21−3 ぶっつけ本番
「また来るぞ! お前ら、行けるか⁉︎」
「もちろんです、マモン様!」
「俺達だって、伊達に上級悪魔やってるわけじゃ、ありませんぜ!」
「よっし、いい返事だ! ゴブリンヘッド共は、キッチリ防御魔法を展開しておけ! そんでもって、残りの奴らは俺について来い!」
言う事を聞く奴ら(無理強いはしない方向で)を集めた結果、恐ろしい事にほぼ全員が駆けつけてくれたのは良かったが。敵さんの戦力が想定外すぎて、手こずっているのが本当のところだ。
リッテルからも「ロンギヌス」という神具を元にした武器がある……なんて、聞いていたのだけど。その武器自体が機神族として襲いかかってくるなんて、粋な真似にも程がある。幸いにも、強欲の主力であるゴブリンヘッドは地属性だったりするもんだから、何気に防御性能も高いのも頼もしいけれど。それでも……「あいつら」に比較したら、添え物もいいところの扱いだろう。
(ヒュ〜ッ! やるねぇ、憤怒の奴ら)
視線をちょいと防衛ラインに移せば。ヤーティが指揮するアドラメレクの連中が、洗練されたフォーメーションでクリスタルウォールを連結発動しているのが目に入る。ここまで的確に連携魔法を発動してくるのを見るに、普段から仲間内で訓練も積んでいたのだろう。単体でしか防御魔法を発動できないウチの配下とは、豪い差だ。
(しかも……ほぉ。きっちり、補充の手筈も整えているんだな。で……うん、あっちはベルフェゴールの部隊か)
いつの間にここまで「仲良し」になったんだろうな。防御の主力であるアドラメレクの魔力消費を補う魔法道具を持ち込んでいるのは、ベルフェゴール配下のキュクロプス達。本来は魔法防具を作るのが得意な悪魔だが、省エネ志向の魔法道具を作るのにも長けている。何せ……あいつら、1年のほとんどを寝て過ごしているしな。補給諸々も含めて、身の安全を確保するための工夫に神経を注ぐのも、無理はない。
それでなくても、基本的に省エネ仕様で出来上がっている怠惰の悪魔は、長期戦に滅法強い。防衛戦はお手の物と言ったところなのだろう。
「おっと! そんな攻撃が俺に当たるかよ!」
さてさて……一方で、俺は防衛戦よりも攻略戦が得意な性分でして。攻撃型の配下を引き連れつつ、相手をザックザクと切り刻むのが性に合っている。ま……敵さんが無機質なのも幸いして、豪快に切り刻んでも後味が悪くないのが、いい感じだ。
「パ、パパァ〜! こっちに来るですよぅ……!」
「ひゃぁ‼︎ 危ない、危ないです〜!」
「うわぁぁん! 痛いよぅ〜!」
しかし、格好良く活躍する俺(自称)の足を引っ張るように、情けない悲鳴が飛んでくる。……うん、やっぱり下級悪魔は可愛いだけが取り柄だな。逃げ惑うばかりで、囮にもなりやしない。
「あっ、ちょっと待ってろ! と言うか……お前ら、歯が立たないんなら、前に出てくるなし……」
ヘルプがかかったので、可愛い子分をいじめている奴らを両断して、成敗してみるけれど。……今回の作戦にゴブリンやグールを連れてきたのは、失敗っぽい。役に立つどころか、却って足手纏いだし。下級悪魔にこの激戦は厳しいみたいだ。
「全く、もぅ……! お前らはとりあえず、ママの所でヨシヨシしてもらって来い。リッテル! 悪いんだけど、こいつらの回復をお願いできる?」
「もちろん! さ、みんなはこちらにいらっしゃい。それから、この後は私達のサポートをお願いね」
「は〜い!」
「うん、サポート頑張る!」
あいつらにできるサポートって、何だろうな。
嫁さんの機転で、しっかりと役目ももらったみたいだけど。泣いているだけで役に立たない……と思いきや、なるほど。天使様達の心理的サポート(あざとい方向で)には、向いているんだな。そんな芸当ができるのは、ウコバクだけだと思っていたが。……天使様達にしてみれば、小悪魔は一律可愛い対象に入るらしい。なんだ、心配して損したぜ。
「しかし……このままじゃ、埒が明かない……か」
「そうみたいだね〜ん。どうする? どうする、マモン?」
「ベルゼブブ……お前は明らかに防御タイプだろ。こんな危なっかしい所まで、わざわざ出てくるなよ……」
「えぇ〜? 折角、お話ししようと頑張って来たのにぃ〜! マモンのイケズぅ!」
