ミナト
翌日。わたしはおばあちゃんと作った、ホイップクリームの乗ったプリンを手に、町外れの廃墟に来ていた。
「…?おや、いらっしゃいかなた」
わたしの気配に気づいたのか、着古したシャツにくたくたの黒いカーディガン姿の青年が振り向き、その誰もが見とれる美貌にとろけるような笑みを浮かべた。
真白い髪は雪のように白く。優しい光をたたえた赤い瞳は宝石のように輝いている。シミ一つ見当たらない陶器のような肌に、服の上からわかるほど均整のとれた体つきと、この人の美しさを表す言葉は見る度にどんどん溢れてくる。その人外じみた美貌は、誰しもの目を惹きつけることだろう。
「久しぶり、ミナト」
頭を下げてわたしは手土産に持ってきたプリンを渡そうとしたけど、ミナトがわたしに飛びつくように抱き着いてきたので、わたしはプリンの入った袋を近くのテーブルに置いて受け止めた。
「うーん、今日もかなた可愛いねぇ。身長伸びた?本当に人の子の成長は早いなぁ。あ、プリン持ってきてくれたの?ありがとうかなた。俺ひまりの作ったプリン好きなんだよね」
「そ、そうですか…えふっ」
「あぁ、ごめんね力が強かったね。いやぁかなたと会うの久しぶりだから、テンション上がっちゃった」
わたしを抱きしめるなり、摩擦熱で発火するんじゃないかって勢いで頭を撫でてきたミナトの腕の力がだんだん強くなってきたので、わたしは腕をタップして苦しいアピールをした。わたしから腕を離したミナトは、廃墟の中に置かれた椅子に座り、膝の上にわたしを乗せた。
「一緒にプリン食べようね」
「…わたしを膝に乗せる必要ないのでは?」
「うん?あるに決まってるじゃないか。こっちの方がかなたの可愛い顔がよく見えるよ」
「よくそんな恥ずかしいセリフぽんぽん出るね…」
「あ、照れてる?可愛いー」
ミナトはわたしの頭に頬ずりしてきた。
ミナトとは長い付き合いになる。元々おばあちゃんと知り合いだったそうで、わたしが幼い頃引き合わされたのだ。人でないが故に長い時間を生き、様々な人間を見てきたミナトはわたしが転生者であることを一目で見抜き、気に入られているのか会う度にこうして過剰なスキンシップをとられている。
「それで?今日はどうしたの?」
「むぐっ…。昨日ちょっと気になることが起きて」
「気になること?」
わたしの口にプリンを運びながら、ミナトは首を傾げた。美人はこういうあざといしぐさも絵になるんだなぁ…と思いつつ、口の中のプリンを飲み込む。
「昨日、わたしたちの家の裏山に災害級の魔物が出たんだ」
「災害級?」
「うん。その時魔法騎士団の人達と一緒だったんだけど、その人達はメルトスパイダーって呼んでた」
「メルトスパイダー…。生息地で考えれば、あの辺りに出てもおかしくはないけど。でも俺も気になるな。あれは巨体過ぎて移動するにも労力がいるから、そう大規模な移動はしないんだ。元々縄張りとしているダンジョン以外に出没することはきわめて少ない。と、なると…」
「誰かが、意図的に召喚した?」
「そう考えるのが妥当だろうね」
「一体誰が…」
「…ふむ」
ミナトは考え込むような素振りを見せた。
「ミナト?」
「俺も調べてみることにするよ。だからかなたはあまり気に病まないでね」
「ありがとう、ミナト」
「礼には及ばないよ」
ミナトは笑顔のままだけど、その瞳は冷たい光をたたえていた。
「…俺のお気に入りに手を出したらどんな目に遭うのか、思い知らせてあげないとね?」
優しい笑みのままだけど、目が笑ってない。彼の浮かべた捕食者の笑みに、わたしは冷や汗をかいた。