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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第21章】鋼鉄女神が夢見る先に
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21−6 手荒なくらいが丁度いい

「お待たせしまして申し訳ございません、マスター!」


 本性を顕にしても、竜神様の腰の低さは相変わらずらしい。開口一発、ルシエルへ詫びを入れ始めるゲルニカに、俺としては律儀過ぎるのも考えものだと呆れてしまう。……いや、本当に。ゲルニカはもっと威張ってもいいと思うんだ。


「いいえ、滅相もないことです。こうして、エレメントマスターが勢揃……あれ? ギノは……?」


 頼もしい助っ人への返答ついでに、地属性のエレメントマスターがいないことに首を傾げるルシエル。水のエレメントマスターは俺自身は初対面だが、マハさんの隣に浮かんでいるのが多分、アウロラちゃんのお父さんなのだろう。……ゲルニカやマハさんにも引けを取らないくらい、威風堂々とした存在感を迸らせている。一方で……確かに見慣れた顔がないな。ギノはどうしたのだろう?


「地属性の竜族はギノ君も含め、エルノ……あぁ、いえ。竜女帝とドラグニールの護衛に残っております。ドラグニールにとっても、今は大一番ですので……」

「そう言えば、そうでしたね。……そんな忙しい時にお呼びだてしてしまって、すみません」


 俺の肩の上で、潮らしくルシエルが恐縮すれば。それこそ、滅相もないとでも言いたげにゲルニカが首を振る。しかし……ただ首を振るだけのアクションでも、ブルンブルン大きな音が鳴っている時点で、ドラゴンの体格そのものも規格外だと思い知る。……手ぶりに身振り、尻尾をちょっとブンブンするだけでも、立派な攻撃になりそう。


「それはそうと……これで今度こそ、デカディウスをスクラップにできそうだな」

「デカディウス……?」

「おぅ。俺が勝手につけたあだ名。なんだか、それっぽいだろ?」

「いつも思うのだけど……ハーヴェン、ネーミングセンスは微妙だよな?」

「オゥフ⁉︎ そこで微妙って言うなよ〜。しかも、いつもって……それこそ、いつの話だよ⁉︎」

「内緒」


 そこで可愛く首を傾げての「内緒」は反則だろ……。それに、結構自分ではピッタンコだと思ってたんだけど。このセンスをルシエルと共有できないなんて、なんだか残念だなぁ……。まぁ……この際、相手の名前はどうでもいいか。自己紹介されたわけでもないし、穏やかに「こんにちわ」なんて挨拶できそうもないし。


「よっし、とにかくアレをどうにかしないとな!」

「もちろんだ! 皆さん、力を貸して下さい!」


 ルシエルのお願いの号令に、周囲のドラゴン達から頼もしい咆哮が上がる。しかし、相手も易々と鉄屑にされるつもりはないと言った風情で、ラディウス砲と思われる閃光を滅茶苦茶に乱発してきた。


「ウォッ⁉︎ あっぶな! ……これ、掠っただけで瀕死かも……」

「ハーヴェン、よそ見をするな! 防御は私に任せろ! お前は攻撃に集中してくれ!」

「あいよ。で、多分だけど……こいつで滅多切りにすればいいんだよな?」


 見ている限り、魔法の通りはあまり良くないと考えて良さそうだ。さっきのフューリースカイでさえも、部分的に壊す程度にしかダメージを与えられていないし、憎たらしい程にピンピンしていやがる。きっと、伊達にロンギヌスを材料にしていないという事なのだろう。苦手なラディウス砲の存在もあって、相手の魔法防御の鉄壁加減がいよいよ恐ろしい。


(と言いつつ……ふっふっふ。今の俺には最凶に可愛い嫁さんが付いているのだ〜! どんな相手でも、負ける気がしないぞ)


 ルシエルの防御魔法に頼りつつ、デカディウスの攻撃を掻い潜り。相手の懐に無事潜り込むと、頼れる相棒・コキュートスクリーヴァでバッサリと切れ目を入れてみる。すると……おやおや?


