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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−61 ツッコミどころが満載すぎる

 俺自身がリルグにやってくるのは、初めてだけれど。町の惨状加減はなんとなく、聞いてもいたもんだから……目の前に広がる閑散としていつつも、妙に平和な光景に却って面食らってしまう。いや、だって……。


(アケーディアがいるのは分かっていたけど……どうして、ロジェとタールカまで一緒にいるんだ⁇)


 しかも、この上なく穏やかな雰囲気で。

 そして……きっと、俺が意外な状況に戸惑っているのにも、気づいたのだろう。あろう事か、マスターや親玉そっちのけでアケーディアに駆け寄るダンタリオンを見届けながら、しっかりとマモンが状況を補足してくれる。


「色々と込み入った話はあるんだが。まぁ、端的に言えば……アケーディア一味はローレライの最深部を目指して、向こうさんのお城に潜入していたらしい。だけど、かなりの想定外があったみたいでな。引き返してきたついでに、体制を立て直そうと……カリホちゃんが乗っ取っていた、ルルシアナに身を寄せていたんだと」


 しかし、彼らが一息ついているところに、ルルシアナ……もとい、陸奥刈穂相手にマモンが殴り込みをしでかした結果、紆余曲折もありつつ、彼らと合流する結果になったそうな。そして、その流れからリルグに出張中の「お知り合い」を助けに、恐れ多くも真祖様自ら出陣された……と。こうなると、マモンも意外と荒事に巻き込まれやすいタチなのかも知れない。


「まぁ、細かい経緯はリヴィエルが報告書を出しているから、そっちを確認してもらうとして。……何だかんだで、道中道連れで支えってきたんだろう。アケーディアを気にするバビロンに、バビロンに懐いているお子様達……と、そんな組み合わせで一緒に霊樹・ヨフィを見守ることにしたらしい」

「霊樹・ヨフィ……?」

「うん。あの切り株、兄貴がヨフィって命名しててな。あぁ、心配しなくても、霊樹としてきっちり綺麗な魔力を吐き出し始めているから……リルグの住人は全滅だが、土地的には再生可能だろう。色々と不本意だけどな」


 心配するも何も、住人が全滅している時点で、心配以前の問題な気がするが。しかし、「不本意」と言っているのを聞くに、マモンもこの状況に納得していないみたい……か。そこに触れるとまた凹みかねないし、ここは突っ込まないことにしよう。


(だけど……もう1つ、気になることがあるんだけど……?)


 色々と努めて受け流そうとしたけれど。どうしてもスルーできない事象が目の前にある。マモンの手にあるの……ルシエルが持っているのと、同じパネルっぽいんだが? どうして、神界の便利アイテムを魔界の真祖様が使っているんだ⁇


「なぁ、マモン」

「あ?」

「それ……どうしたんだ?」

「あぁ、これか? ……ルシファーにもらった。よく分からんが、これで向こうさん側の事情も掻い摘んでおけ、ってことらしい」

「そ、そうなんだ……」


 資料を渡して相手を巻き込むのは、真祖様の専売特許じゃなかったんだな。まさか、マモンも同じ手練で籠絡されているとは。


「……それ、大天使用のデバイスかと思いますが……天使長から、その辺の説明はありましたか?」


 しかも、ルシエルによると……彼が持っているのは、特別仕様の「デバイス」らしい。細かいことは俺には分からないけれど、大天使用とタダシが付く時点で相当の代物だろうことは理解できる。


「う〜ん……詳しい説明はなかったかも。ただ、これを読んで協力する代わりに、物品は好きなだけ交換していいとは言われたな」

「なんですって⁉︎」


 あぁ、なるほど……大天使様用のパネルは要するに、ご褒美ゲットし放題の特別仕様なワケね。それじゃぁ、ルシエルが声を荒げるのも、無理はない。強欲の悪魔相手に、欲望を必要以上に満たす魔法道具を預けるとか……どう考えても、無茶苦茶すぎる。


「……つっても、俺自身はそんなに欲しいものもないし……交換したのは、クソガキ共のおやつくらいだけど」

「えっ……?」

「あ、あと絵の具も失敬したな」

「はい……?」

「あれ? もしかして……交換しすぎたか? だったら、次からは注意す……」

「いやいやいや! そうじゃありません! マモン様、強欲の悪魔ですよね⁉︎ それがどうして、そんなに無欲なんです⁉︎」


 ルシエルのツッコミはこれまた、ご尤も。悪魔の中でも、殊更欲張りなはずの強欲の悪魔が、こうも控え目なのは違和感しかない。きっと、ルシエルも「強欲の悪魔のことだから」、とっくに大量の何かを交換していると思ったのだろう。


