21−38 悪趣味以外のナニモノでもない
「あぁ、いいな〜、いいな〜。僕もハニーとラブラブしたいかもぉん……」
ミカエリスとリヴィエルのさりげな〜いラブ・アピールを羨ましがるベルゼブブだけど。でも、俺達にはまだまだ別のお仕事が用意されている訳で。そう待たされることもなく、ベルゼブブのハニー(苦笑)・ルシファーからお呼びがかかると思う。……ラブラブについては知らんけど、少なくともお嫁さんとの共同作業はたんまり残っているぞ。
「落ち着け、ベルゼブブ。焦んなくても、俺達には別枠で招集があるだろーから」
「そう言えばそうだったね。確か……僕の指輪がお守りになるんだっけ?」
「ま、そんなトコだな。……呪いの指輪がお守りとか、悪趣味以外のナニモノでもないけど」
いずれにしても、ベルゼブブの指輪がキーアイテムであることに変わりはないし、性能を否定する気もサラサラない。でも……いくら実害はないとは言え、効果音が精神的にくるんだよなぁ。
「いいなぁ……」
「えっ? いや、ミカエリス……これのどこが、いいんだよ? だってさ、この指輪……外そうとすると、不気味な効果音が鳴るんだぞ? ほれ、こんな風に……」
百聞は一見に如かず。新しい犠牲者を増やさないためにも、実演して見せましょうと、覚悟を決めて指輪に手を掛ける。そして、次の瞬間……!
「デデンデンデン デンデロリン♪ おきのどくですが あなたは のろわれてしまいました」
すーん……呪いが解けているかも知れないと、ちょっと期待してたんだけど。やっぱり、仕様は変わってないか。
「……な?」
「うわぁ……これは確かに、酷いかも……!」
背中をゾワゾワと虫が這い回るようなサウンドに、ラブラブで浮ついていたミカエリスの顔が引き攣る。リヴィエルに至っては、小さく悲鳴まで上げてるし。
「もぅ……何がそんなに不満なの〜。この呪いがあれば2人の愛を未来永劫、強引にキープできるって言うのに……」
「だーかーらー……それ、ありがた迷惑ってヤツだからな? お前なんぞに心配されるよーな夫婦仲だったら、最初から結婚なんぞ、考えるべきじゃねーな」
いや、本当に。
「でも……不気味な音が鳴る以外の実害はないんですよね? 外そうとしなければ問題ない、で合っていますか?」
「まぁ、そうなるか……? 指輪自体はペアで着けていれば、シンクロ率を上げる効果もあったりするし、それなりに旨味もあるな。呪いのサウンド以外の難点は、コレと言ってないけど……」
意外や意外……リヴィエルは呪いの効果音にもめげずに、指輪の有用性にも気づいたらしい。キラキラした眼差しを向けながら、ミカエリスに寛大な提案をし始めたんですけど……?
「だったら、セバスチャン。あの……もし、よければ……私をお嫁さんにしてくれますか?」
「うん、僕も是非にお願いしたいです……」
いや待てよ、マジで。こんな戦場のど真ん中(激戦地は上空だけど)で何を確かめ合ってるんだ、お前らは。
「リヴィエル、早まるんじゃない! 一生を添い遂げる相手がこいつでいいのか⁉︎ ホントーに大丈夫⁉︎ 大体、そういうのはもうちっと、互いを確かめ合ってから……」
「それ、成り行きでリッテルちゃんと一緒になったマモンが言う〜?」
「それはそれ! これはこれ! この場合は俺がどうの、とかじゃなくてだな!」
ベルゼブブが余計な茶々を入れるもんだから、堪らず喚いてしまったが。……あっ、これはもしかして。2人の英断(方向的に不味いヤツ)を更にホットにしちまった感じか……?
「なんだか、ボス……ブラックタイガーみたいですね……」
「ブ、ブラックタイガー⁇ えっと、それって……」
例の禁書のお邪魔虫だった気がする。俺がモデルだとか、何とかって話も聞いていたよーな……。
「確かに! ロキシオを案ずると見せかけて、恋路を邪魔するところとか! ソックリですね」
「いや……俺は別に、邪魔するつもりはないんだが……」
何、この切ない感じ。どうやら、熱々なお2人さんに邪魔者として認識されたっぽいぞ……?