「おぉ? もしかして……武器の通りは結構、良いっぽい?」

「かも知れんな? だが……」

「あっ……光属性の武器はイマイチみたいだな……」


 俺の相棒は相変わらずの切れ味で相手のボディに傷を入れてくれるが、一方で……ルシエルのロンギヌスは攻撃どころかダメージを吸収されている始末。……こいつは完璧に逆効果と見ていいだろう。


「なるほど? エレメントがモノを言ってそうだな、これは。だとすると……」


 コキュートスクリーヴァが持つエレメント効果は水。ルシエルから聞いていた「ロンギヌスの性能」……光属性を吸収し、闇属性への抵抗力を持つこと……からしても、相手の耐性には四大エレメントは含まれていない気がする。


「しかし……意外と、硬いぞ⁉︎ このデカブツをスクラップにするには、コキュートスクリーヴァだけだと厳しいな……」

「だとすれば……そうだ! ゲルニカ達にも武器での攻撃をお願いすればいいのか!」

「えっ……?」

「よし! ゲルニカにお願いすれば……うん、他の皆様も手伝ってくれるに違いない」


 そう言いながら、ルシエルが竜族達に対して声を張り上げているけれど。ゲルニカに武器での攻撃をお願いする、だって? あの魔法書バカの竜神様に、肉弾戦がこなせるとは……


(って、できてる! できてるよ、ゲルニカ! しかも……なんだよ、あの武器⁉︎)


 見ればゲルニカの手には、黒と赤のツートーンがいかにもな大剣が握られている。……火を吹いている時点で、あの武器は炎属性っぽいな。しかも、ルシエルのお願いに応じたらしい竜族のほぼほぼ全員が理性の姿を顕したと同時に……思い思いの武器で応戦し始めた。


(……竜族って、恐ろしい程に万能なんだな……)


 空中での激戦さえも、器用に本性と理性とを切り替えながら柔軟に対処してくるポテンシャル。そこに紛れもなく最上級レベルの装備が加われば。……俺の出る幕はないんじゃないかと萎れるくらいに、滅多斬りにされていくデカディウス。こうも一方的だと、いくら相手に表情がないとは言え……ちょっと可哀想になってきた。


(とりあえず、この調子ならラディウス天使やデカディウスには対処できそうかな……)


 何せ、武器での攻撃は魔法と違って魔力を消費しないし。だけど……うん、やっぱり安心するのはまだまだ早いみたいだな。


「……ルシエル、また出てきたぞ?」

「……みたいだな。やはり……ここは元凶を大人しくさせるより他、なさそうだが……」


 問題は誰をどうやって行かせるか……だよな。ルシエルの言う「元凶」はどう考えても、グラディウスの中にいるだろう。しかしながら、グラディウスの魔力に下手に触れると、機神族として取り込まれてしまうかも知れない可能性がある。だとすると……。


「ここはやっぱり、プランシーを捕まえるしかなさそうだな」

「……そうなるな。コンラッドであれば、女神までの最短距離を知っている可能性が高い。……それに、相手は私とハーヴェンの仲を引き裂こうとした裏切り者だ。多少、手荒なくらいが丁度いい」

「えっ……?」


 ルシエルさん……今、なんて言った? 裏切り者はともかくとして……手荒なくらいが丁度いいって。それ……一体、何をどうするの⁉︎


(怖い、怖い、怖いッ! 天使、怖い……怖すぎる! ルシエルが言っているのって、きっと……拷問だよな⁉︎ そうだよな⁉︎ しかも……とってもいい笑顔で、ポキポキ指を鳴らすなよ……!)


 ……この世界で最も恐ろしいのは、やっぱり天使の嫁さんです。プランシー確保が最優先なのは、重々承知だけれども。ルシエルさんの物騒な物言いに、ついつい「プランシー、逃げて〜!」と思ってしまうのも……彼女的には裏切り行為に入るんだろうか?

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