相手をいなしながら、仕方なしにベルゼブブの話し相手にもなりますが。どうして、お前は他人事みたいにノホホンとしていられるんだよ。
「……まぁ、いいか。実はこっそりとダンタリオンにローレライの正常化は指示してある。しかし……言ってみれば、ぶっつけ本番だからな。あいつが失敗した時の事も考えにゃ、ならんな……」
リヴィエルがきちんと手筈を整えてくれていると、信じつつ……刀を振りながら、首も振る。そうして、手元でやんややんやと歓声を上げる十六夜達のボルテージとは裏腹に、俺のテンションは雑多な不安材料のせいで下り坂だ。
「……そっか。マモンもローレライの事をきっちり、考えてくれたのん。それじゃぁ……そっちのバックアップに行こうかな。ま、僕は“彼”を兄貴と呼べるほどに馴染めないし、うまくやっていける自信もないけどん? ハニーからもなんとな〜く、話も聞いてるし。何より……今は私情を挟んでいる場合じゃないしね」
「あ? ……なんだ、お前も知ってたのかよ。ダンタリオンの魔法に兄貴が絡んでるの」
しかし、暴食の悪魔は親玉が戦線を離れても大丈夫なのか……と、心配するものの。あっ、そうか。ベルゼブブの所はハーヴェン以外のマトモな戦力はほぼ、なかったっけ。どうやら……戦場に出てきているのは、ベルゼブブとハーヴェンだけっぽい。
暴食の悪魔は、数だけは多いと聞いてはいたが。いざと言う時に戦力にならないなんて、勢力的にはどうなんだろう……。
(まぁ……ベルゼブブは権力に固執するタイプでもないし、こいつ自身がある意味で最凶だからなぁ……)
それこそ、今は他所様の勢力を気にしてやる必要もないか。
「そういう事なら、ダンタリオンと兄貴のフォローを頼める? 多分、今頃魔法発動に必要な怨嗟を集めている所だろうから……って、チンタラ話をしている暇もないか。とにかく、頼んだぞ!」
「うん、そうする〜! そんじゃ……マモンもガンバ!」
「ハイハイ、もちろんですよ……っと。俺はなんだかんだで、切った張ったが性に合ってるしな!」
そんな事を言いながら、ベルゼブブの退路を作るために今度は雷鳴を一振りすれば。面白いほどにバタバタと機神族が墜落していく。……あ? この様子だと……武器の攻撃は普通に通るっぽいか?
「さて……と。お次は……カリホちゃんで行きますかね」
(いつまで待たせるつもりだ、小僧! こういう時は小生こそを、真っ先に試さんか!)
(ほんに、お前はせっかちよの。若には若の考えがあるのだえ? 今までナマクラ扱いされていたとて……名誉挽回の機会もあろうて。そう、急かすでない)
(えぇい、口を慎めぃ、月読! 誰がナマクラだと⁉︎)
ちょいと前までは「ナマクラ」もいい所だった奴が、何をイキっているんだか……。切れ味がよかろうと、悪かろうと。「使えない奴」は基本的にナマクラだと、俺は思う。道具も配下も使えて初めて、ナンボのモンだ。……俺はいざと言う時に使えない「訳アリ品」は、手札に忍ばせておくことさえしない。だから……。
「……心配すんな。今のお前さんはナマクラだなんて、思っちゃいないから。そんじゃなきゃ、こんな大一番に引っ提げたりしねーし」
(ふ、ふん……! 分かっておるのなら、よいわ!)
しっかし、相変わらず本当にやりづらいなー、もぅ。
「とにかく……頼むぞ、カリホちゃんに十六夜! ここは最凶タッグで、一気に畳みかける!」
(ほほ……任せておくんなまし!)
(よかろう! 小生の切れ味、とくと見るがいい!)
やる気に満ちた2振りでズバッと空間ごと斬り裂けば。視界に浮かぶ相手が粗方、消し飛ぶ。だけど……向こうは向こうで消耗ってモノを知らないのか、うじゃうじゃとお代わりも出てくるもんだから、キリがない。多分、状況からしても、俺がやっているのはタダの「時間稼ぎ」でしかないのだろう。それでも、今の俺には派手に暴れる陽動がお似合いに違いない。
「さって……と。ほれほれ、お前らの相手はこのマモン様がまとめてしてやるぞ! トットとかかってきな!」
あいつらに言葉が通じるのかは、知らんけど。やっぱり、大一番で大見得を切るのは気持ちがいい。うんうん、この調子なら、お役目はしっかりこなせそうだな。