、彼の闘い方に関与している。ある者は、卓越した技術と戦法を『闘神』と呼び、またある者は、神ですから殺しそうな勢いの闘い方を見て『神殺し』と呼んだ。


そんな2人の師弟には、公式大会に出場出来ない代わりに、その戦闘力を活かした『仕事』が回ってくる。普段は修行をしつつ、依頼がくればそちらに出向く日々である。


「それじゃ、母さん。行ってくるよ。」


キッチンで晩ごはんの準備をしている母親に告げると、


「あら、気をつけのよ?今日は明太子クリームパスタだからね。」


「やった!うん!わかった!」



今回の依頼は護衛である。というよりも、仕事内容はほとんどが要人の護衛なのだが。

無事に目的地まで送り届け、報酬を受け取った雄はこれから帰宅するところである。

時刻はもう21時過ぎであり、途中の山道を走って帰ってるのだが、突然足を止める。


「誰だ?」


そう言って叫ぶ雄だが、辺りには人の姿が見えない。


「‥‥12人とは。たったそれだけで足りると思ったのか?」


再び叫ぶ雄。すると、


「驚いた。まさかバレてるなんてね。」


そう言って姿を現したのは、フードを被った12人。

声は何かで加工しているのか、老若男女の判別が出来ない機械的な声であった。


「今すぐ去るなら、見逃してやるけど、どうする?」


そう言う雄だが、敵にその気はないと感じている。殺気が増してきているからだ。


『サンダーショット』


フードの1人がそう口にした途端、雷の球が雄に向かって放たれた。


「なに!?」


それを驚くが、咄嗟に避ける雄。


(まさか、開門者?いや、今のは気を感じなかったぞ?‥‥よくわからんが、やられるわけにはいかねえ!)


そう切り替えて、襲いかかってくるフードの者の腹に、拳を入れる。

雄の拳をモロに受けた敵は体が、くの字に曲がったまま後方へと飛んでいった。そして、木にぶつかり、動かなくなった。


「バカな!あいつの耐久はB+だぞ!?それを一撃で!?」


狼狽出すフード達に、シーダー格らしい者が指示を出す。


「今すぐに弱体結界を。」


すると、6人のフード達が雄を取り囲み、聞き慣れない言葉を発した。

その瞬間、


「‥‥え?」


突然、雄の体に力が入らなくなった。それどころか重い。少し動くのがやっとなくらいに。


「ステータスもスキルもなしで、ここまでだとは思わなかったよ。本当に大したもんだわ。卑怯な手だとは思うけど、貴方とその師匠を抹殺することが、条件なの。ごめんなさいね。」


敵のリーダーがそう言って、雄に向けて手を出す。それに続いて残りのフード達も。


『アイシクルランス』

『サンダーショット』 

『アース・バレット』

『ファイア・ボール』


「‥‥‥‥っ!!!?ガハッ‥‥!!」


氷の槍、岩の弾丸に火の球、そして雷が雄の体に致命傷を与える。


(なん‥‥だ?これ‥は?)


朦朧とする意識の中、それでも雄は倒れない。


『アーツ・ソード』


しかし、光で象られた数本の剣が飛来して来て、雄に突き刺さる。

だが、


「負‥‥けねえ。俺は、死ぬ‥‥わけにはいかねえ。」

(今度、遊ぶ約束したもんな、凛、玲、陽。母さんも、晩ごはんを置いたまま待ってくれてる。)


「う、うそ‥‥?」


動揺する敵のリーダー。


『ア、アーツ・ソード!アーツ・ソード!アーツ・ソード!!!』


さらに多い数の剣が、雄に突き刺さる。しかし、雄は1歩、また1歩と敵に向かって歩み出した。敵を睨みつけながら。


「あ、ああ‥‥」


敵のリーダーは恐怖のあまりもはや思考が停止していた。

そして、敵に手が届く範囲まで近づいた雄は、鋭い手刀を突き出す。


ザシュッ


「あがっ‥‥!!」


しかし、踏ん張りが効かないせいか、よろけた弾みで、狙いは大きく逸れて敵の左脇腹を掠めるのみだった。

そこへ、


「隊長!!『アイシクルランス!!』」


再び氷の槍が、雄の体に突き刺さる。


(ああ‥‥くそっ。こんなとこで。誰よりも強くなるって‥‥誓ったのに。ごめん、凛、玲、陽。父さん、母さん。‥‥すみません、師匠。)


そして雄は立ったまま、絶命した。





真っ暗闇な空間に、淡い輝きを放つ光球が、順番待ちの行列のように、いくつも並んで存在している。


(お‥俺は‥そうか。死んじまったのか‥‥。)


そんな光球の内の1つとして並んでいる、雄の魂は意識を取り戻す。直前の記憶と、現在の状況から、ここが死後の世界なのかと推測する。


(このまま、輪廻転生して、違う俺に生まれ変わっちまうのか‥‥)


そうやって、諦めかけていた雄の心に、かつての記憶が蘇る。


(雄。これからは、お兄ちゃんになるんだぞ。この子たちを守ってあげれるようにならないとな。)


(あなたの本当の強さは、その心よ。お母さん、あなたのそういう所を、誇りに思っているの。)


真剣な表情をする父と、慈しむように語りかけてくる母の姿。


(おにいー!)

(おにいちゃんー!)

(に、にいー!)


こちらへ飛び込んでくる姉妹弟達。そして、


(のう、坊主よ。達人に‥‥最強になるために最も必要なものは、才能でもセンスでもない。強き信念じゃ。お主にはそれがある。強くなりたければ、ワシの稽古についてこい!ただし、途中で死ぬことだけは許さぬぞ?これは約束じゃからな。)


自分を鍛えてくれた、師匠との約束。


(‥‥そうだ。たとえ死んでも、このまま終わってたまるか!俺は俺のまま、もう一度強くなってやる!!)


そう奮い立ち、雄の魂は列から外れる。そして、ただひたすらに彼方へと飛んでいった。


直後、


「エラー発生。エラー発生。ヒトツノタマシイガ、リンネヲハズレタ。タダチニショウメツサセマス。」


不気味な機械音が暗闇の中で流れるが、


「いいえ、いかせてあげなさい。」


透き通るような美しい声が響き渡る。


「綺麗で、とても力強い魂の輝きでした。このまま見守りましょう。」


「カシコマリマシタ。ツウジョウギョウムニモドリマス。」


そんな会話のやりとりが行われていたことを、雄は知らない。

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