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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第21章】鋼鉄女神が夢見る先に
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21−9 盛大に爆ぜました

 確かに「今の彼」は天使達にしてみれば、旦那様最有力候補だろう。まろやかで棘のない甘いマスクに、洗練された優雅な所作。セリフはやや芝居がかっていて、無駄にキザな部分があるけれど。紡がれる内容は乱暴とは程遠い、優しい言葉。……これでは、憧れるなと言う方が無理だろう。


(……それにしても、こんな場所で浮かれる必要はないだろうが……!)


 のんびり話をしているように思えるが、ルシフェル達の周囲も当然ながら激戦の最中である。羨望の悪魔達による防御魔法があるから、こうして「世間話」に興じていていられるだけで……本来であれば黄色い雑音も含めて、この呑気さは異常としか言いようがない。


「それはそうと、ルシファー。僕に何か用があるんだろう?」


 しかし、一方で……ルシフェルがゲンナリしているのを知ってか知らずか、リヴァイアタンが突撃訪問の真意を尋ねてくる。


「あぁ、そうだった。リヴァイアタンであれば、グラディウスの魔力にも影響されなくて済む……のは、間違いなさそうか?」

「多分、ね。この感じだと、誰も抱えていない状態であれば……大丈夫だと思う」


 リヴァイアタンが右肩にトリアイナを担ぎながら、器用に左肩だけを竦めて見せる。しかし、陽気な仕草の割には真剣な空気もヒシヒシと伝わってきて……彼もきっと、自覚しているのだろう。本当は単身での潜入が、いかに無謀であるかを。


「……だけど、行くしかないよね。なんと言っても、僕の肩に世界の未来がかかっているんだ。だったら……ふふ。僕1人で済むのなら、安いものさ」

「ゲゲコォ⁉︎」

「それはダメでゲコ、リヴァイアタン様!」

「ボスがいなくなったら、誰があっし達を導いてくれるんでゲス⁉︎」

「え? それはだから、ザーハに……」

「ダメです! ダメですって! ダイダロス様は変な発明品を作るのに、夢中なんですからぁ!」

「……あっ、確かにそうかもねぇ。最近のザーハは趣味にますますのめり込んでいるものね」


 リヴァイアタンが立派な真祖に成り上がったため、ザーハはやや暇を持て余している状態になっている。今まで彼が代理で行っていた視察も、配下のフォローも、リヴァイアタンが自ら対応するようになったとあれば。時間がたっぷり余るのも、当然の成り行きであった。

 どうやら、最近のザーハは持て余した時間を「変な発明」にどっぷり注ぎ込んでおり、周囲の悪魔に「モニタリング」を頼んで回っているらしい。しかし……中には明らかな失敗作も含まれているため、突然の爆発やら、誤作動やらに巻き込まれて、泣きを見る悪魔が後を絶たない。


「アハハ……ザーハにも困ったものだね。こうなると……僕が情けないくらいの方が、ちょうど良かったのかも? だとすると、僕がいない方が元に戻っていいんじゃない?」

「いや、ですからぁ!」

「どーして、そうなるんでゲコ⁉︎」

「ハハ……冗談さ、冗談。しかし……おや? 待ってくれ給え。そう言えば、この間ザーハが作っていたのは……」


 リヴァイアタンの無茶を必死に止めようとする、ベールゼフォーやグラントロール達。しかし、そんな彼らの訴えから「ザーハがここにいない理由」を改めて思い出すリヴァイアタン。そして、すぐさま……重要な事にも気付く。


「そうか……! なんだ、そうすればいいんだね! スケダラさん、悪いんだけど。今すぐザーハと……リッちゃんファイナルを呼んできて」

「承知でゲコ! しかし……リッちゃんファイナルを呼ぶんですか?」

「……それ、マモン様的にはセーフでゲスかね?」

「世界平和のためなら、マモンも理解してくれるさ。何せ、彼はとってもエキセントリックでラブリーだからね。ふふ……大丈夫。話せば分かってくれるよ」

「……だと、いいんですけど。とにかく……承知したゲコ。ザーハ様をお呼びしてきます」

「うん、ヨロシク!」


 爽やかな笑顔で、ベールゼフォーの片方を送り出すリヴァイアタンだったが……ルシフェルが周囲を窺うと、羨望の悪魔達の顔が妙にひきつっているようにも見える。いや、これは……恐怖で歪んでいる、が正しいか?


