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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−64 女神様、いよいよのようです

「待ってたよ。君がシルヴィアちゃん……だよね?」


 ネデルから女神様代理が来てくれると聞いてたもんだから、ボクは朝からこうして新しい拠点……新生・ユグドラシルのお膝元でスタンバイしていたけれど。ザフィールに連れ添われてやってきたシルヴィアは緊張した面持ちこそすれ、使命感にも溢れた様子でしっかりと頷く。


「はい……私はシルヴィアと申しまして。……ザフィ先生からもお話は聞いています。あなた様が転生の大天使・ミシェル様で合っていますか?」

「うん、合ってるよ。ま、気軽にミシェルって呼んでくれていいよ。……これからはきっと、君の方が上位者になるんだろうし」


 今は代理とは言え、ゆくゆくはユグドラシルの女神になる相手だ。無駄に萎縮させないためにも、今からボクの事だけでも呼び捨てにしておいてもらった方が、何かとスムーズだろう。


「ですが……」

「いいって、いいって。とにかく……今はボクの事を気にしている場合じゃなくてね。霊樹・ドラグニールが既にユグドラシルと根を結ぶ段階に入っているんだ。無茶言って悪いけど、早速女神様としてユグドラシルと交信してほしい。……頼めるかな」

「は、はい……! えぇと……女神様、いよいよのようです……! 私は大丈夫ですので、この体……存分に使ってください!」


 シルヴィアが指輪に話しかけると、ゆっくりと鼓動するように柔らかな緑の輝きが彼女の指先を照らす。そうして、穏やかな点滅が収束した後……シルヴィアがクラリと体をよろめかせた。


「ザフィール!」

「はい、承知していますわ!」


 ザフィールに付き添わせたのは、他でもない。彼女が1番シルヴィアの「体の事」を知っているからであり、ボクの部隊の中でも「人間の体の仕組み」について専門知識を持っているからに尽きる。そうして、ボクの期待通りに手早くシルヴィアの脈を測りながら、呼吸を確認するザフィール。うん、やっぱり「人間の医者」の同行は心強いなぁ。


「……ちょっとした自律神経失調に伴う、失神のようですわ。呼吸は正常ですし、心拍も戻りました。心肺停止状態からも脱していますし、じきに目を覚ますかと……あら?」

「……そんなに心配しなくても、結構。今のは魔力経路をシルヴィアではなく、私の魂に切り替えたための反応です。全く、天使は本当に何かにつけ大袈裟なのですから」


 声も顔もシルヴィアのままなのに。中身は全くの別物だと言わんばかりに、シルヴィアの態度が突然デカくなったよ? これは多分……。


「アハハ……なるほど。今のあなたは女神様の方で合ってる?」

「ですから、そう申しているでしょうに。察しが悪いですね」


 あぁ、そう言えば。……この女神様(前身はクシヒメ様)は天使に敵対心バリバリなんだっけ……。なんだか、物凄くやりづらいよ……?


「……フン、偉そうに出涸らしが何を言っておる。時間がないと申しておろうに。大主様をこれ以上待たせるつもりか?」

「くっ……あなた様は、まさか……!」

「その“まさか”じゃな。……はぁぁ、本当に情けない限りじゃの、出涸らし女神よ。自身の不甲斐なさを棚に上げ、天使様達に尊大に振る舞うとは」

「も、申し訳ありません……」


 ドラグニールの婆様、強し。そうそう、確か……ドラグニールが匿ってくれていたから、今のクシヒメ様は生き残っていられたんだよね。しかも、この上なく情けない実情まで知られているともなれば……流石に女神様と言えど、頭が高いままではいられないんだろう。ドラグニールの婆様がいてくれて、助かったかも……。


「ほれ、そこまで偉そうにしていられるのだ。しっかりと役目は全うできるのだろうな?」

「も、もちろんです……。シルヴィアとも調整を重ね、最低限の役目はこなせるまでには……」

「ほぅ? あれだけ大見得を切っておいて、最低限……とな? やれやれ……これだから、出涸らしは察しが悪いの。そんな状態では、シルヴィアとやらのフォローは天使様頼りになりそうではないか。……勘違いは程々にしておくのじゃな」


 婆様、頼もしい! そんでもって、格好いい! きっちりとクシヒメ様に仕返ししつつ、ボク達をさりげなーく持ち上げてくるのを聞いているに、ドラグニールの天使への印象はだいぶ良くなっているみたいだ。……これでドラグニールの態度もツンツンしてたら、どうしようかと思っていたけど。この調子であれば、大丈夫そうかな?


