着流しの青年の正体
『そろそろ良いか』
『うん、ありがと雷切!』
二人から離れたところまで移動すると、頭の中に雷切の声が響いた。わたしが許可すると、憑依が解けて視界が一気に低くなった。
「き、緊張したー!わたしってバレてないよね!?」
『落ち着きなさい、かなた』
今度は女性の声が頭に響く。
『憑依後の姿はあなたとは似ても似つかないものよ。バレるはずがないわ』
「いやぁそれでも不安になるよぉ。イーリス達のことがバレちゃったら、おばあちゃんと離ればなれになるの確実だし…」
『むっ。かなたはぼくとひまりどっちが大事なの?』
「うえー?そりゃヒナタって答えたいけど、でもおばあちゃんも大事だし…うぅ…」
『…ミナ、オチツ、イテ。カナタ、コマッテ、ル』
渋滞し始めた頭の中で、相棒達を制したのは氷雨だった。
『イマハ、ゴウリュウ、スルノ、イチバン、デハ?』
「そうだね。二人とも不安がってるかもしれないし。でも下手に動くと会えないかも…」
『それならば裏山の入口で待機するのがよろしいかと』
「あー、なるほど!紅は頭良いなぁ。そうしよう」
わたしは紅の言うとおり、裏山の入口で二人を待つことにした。しばらく待っていると二人が現れ、リュウに至ってはわたしと目が合うなり駆け寄ってきた。
「かなた様!」
「良かった、二人とも無事だったんですね!」
「あぁ。知らないやつに助けられたんだ。かなたがそいつに助けを求めたって聞いたんだが、あいつは知り合いなのか?」
「いえ…。あの時はパニックになっていたので、とにかく誰かに助けを求めなきゃって走ってたら、たまたまあの人が通りかかりまして。それで頼んでみたら、快く引き受けてくださったんです」
「そうか…。悪かったな、不安にさせて」
ベルナールさんは力ない笑みを浮かべてわたしの頭を撫でた。
「ベルナールさんは大丈夫なんですか?リュウに支えてもらってますけど…」
「ちょっと魔術使っちまったからな。魔力切れ起こしてこのザマだ。本当今日の俺カッコ悪い…」
「そんなことないです」
わたしはベルナールさんの言葉を真っ向から否定した。
「ベルナールさんは、あの魔物が現れた時、冷静にわたしを逃がしてくださったじゃないですか。しかも一人で立ち向かって、わたしが逃げる時間を稼いでくださった。その時のベルナールさんは、すっごくカッコ良かったです!」
「…はは、ありがとなぁ」
「僕達は一度本部に戻ろうと思っています。報告の際に話を伺うこともあるかもしれません。その時は、ご協力願います」
「うん、わかった。ベルナールさん、ゆっくり休んでくださいね」
「おう、ありがとな」
二人に手を振って見送る。
(…気づかれてないと見て良いのかな?)
二人を助けた青年ーわたしに雷切が憑依した時の姿だーの話になった時はヒヤヒヤしたけど、とっさに吐いた嘘はバレていないみたいだ。騙してしまったことに心苦しさを感じつつ、わたしは家に戻った。
「…てことがあったんだ」
「あらまあ…」
わたしはおばあちゃんの作ってくれた夕ごはんを口に運びながら、今日の出来事を話していた。いつもより豪勢で美味しい食事なのに、いつもより箸を持つ手が重く感じた。
「かなちゃんってバレなくて良かったわ。おばあちゃんそこが心配で」
「それも気がかりだけど、この辺りに災害級の魔物が出たことも気になるよ。今までこの辺りに出たことあった?」
「うーん…。私の記憶が間違ってなければ、なかったと思うわ」
「そうだよね、あんなのがポンポン出てたらおばあちゃんここに住んでないよね」
わたしとおばあちゃんは顔を付き合わせながらうーんと唸った。
「…明日ミナトに聞きに行ってみようかな」
「あら、ミナトさんのところに行くの?なら手土産用意しないといけないわね」
「わたしも手伝う」
「ふふ、ありがとう」
わたしとおばあちゃんは二人並んでキッチンに立ち、明日持っていくプリンを作った。