幕間 Side サファ
街中で暗殺されるところをフィウルスから守られた日の夜、サファは不思議な夢を見ていた。
そこは真っ白な空間だった。
右を見ても、左を見ても何もない。もちろん上も。自分が立っている真っ白な床だけが地平線の先まで続いている。
(ここは、一体‥‥)
『ようやく繋がりましたね。』
「え?だ、だれ!?」
怯える。それも仕方ない。さっきまで寝ていたはずが、気づけば知らない場所にいるし、得体の知れない声が響き渡るのだから。
『落ち着きなさい、人の子よ。ここにあなたを害する者の存在はない。』
優しそうな女の人の声だ。少し警戒を解きながら、サファはそう思った。
「ここはどこ?あなたは誰なの?」
『ここはあなたの深層心理と私の神域を繋げた場所。現実世界のあなたは今も寝室で寝ているわよ。』
「神域って‥‥」
『ええ。私の名はアウレール。結界神って大そうな肩書のね。』
「し、失礼しましたあああっ!!!」
予想外の相手に、ほぼ反射的に深く腰を曲げる。知らなかったとはいえ、神相手にする態度ではなかった。
(け、結界神アウレールってお母様に加護を授けたお方じゃないの!!?な、なんで突然?)
『ふふ。そんなに畏まらなくてもいいのに。さっきまでの態度で接してくれた方が、私は好きよ?』
「い、いえ。そういうわけには。」
『もう、真面目なんだから。マリー達の教育がしっかり行き届いてるってことなんだろうけど‥‥。』
なんてフレンドリーな神なんだろうか。
「あ、あの、どういったご用件で‥‥」
『ああ。そうそう!サファちゃん。あなたに加護を与えようと思ってね。』
「ほ、ほんとですか?」
『ええ。条件はついさっき満たしたからね。』
「やった!あ‥‥し、失礼しました。」
『ふふ。可愛いらしいわね。』
「あ、あの。条件っていうのは何だったのか、聞いてもいいですか?」
サファはこれまでも母親と同じように、アウレールの加護を授かるために何度も結界魔法の練習をしていた。しかし、一向に叶わなかったのだ。それなのにここにきて突然、条件を満たしたと告げられたのだ。気にならないはずがない。
『他の人に漏らさないのなら、いいわよ。そうね、主には‥‥その人が善性の心の持ち主であること。結界魔法に高い適正があること。それと、守りたい大切な者がいることよ。』
「守りたい大切な者‥‥」
前者の二つはまだわかる。神によってはその人の心の在り方を大事にする者もいる。
結界魔法の適正も、結界神の加護を授かるために必要なのも予想できることだ。
『ふふ。意外だった?でも、最後のこれだけは譲れないの。私が人間だったころも守りたい人はいたのよ?』
「そ、そうだったんですか。」
(わ、私の守りたい大切な人‥‥ついさっき?それって‥‥!)
『可愛らしいわね〜彼。サファちゃんはああいうのが好みなんだ〜。』
「‥‥!」
顔が一気に熱くなる。見抜かれている。それは自分でも気づかないようにしていた、淡い恋心。
だが、神を欺くことは出来なかった。
『最初の出会いも運命的だったわよね〜。可愛らしい顔をしてるから、弟として可愛がることで何とか誤魔化していたみたいだけど、二回目は流石にとどめになっちゃったかな〜?』
「あ、あわわわわ」
恥ずかしい。この思いを知られてしまったのは、ひどく恥ずかしい。これは死にたくなる。
頭を抱えてうずくますサファに、これ以上可愛がるのは流石に可哀想だと思ったのか、アウレールは話題を変える。
『‥‥結界魔法は強力な分、発動や維持が難しいからね。その辺はマリーに教わりなさい。』
「は、はい。わかりました。」
『じゃあ、そろそろ時間ね。サファちゃん、私が出来るのはあくまで手助け。その力で大切なものを守りきれるかは、あなた次第よ。』
「はい!ありがとうございました!」
サファは深くお辞儀をする。
(やっと、やっとこれで結界魔法を使うことが出来る!これからは、私が守る!)
その決意をするとともに、サファの意識は覚醒を始める。
「ん、朝?」
見慣れた寝室。いつもより早い起床時間だが、サファの意識ははっきりしている。
「ステータス」
まずは自分のステータスを確認する。先ほどの夢が本物ならば、あるはずだと確信して。
「‥‥あった。結界神アウレールの加護。」
部屋を飛び出す。駆け出して向かった先は、
「お母様!」
「ん〜?どうしたの?サファ〜?」
まだ少し眠たそうにしているマリー夫人だった。
「加護を授かったの。‥‥結界神アウレール様の。」
「あら‥‥。そう。サファにも出来たのね。」
何がとは言わないが、マリー夫人とサファは分かっている。お互いに同じ加護をもらっているのだから。
「なら、これからは特に厳しい訓練が待っているわよ〜。覚悟しておいてね。」
「うん!私だって、頑張るんだから!」
後に「結界剣術のサファ」として世界中に名を轟かせる伝説の、誕生の瞬間であった。




