21−5 共倒れも本望
熾烈極める空中戦の最中。ポッカリと隔離されたような、ヘンテコな空気の中でプランシーと「面白くない話」に花を咲かせていたのだけど。俺は知らないうちに、彼の術中にまんまと陥落しかけていたらしい。そんな俺を助けてくれたのは、誰よりも愛しい嫁さんとの絆……のはずだったんだ。
でも、ね。今日もルシエルさんが、とっても怖いです。俺の耳たぶへの集中攻撃が、いつもながらに理不尽です。
「これはこれは。調和の大天使様まで、いらっしゃいましたか? ふぅむ、どうしましょうかねぇ……この状況は。流石に天使相手では、こちらの聖剣も本領を発揮できませんか」
ルシエル相手にさえも、不遜な態度を崩さず首を傾げるプランシー。手元の武器を繁々と見つめながら、フゥと小さく息を吐く。
「いいでしょう。特段ハーヴェン様を連れて来いとは言われていませんし。……ここは2人仲良く、散っていただいた方が良さそうですね」
「それは聞き捨てならないセリフだな? ……言っておくが、私とハーヴェンのコンビネーションは最強だぞ?」
「ほっほっほ。……それはよく存じています。あなた達は確かに、この中でも最強の一角でしょう。私1人では太刀打ちできない事くらい、承知してもいますよ」
「うん?」
さっきの自信はどうしたよ? それって、あれか? つまり、ラディウス天使達と一緒なら俺達にも勝てそうだって事なのか?
(なんか……釈然としないんだよな、さっきから。プランシーの奴……何を考えているんだろう?)
もう少し話を聞きたいと思いつつも、「楽しいお喋り」は状況が許してくれないだろう。ここは素直に一戦を交えるしかない……か。
それに……ルシエルが言ってくれたのは、いつぞやに俺がアヴィエルに吐いたセリフな気がするぞ。場違いなのは、これまた承知だけれど。……旦那としては、つい思い出し笑いが漏れちゃうんだな。これでやる気にならないのは、ヘタレにも程があるだろ。
「ふっふっふ……」
「ハーヴェン、こんな時に……何を笑っているんだ?」
「いや……大したことじゃないよ。ただ、今のセリフがちょっと懐かしくて。ルシエルに尽くしてきてよかったなぁ、って思いていただけさ」
「尽くしてきた、は語弊があると思うが……あっ、いや。あながち間違いでもない気がしてきた……」
別にそこを気にする必要はないんだけど。頭を抱えると同時に、ニギニギ攻撃の手が緩んだのはヨシとしようか。
(なぁ……ルシエル。ここは……撃破する、でいいんだよな? しかし、さっきの言い分からするに……)
(あぁ。……おそらく、プランシーには接触したいターゲットがいるのだろう。かつての仲間に攻撃を仕掛けるのは、心苦しいが……)
(……分かってる。今は……)
そんな事を言っている場合じゃなさそうだしな! きっと俺は誰かの「ついで」だったのだろう。俺の籠絡ができないと判断するや否や、プランシーの号令でラディウス天使が襲いかかってくる。しかも……!