「という事で……すまんの、ミシェル様。これは色々と勘違いしておるようじゃが……シルヴィアとやらの努力もあって、この面倒な婆様の目から見ても、おそらく問題なかろうて。今の大主様は自身の力を加減しながらの下降も可能だしの。だが……シルヴィアの方に万が一があったら、よろしく頼む。あぁ、フォローするのはシルヴィアの方だけで良いぞ? 出涸らしは消滅したところで、さして痛手にもならん。……依代さえ居れば、後はどうとでもなろう」

「い、いや……フォローはもちろん、キッチリしますよ? そのためにも、転生部門のボクが出てきているのですし。しかし、何もそこまで仰らなくても……」

「よいよい、出涸らしに身の程を教える丁度いい機会だろうて。しかし……現代の大天使様達は、ほんに謙虚であるの。物分かりが良いのは、ルシエル様だけかと思っておったが。ミシェル様もなかなかに、とっつき易い」

「タハハ……それはどうも……」


 あぁ、なるほど。この「面倒な婆様」の心証が悪くないのは、ルシエルの印象が良かったからなんだね。なんだかんだんで、助かっちゃった。……うん、ボクも彼女の流れに乗っかって、これからは謙虚な淑女の設定で行ってみよう。その方がモテそうだし。


「えぇと……とにかく、女神様も準備できてます? ボク達はいつでも大丈夫ですよ?」

「分かっていますよ、そんな事! とにかく……何かあったら、シルヴィアは頼みますよ」

「心配なさらずとも、女神様のバックアップも可能な限り行いますわ。何せ、こちらのミシェル様は転生部門の大天使様ですもの。万が一、魂がはぐれてしまっても、神界にさえ戻ってきてくれればお迎えには上がれるそうですよ?」

「そう……なのか?」

「そこは安心してくれて、構わないですよ〜。なんと言っても、神界の転生システムも日々進化してますからね。最近は転生も事故なく、安全第一でやらせてもらってますし。場合によっては、魂さえあればリザレクションで完全復活も可能です。まぁ……リザレクションはリザレクションで、それなりに発動にはハードな条件がありますけど。今の女神様が対象だったら、発動も可能でしょうし」


 ドラグニールという後ろ盾もある以上……多分、リザレクションを使うような局面にはならないと思うけど。万が一があった場合、それこそルシエルに協力を仰ぐことになるかも知れない。

 リザレクションは魂から対象者を完全復活させる万能魔法と見せかけて、実はこっそりと「連携魔法」だったりする。だから、最低でも大天使2名で魔法を同時発動しなければならないという、なかなかにレアな発動条件を持つ魔法だ。しかも、対象者を術者がそれぞれ知っている必要がある上に、相手を知っていれば知っている程、対象者を元の魔力状態で復活させられるため……誰よりも「ピキちゃん」と呼ばれていた女神様を知っているルシエルが、相方としては適役になるだろう。

 女神様を復活させたはいいけど、魔力を取り戻せないのでは、使者としてやっていけないからね。お役目をしっかり果たしてもらうためにも、魔力状況は最低でもキープしたい。


「その言葉を聞いて、安心しました。少なくとも、シルヴィアは大丈夫そうですし……私も、心置きなく役目を果たせることでしょう。では、交信に入りますよ……すみませんが、少し静かにしていてください……」


 もちろん、言われずとも。分かっていますって。

 そうして、みんなで固唾を飲んで女神様の交信を見守るけれど……途端に、明らかに異質なビリっとした重苦しい魔力を感じる。あれ……? 霊樹の魔力って、こんなに重々しかったっけ……?


「こ、これは……?」

「うぬ? この感じは……まさか、ローレライか⁉︎」

「えっ⁉︎」


 婆様の言葉からするに、ボクが感じた刺激的な違和感はユグドラシルのものじゃなくて、ローレライの物らしい。だけど……今更、どうして……?


「……どうやら、外界は不味いことになっておるようだの。よく分からぬが……ローレライの奴、暴走しておる」


 えぇと、確か……昨日、ヴァルプスちゃんが攫われたとかって、大騒ぎになっていたけど。まさか、昨日の今日で大事件に発展するなんて。夢にも思わなかったよ……。

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