「って、言われても……なぁ。俺、あんまりゴチャゴチャしてるの、好きじゃないんだよ。無駄なモン増やしても、部屋が散らかるだけだし」

「そういう問題か?」

「そういう問題だろ」

「いや、他にも欲しい物、ないのか? 例えば、武器とか、コーヒーとか……」

「武器は面倒いのが5振りもあるから、イラネ。で……コーヒーはリッテルが用意してくれるから、そっちもいいや」


 なんでも、コーヒーはリッテルがわざわざ「ご褒美」として交換してきてくれるのを、待つことにしているらしい。いや……いくら何でも、健気にも程があるんじゃ……。


「確かに? 自分で交換した方が早いのだろうし、無駄も少ないのかも知れないけど。だけどさー、アレコレ選んできてくれてるみたいなんだよな、リッテルも。だったら、嫁さんのお気持ちを台無しにするの、あり得ないだろ」


 言いたいことは分かるけれど、マモンの領分を考えると……ツッコミどころが満載すぎる。そんでもって、さり気なく惚気やがって。


「なんだろうな……悪魔って、私達より無欲なのか……? ハーヴェンも概ね欲がないし、マモン様もこの調子だし……。しかも、ダンタリオンも魔法研究さえできれば、他はどうでもいいみたいだし……」


 かも知れないな。少なくとも、甘味部分に関して言えば、ルシエルの方が圧倒的に欲張りだ。


「……それはそうと、本題に入っていい?」


 萎れて頭を抱え始めたルシエルに、冷めた様子でマモンが切り込む。そうそう、この仏頂面がいつものマモンだよな。


「はっ! そうですよね、すみません!」

「そんじゃ、サクッと魔法の概要だけ説明するぞ。生贄問題は残っているが、ダンタリオンの魔法……プルエレメントアウトは見ての通り、霊樹の浄化・土台の再生効果までは見込めることが分かっている。そもそも、ヨフィの大元になったオトメキンモクセイの霊樹もどきを斬り伏せることはできても、完全に除去できなかったのが魔法試行の発端でな。真っ赤だった暴れ霊樹を、根本から真っ白霊樹に浄化できる効果はあるっぽい」


 更に続くマモンの解説によると、ルートエレメントアップの術者に対する属性縛りを崩した結果に、術者そのものを原動力のターゲットから外すことには成功したらしい。だけど、元は魔力の高い術者……この場合は、長老様と同じディバインドラゴン……を栄養源として想定した魔法でもあったため、とりあえず捕まえてきた「出来損ない」では魔力のチャージが不完全だということも判明したそうだ。


「そんで、緊急事態ってこともあり、あれはヨフィさんを食らうことでコトなきを得たんだが……魔法の概念としては、一応はそれなりに生贄にする相手を選ぶこともできるみたいでな。捕獲用の魔法陣に放り込む奴をこちらで用意すれば、他の奴には手が伸びないみたいだぞ。それがなければ、術者一直線になるようだが……ま、俺はローレライ浄化の時には、ダンタリオンが責任を持って食われるのも一興かなって思うよ」

「ちょ、ちょっと! そこで何を勝手なことを言っているのです、マモン! 唯一無二の親友を生贄にするつもりですか⁉︎」

「あ? 意外と地獄耳だな、お前。しっかも……ダーレが唯一無二の親友だよ、クソッタレ」


 この憎まれ口は、さっきの仕返しだろうな。多分。


「……それはそうと……おい、兄貴!」

「おや、どうしましたか、マモン」

「例の生贄問題だけど。こっち側の奴らを大量捕獲でイケそうか?」

「もちろん、それでも目標は達成できるでしょうが……もっといい方法がありますよ?」


 黒髪のマモンと白髪のアケーディアとでソックリな顔を付き合わされると、不思議な気分になってしまうけれど。それ以上に気になるのは、アケーディアが示した「もっといい方法」の中身だ。相手が相手なもんだから、残酷な方法じゃないといいなと、つい思ってしまうのは……やっぱり、憂鬱の真祖様相手に失礼だろうか?

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