「……リヴァイアタン。そのリッちゃんファイナルとは、どんな魔法道具なんだ?」

「うん? あぁ……リッちゃんファイナルはね。マモンの嫁もどきを模した人形の事さ」

「マモンの……嫁もどき?」

「あっ、ルシファー様。リヴァイアタン様が言っている“嫁もどき”は、リッテル様のことでゲス。……リヴァイアタン様はマモン様にご執心なんでゲスよ」

「そ、そうだったのか……?」


 何やら「良からぬ思い出し笑い」で嬉しそうにし始めるリヴァイアタン。そんな彼の代わりに、周囲の悪魔達が教えてくれるところによると。リヴァイアタンは本来の力を取り戻すキッカケを作った、マモンに惚れ込んでいるらしい。しかも、怪しい方向まっしぐらの状態とのことで……彼らの説明に、天使達から先程の声色とは違った黄色い奇声が上がるものだから、ルシフェルとしては頭が痛い。


「……この際、薄ら寒い恋愛事情はいいとして。それで? 具体的に、リッちゃんファイナルは何ができるんだ?」

「瘴気や魔力を変換して、愛をくれるでゲス」

「……はっ? 愛をくれる……だと?」


 それは要するに……瘴気を浄化した挙句に、愛想を振りまくという事だろうか?


「いや、ですから……リッちゃんファイナルは、量産型リッちゃんの決定版でして。沈みかけた魂じゃなくて、瘴気を原動力に夜伽モードを……」

「……もう、いい。それ以上はいいぞ、カクマルとやら。この辺は……あれか? リッテルに執心していたとか言う、ヨルムンガルドの趣味か?」

「その通りでゲコ」

「これだけの情報でそこまで理解するなんて……流石、天使長様でゲス!」

「う、うむ……こんな事で褒められてもな……」


 だが……ここで脱力するのは、まだまだ早い。羨望の悪魔達の口から、ゲンナリしているルシフェルに、いよいよリッちゃんファイナルの真の恐ろしさが告げられる。


「ちなみにですけど。リッちゃんファイナルは、瘴気を吸って動くため、とにかく口が悪いのです。そんでもって、気に入らないことがあると……爆発するでゲコ」

「はっ?」

「爆発……ですか? カクマル様」

「はい。そうでゲコよ、大天使様。あれは間違いなく、大爆発ゲコ」


 先程まで静かに会話を見守っていたラミュエルも、あまりに物騒な内容に思わず口を挟む。そんなルシフェルとラミュエルの反応を前に……さも情けないとため息をつきながら、カクマルが説明を続ける。


「それで、ですね。今のザーハ様がのめり込んでいるのは……リッちゃんファイナルの修復でゲコ。恐ろしいことに、リッちゃんファイナルはザーハ様さえいれば、修繕可能なんでゲコ。尚、調子に乗ってリッちゃんとムフフしていたヨルムンガルド様は、彼女の逆鱗に触れたみたいで……盛大に爆ぜました。現在、ヨルムの沼で療養中でゲコ」

「そ、そうか……。因みに、それはマモンには内緒にしておく……でいいんだよな?」

「それでお願いしますゲコ。そんな事が知れたら……今度こそ、ザーハ様がお造りにされてしまいます」


 ヨルムンガルドの自業自得加減も呆れたものだが、それ以上にカクマルの懸念事項は「そんな凶暴なリッちゃん」を目の当たりにして、マモンが激怒しないかが心配なのだという。なにせ、ザーハはマモンに「もうリッちゃんは作らない」と約束していたのを、自身の創作意欲に負けて反故にしてしまっている。故に……いくらヨルムンガルドが認めているとは言え、最強の悪魔を敵に回したに等しい状況に、羨望の悪魔達は戦々恐々としているそうだ。


「まぁ、マモンは実行犯以外にまでお仕置きを加えるほど、乱暴じゃないと思うけど。それ以前に、ザーハのガラクタは変なものが多いからねぇ。真祖の僕でも、フォローしきれないよ。でも……リッちゃんファイナルであれば、今回の突破口を作れそうかも。彼女は瘴気を吸う性質が災いして、“口と性格が悪い”んだ。もし機神族化されそうになっても……それこそ気に入らないと、“自分の意思で”大爆発するだろうし」

「なるほど……それは確かに、利用価値もありそうだな。しかし……それにしたって、リッテルを模して作らずとも良かっただろうに」

「そうですよね……。どうして、わざわざマモン様を怒らせるような物を作ってしまったのでしょう……」

「……それはヨルムンガルド様の趣味です。それ以上でも、それ以下でもないでゲコ」

「……」


 最後に諦めたように深いため息をつくカクマルと、やれやれと苦笑いを零すリヴァイアタン。その様子に……自分の配下は浮かれ具合は微妙だが、まだまだ素直で被害も少ないと、ルシフェルも乾いた笑いを漏らすことしかできないのだった。

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