vsメルトスパイダー
ドンッ
パァンッ
ドンッ
パァンッ…
ベルナールはメルトスパイダーから距離をとりながら、液体の入った袋を一つずつ銃弾で破裂させていった。
(あの袋には、超濃度の酸が入ってる。だから酸を被らないよう、距離をとって潰していくのが定石だが…)
一度身を潜めて、ベルナールは手持ちの銃弾の数を確認した。
(くそっ、こんなんじゃ絶対足りねぇ!こんなことになるならもっと持ってくるんだった…!)
「ベルナール様!」
「!リュウ!」
ベルナールのもとにアンドリューが駆け寄る。
「お前銃弾何発持ってる?」
「…すみません、さほど持ってきていません」
「いや、謝らなくて良い。まさか災害級とこんなところで出くわすとは誰も思わないさ。…魔物と会わなかったのは、あいつが原因か」
「どうしますか、ベルナール様」
「どうもこうもねぇよ。俺達の仕事はこの国の人間を守ることだ。俺達があいつを逃がそうものなら、この近くに住んでるかなた達が被害を被る可能性がある。そんなことは絶対させねぇ。-だから、倒す。たとえ、命に代えてもな」
「了解しました」
ベルナールとアンドリューはともに銃を構えて物陰から飛び出した。二人の抜群のコントロールにより、銃弾は一つとして外れることなく、酸の入った袋を潰していく。
しかし、袋はまだまだ残っている。
「ちっ、弾切れだ!リュウ。そっちはどうだ!?」
「すみません、こちらも弾が尽きました!」
「…仕方ねぇ、魔術を使う!俺が準備している間、あいつがこっちに来ないよう妨害してくれ。頼めるか!?」
「はっ!」
アンドリューがメルトスパイダーの目を引きつけるように前に出たのを見てから、ベルナールは後ろに下がり、親指の皮膚を噛みちぎり血を流すと、簡易的な魔法陣を描き始めた。四方に魔法陣を設置すると、ベルナールは魔力を注ぎ込む。
「よし、準備万端だ…!リュウ、下がれ!」
リュウがメルトスパイダーから離れたのを確認してから、ベルナールは叫ぶ。
「ー『燃やせ』!」
四方に設置した魔法陣から火柱があがり、メルトスパイダーに向かっていく。四本の火柱に包まれたメルトスパイダーは、キシャアァァァァァ…と耳障りな叫び声をあげる。
「はあっ、はあっ…。どうだ!?」
大規模な魔術を使い、ベルナールの魔力はもう底を尽きそうになっている。踏ん張っていないと倒れてしまいそうだ。
火柱が収束していく。黒焦げの体と化したメルトスパイダー…足を動かし、またキシャァァァァ!と雄たけびをあげた。
「くそっ、そう簡単には倒せないか…!」
「ベルナール様、下がってください!そんな体では戦えません!」
「けどな…!」
「ー裂けよ、閃光」
それは、さほど大きな声ではなかった。だが、よく通る声だった。その声が二人の耳に届いた瞬間、稲妻がメルトスパイダーの体を裂いた。
ア…アァ…
メルトスパイダーは小さく声をあげ、ズシャアッと音をたて倒れた。綺麗に真っ二つにされた断面から、メルトスパイダー目がけて落下した稲妻はかなりのエネルギーを凝縮したものだとわかる。
「な、なんだ…?」
「大事はないか?」
呆然とするベルナールとアンドリューの前に現れたのは、芥子色の着流し姿の青年だった。青年の黒い髪には、黄色い光がメッシュのように走っている。
「だ、誰だ…?」
「名乗る名はない。もう一度聞こう。大事はないか?」
「あ、あぁ。今のはあんたがやったのか?」
「左様。某の雷はすべてを切り裂く」
武士のような口調の青年は、二人をじっと見つめるとベルナールに手を差し伸べた。
「立てるか」
「あぁ。悪いな、助かった」
「人命とは尊きもの。それを守護するのは人として当然のつとめなり」
青年はくるりと背を向けた。
「後始末は任せよう。某は戻る。…そういえば」
青年は何かを思い出したかのように顎に手を当てながら呟いた。
「ここに来る途中で、少女に助けを要請された。ぬしらの知り合いではないのか?どうやらここに向かっていたようだが」
「!そうだ、かなた様…!」
「もしかしたら迷ってるかもしれないな。探すついでにここを出よう。上に報告もしないといけないしな。なぁ、あんたもー」
ベルナールは着流しの青年の方を向いたが、青年はもう姿を消していた。
「何だったんだ…」
「かなた様を探しましょう、ベルナール様!」
「あー、わかったわかったから」
かなたを案じて取り乱し始めたアンドリューを宥めながら、ベルナールはその場を後にした。