「あなた達、私を補佐なさい!」
「承知、シマシタ」
「聖剣ノ名ニオイテ、御身ニ従イマス」
ラディウス天使が喋ったぁぁ⁉︎ いや、今はそこに驚いている場合じゃないか。いつの間にか、プランシーは向こうさんの「幹部」に昇進したようで。侍らせていた機神族に命令を出すと同時に、鮮やかに連携攻撃を繰り出してくる。これは……こっちも本気を出さないと、不味そうだ。
「ルシエル!」
「分かっている! 我は望む、堅牢なる地母神の庇護を賜わらんことを……ディバインウォール、トリプルキャスト! そして……ハーヴェン、このままアレを行くぞ!」
「よっし、任せとけ!」
既に祝詞は解放済み、嫁さんとの魔力もバッチリコネクト。シンクロ率は最高潮もブッチ切り。魔力と器を一時的に統合すると、利点の方が多いから戦闘になったら迷わず連携がセオリーだけど。ただ1つだけ……器の連携には、注意しなければならないポイントがある。
魔力の器を連結すると、当然ながら魔力の器は2人で1つになる。上乗せボーナスの効果で、大容量にパワーアップするとは言え……魔力の供給先を共有することになるから、2人で無計画に魔法を使うと一緒にノックダウンするハメになったりするんだよなぁ……。なので、魔力の器を統合した時は連携魔法を発動するタイミング以上に、互いの呼吸と魔力状態を読み合うのも重要になってくる。
(とは言え……俺はルシエルとなら、共倒れも本望だけどな)
嫁さんが展開したのは、堅牢な防御魔法。だけど、彼女自慢の魔法も相手の猛攻でガリガリとあっという間に削られていく。しかし……光属性の魔法なんだけどな、ディバインウォール。ラディウス砲って、光属性に対しての威力はイマイチだった気がするんだけど。
「まぁ、いい! こっちも攻める方が性に合ってるし!」
「そう、だな。予想外に早く効果が切れてしまったが……防御魔法はあくまで時間稼ぎだ。今度はこちらが攻める番だ!」
「凍土より封印されし氷海の雨を降らさん、その身を貫け! アイシクルレイン、フォーキャスト‼︎」
「輝く朝日の黄金を纏い、天に舞え! 雷獣の咆哮をあげろ! エアリアルカノン、フォーキャスト‼︎」
今回は魔法もパワーアップバージョンで行ってみるぞ〜! ルシエルの風属性の攻撃魔法と、俺の水属性の攻撃魔法。それぞれ4連発動させた魔法陣が重なり合って、なんとも見事な8重の輪になる。
「「夢の彼方に終焉を見出さん……天を落とし、地に注がん! オーバーキャスト・フューリースカイ‼︎」」
辺り一帯を容赦なく包み込んで、敵機を切り刻む暴風雨と氷の刃。機神族相手に、どれ程までの効果が見込めるのかは分からないが……この乱気流は、ちょっとやそっとで無傷でいられる代物じゃない。
「って……おい、ルシエル。あれ……何だ……?」
「……機神族って、合体できるんだな……」
「いや、合体って。精霊だよな? 精霊なんだよな、機神族って⁉︎ ラディウス天使、でっかくなってるけど⁉︎」
きっと、無傷でいられまい……と思っていたけれど、向こうの方がちょっと上手だったらしい。魔法の効果が切れると同時に視界に浮かんだのは、合体して大きくなったらしいラディウス天使達。これまた、随分と立派になって……じゃ、なくてだな。これ、合体した場合の意思とか、祝詞とか、魔力の器とか……どうなるんだ? そもそも、機神族を生き物扱いする方が野暮なのか?
「しかも……」
「あぁ。……コンラッドは最初から、私達の相手をするつもりはなかったようだ。おそらく、アレに相手をさせようという事なのだろう」
ルシエルが駆けつけたことで、俺の契約を切ることは断念したと同時に……プランシーは鮮やかに戦線も離脱したらしい。しかも、残されたデカディウス(仮称)は俺達を殲滅対象と考えている様子。所々、風と氷で激しく損傷している部分もあるものの。……本体にさしたるダメージはないのか、もっと構ってちょうだいとばかりに、こっちに砲台を向けてくる。
「ルシエル……どうする?」
「本当はコンラッドを追いたいが……これを放置もできんだろう。それに……あぁ、来た来た! 彼らが来てくれたからには、もう大丈夫そうだな」
「おぉ〜! アイツらもお出ましか!」
遠路はるばるご苦労様……なんて挨拶は、それこそいらないだろう。ルシエルが示す方を見上げれば、堂々と翼を広げた竜族の一団がグルリと「デカディウス」を包囲している。その中でも一際目立つのは、真っ黒な鱗を纏った巨大な竜神。圧倒的な体躯による威圧感も半端ないが……こちらを認めて頷く彼の仕草に、信頼と安心感の方が遥かに上回った。