「マモン?」
しかも、ベルゼブブよ。お前も妙な流れに乗るんじゃない。いかにもなため息と一緒に、肩に手を置いてくるなし。そんでもって、悟ったように首を振るなし。
「もう、勝手にしろ……。この先、どうなっても知らないからな……?」
そうして、俺は俺で負け惜しみじみている台詞を吐くけれど。……本当に大丈夫なのかな。しっかり者のリヴィエルはともかく、旦那が頼りなさマックスのミカエリスで。それでなくても、ポンコツ悪魔第2号も変な方向に突っ走りがちなんだよなぁ……。
(はぁぁぁ……とりあえず、その辺は俺がフォローしてやればいいか……)
神界から輿入れしてきたお嫁さんが困るような事があったら、ちゃんとミカエリスを鎮めないとな……。「勝手にしろ」とか言いつつ、配下の素行が気になるのは親玉の悲しいサガというもので。
「それはそうと、セバスちん。指輪、どうする〜? どうする〜? もし材料があれば、作ってあげるよん?」
「もちろん、お願いしたいです! えぇと……材料はこれで……」
ミカエリスを変なあだ名で呼びつつ、ベルゼブブが呪いのアイテム作成を持ちかけ始めたけど。……そこで迷わず二つ返事かよ……。しかも、ミカエリスが取り出した材料は……。
(選りに選って、雷鳴石を選ぶのか……?)
確かに、指輪の材料としてはバッチリかもしれないが。悪魔に対して警戒心丸出しの特殊鉱石を材料にするとか、どうなんだろう。だけど、ミカエリスが雷鳴石を選んだのは純粋に持ち物がそれだけしかない、っていう理由だけじゃないようで……?
「セバスチャン、それ……」
「うん、僕の記憶のカケラだね。ほら、これがこのままの姿であるとリヴィエルも辛いでしょ? だから、指輪にしてもらおうよ。形が変われば、平気……って、あっ。そうじゃないか。今度は指輪を見る度に辛い思いをさせるのかな……?」
「ウゥン、大丈夫。セバスチャンの思い出が指輪になるなんて、とっても素敵です」
「そう? ふふ……だったら、よし! ベルゼブブ様。これでお願いできますか?」
「はいよん。……それにしても、これまた見事な雷鳴石だぁねぇ。魔力もビンビン感じるし、トゲトゲしい感じも誰かさんにそっくりな感じ? もぅ〜、昔のブラックタイガーちゃんはヤンチャだったんだからぁ〜」
「……そこでご丁寧に黒歴史をほじくり返すな。そんでもって、誰がブラックタイガーだ、コラ。俺はエビの親戚になった記憶はねーぞ」
もう、いいや。本当に色々と。
相変わらず無駄に見事な手際で指輪を作り出すベルゼブブと、そんな指輪(素材も音響も呪いまみれ)を嬉々として受け取るセバスチャン。そうして片方をリヴィエルに渡すと、お互いの左薬指に迷う事なく、指輪を滑らせる。
ハイハイ、これで君達は夫婦になったと同時に、グラディウス突入部隊への参加権もゲットしました。コーングラッチュレイショォン、おめでとう。病める時も〜、健やかなる時も〜、手を取り合って生きていってくださーい。天使と悪魔の組み合わせじゃ、冗談抜きでその誓いは永遠、永久不滅。指輪込みだったら、途中棄権も許されない。その辺、この2人は分かっていなさそうだけど。
「くぅぅ……弟子に先を越されました……! 私も魔力を上げる指輪が欲しい……!」
更に更に、恋愛のレの字も分かっていなさそうな、ダンタリオンが視界の端で地団駄を踏んでいる。一応、言っておくけど。この指輪は「魔力を上げる」タイプの魔法道具じゃない。シンクロしてくれる相手(ベルゼブブ流に言えばラブラブ?)がないと、呪いだけが残るスグレモノだ。しかも、相手がいたらいたで、外せないトラップ付き。だから……どう頑張っても、悔しがる内容じゃないからな?
(そこんとこはミカエリスも、ダンタリオンも。……なーんも分かってなさそうだな……)
はぁぁ……ナンバー2含む配下がこの調子じゃ、俺の気苦労はノンストップ確定なわけで。……こればかりは、ヤーティ達みたいなデキる配下がいるサタンが羨ましい。