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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−62 魂の怨嗟

「いい方法? まさか、ダンタリオンと同じように……人間とか、精霊を使おうって腹積もりじゃねーだろうな?」


 兄貴と呼んでいる相手に、いきなり疑り深い顔で凄むマモン。何というか……マモンは相変わらず、妙に慈悲深いところがあると言うか。シルヴィアを生贄にするのにも反対していたし、今も生贄の調達先を兎角気にしては、神経を砕いている様子。……この辺りの性格も、何だかんだで周囲に頼られる理由なのかも知れない。


「そんなに怖い顔をしないで下さいよ。僕だって、きちんと考えたんですよ? 君も納得できる生贄の調達先を」

「ほ〜……それは何よりなこって。で? どんな方法なんだ?」

「お人形を使うんです」

「あ?」

「ですから、生贄用のお人形を作るんですよ」


 あっさりと奇妙なことを言ったかと思えば、アケーディアが「いい方法」の中身を得意げに説明し始める。


「言ったでしょう? 僕達は“魂の怨嗟”を傀儡に押し込んで、オトメ栽培をオートメーション化していたと。……まぁ、怨嗟だけ抽出するのが難しかったので、こちらでは丸ごと使っているケースもありましたが。彼らは神界に迎え入れられる程には清らかでもなく、魔界に流れるまでには自我も弱い。意外と、多いんですよ? 人間界にはこの“魂の怨嗟”が」


 ……いきなり、話がオカルト染みてきたんだが。それって、幽霊みたいなもんだろうか? 俺も一応、幽霊は平気だけど……なんか幽霊が搭載された人形ってなると、不気味だな……。


「魂の怨嗟か……また、妙なモンを持ち出してきたな。しかし、魔力不足の問題はちっとも解決できない気がするけど?」

「もぅ……マモンは変なところは鈍感なのですね? 魔禍はこういった残留思念が瘴気に結合したものだと、知っているでしょうに。ですから……瘴気を吸わせるんですよ。傀儡に押し込めて、コントロールできる状態になった人形に瘴気を補給させれば、魔力純度も高めることができるでしょう。瘴気であれば、いくらでもありますからね」

「あっ、なるほど。そう言や、ヨフィさんもあの時は……瘴気をたっぷり吸った後だったっけな」


 顎に手をやり、ふむふむとマモンが頷いて見せる。そうして、「流石、兄貴」と素直に褒めたもんだから……片やアケーディアは咄嗟に反応できないらしい。いかにも驚いた表情をしながら、ちょっと慌てて鼻を鳴らす。


「ふ、ふん! 褒めても何も出ませんからね」

「ハイハイ、別に俺は皮肉をぶっ放したつもりもないぞ。とにかく、生贄問題はお前さんのナイスアイディアで解決できそうだな。やっぱ、こっちに来てみてよかったよ。と言うことで……ルシエルちゃんも、これでオーケイ? そちらさんサイド的にも、問題なさそうか?」

「はい……多分、大丈夫かと。私は今ひとつ、付いていけていない部分もありますが……ハーヴェンはどう?」


 って、言われても。俺だって犠牲を出すことをあんなに渋っていたマモンが、こうもアッサリ納得した理由が分からない。……多分、マモンのツボは「魂」と「魂の怨嗟」とやらの違いにあることは、予想できるんだけど。「魂の怨嗟」が実際には何なのかが理解できなくて、俺も「大丈夫」なのかが判断できない。


「……もしかして、お前ら……」

「は、はい……」

「2人揃って、“魂の怨嗟”が何なのか、分かっていないみたいだな……?」

「恥ずかしながら……」

「そんなトコロです……」


 2人で情けない答えを返したもんだから、マモンとアケーディアが揃ってジトッとした顔で見つめてくる。いや……そこでソックリな顔をされても……。


「ルシエルちゃんが知らないのは……まぁ、仕方ない。悪魔じゃないからな」

「ですが、ハーヴェンが知らないのはいただけませんね? あなた、曲がりなりにも悪魔でしょうに」


 すみません。俺は曲がりなりにも、悪魔です。よければ、悪魔らしき俺に「魂の怨嗟」が何なのか、教えてくれると嬉しいんだが。


「……まぁ、知らないものは仕方ねーか。どーせ、ベルゼブブが教えなかっただけだろうし。いいか? 魂の怨嗟、って言うのは魂に紐づく自我の中でも、最後までしぶとく残った記憶だけを頼りにブラついているヤツの事だ。中には生前“自分が誰だったのか”を覚えているレベルの残留思念もあるみたいだけど。でも……大抵はそうやって残った記憶ってのは、怨嗟だなんて言われる通り……あまりいい感情じゃないことが多い。だから、瘴気との親和性も飛び抜けているし、放置しておくと魔禍に成り下がったりと、それなりに厄介だな」


 怨みつらみはもちろんの事、奢りや憂い等も「残りやすい執念」になり易いのだそう。とにかく、ネガティブな感情が吹き溜まって、きちんと神界に昇天できずに「魂ごとすり減った自我」を「魂の怨嗟」と呼び習わしているんだとか。


「因みに、魂の怨嗟は何故か魔界にも流れづらい傾向があるみたいですね。理屈は知りませんが……何となくですけど、魂の怨嗟に成り果てる者は“自分が死んだ”と自覚していないケースが多いように思います。ふん……自分が何者だったのかを覚えていることがあるクセに、自分が死んだことに気づかないなんて。なんて間抜けで、皮肉なのでしょうね」

「……そう言ってやるなって。そいつらにだって、色んな事情があるんだよ」


 しかしながら、お顔はソックリでも真祖ブラザーズの反応には、かなりの開きがある様子。何かにつけ斜に構えて皮肉っぽい兄貴と、意外と素直で真面目な弟。……うん。字面を並べてみると、やっぱりマモンの方は悪魔っぽくない気がする。


「違うわ、ハイン。……本当は魔界に流れて闇に葬られるはずの禍根の塊。……それが、魂の怨嗟よ。魔界に流れづらいんじゃなくて、迷子になっているだけなの」


 悪魔は意外と、地獄耳なのかも知れない。俺のように殊更聴覚に優れている作りをしていなくても、話の輪の外からも話に混ざってくる。さっきはダンタリオンが一瞬抗議を上げてきたが、今度は両脇にロジェとタールカをくっつけたバビロンが不安そうにやってくる。


「おや、そうなのですか? と言うか……急にどうしたのです、バビロン。話に積極的に参加してくるなんて、君らしくもない」

「あっ……御免なさい。つい……」

「別に怒っていませんよ。むしろ、僕は君の言い分が非常に気になります。……それ、どういう意味でしょうか?」


 きっと、今までバビロンがアケーディアに「意見する」事がなかったのだろう。アケーディアの言葉にバビロンが怯えたようにピクッと体を強張らせたが……次に続く穏やかな彼の言葉に、とりあえずは安心した様子。だけど……頼りなさげな表情を更に曇らせたところ見るに、バビロンのお話はあまり楽しい内容ではないみたい……かな?


「……あの子達は自分が自分でいられなくなるのを、受け入れられないだけなの。……自分が自分でいられるのは、生きている間だけ。だから……よく分からなくなちゃって、迷子になって……きちんと神界に還ることができないの」

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