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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−45 見て見ぬフリが天使のお家芸

「ねぇ、ハニー。……ちょっと、気になる事があるんだけど」

「気になること? 目の前のケーキ以外に、か?」


 ラミュエルはヴァルプスの魔力が枯渇しているのを察知したらしく、神界に帰ると早々にカーヴェラを後にしていた。そうして、やや取り残される格好になったルシフェルは、人間界でデートも悪くないと……ベルゼブブと一緒にカフェ・アンジェラにやってきていたが。いつもならウキウキが止まらないはずの暴食の悪魔の表情が、何故か冴えない。


「……あのままだとヴァルプスちゃん、マズいかもしれないよ?」

「うむ? それは……どういう意味だ?」


 いつになく真剣な顔をして、ベルゼブブが意外な事を呟く。ベルゼブブが気になる事なんて、どうせ大した事もないだろうと……軽んじていたルシフェルだったが。あからさまに穏やかではない出だしに、思わず眉を顰めてしまう。


「んもぅ……そんなんだから、ヴァルプスちゃんをガッカリさせるんでしょうに……」

「ガッカリさせた? 私達が……か?」

「あぁぁ……やっぱり気づいていなかったのん?」


 それでも、今は勿体ぶっている場合ではないと思ったのだろう。一口で目の前のショートケーキを葬りつつ、ベルゼブブが気前よく言葉を続ける。


「多分だけど、ヴァルプスちゃんはラミュエルちゃんに、かなーり失望しているんじゃないかな。あの子の感情、冗談抜きで真っ黒だったよ。……天使を心底、嫌っているみたい」

「天使を嫌っている? ヴァルプスが……?」

「うん。特に、ラミュエルちゃんを……って感じかな。因みに、ハニーも結構嫌われていると思っていいと思う」

「なにっ⁉︎」


 あぁ、やっぱり気づいていなかったんだ。

 肩を竦め、いかにも「参ったね」というジェスチャーをしながらも、しっかりと追加のケーキを注文しつつベルゼブブが言うことには。ヴァルプスは自分が提出したデータを蔑ろにされた事が、相当に気に食わないのだろうと言うことだった。その上、おそらくだが……。


「ヴァルプスちゃん、何か焦っているみたいだったよん。他に何かしたい事があるんじゃないかな」

「……」

「おやおや? その様子だと……心当たり、アリアリな感じ?」


 ベルゼブブの鋭い指摘に、ついぞ固まるルシフェル。そんな彼女とベルゼブブの間には、彼が注文したケーキが早速届けられるが……モリモリと艶やかな山になっている、フルーツの虜になっている場合ではない。


「……そう、か。ヴァルプスはおそらく、ローレライに行きたいのだろう。……まだ、調査も済んでいない故に、待つように申していたのだがな……」

「あぁ、なるへそん。そういう事だったんだね。バビロン達の話からしても、ローレライは結構な危険地帯だろうし、僕もハニー達の“お預け”の判断は正しいと思う。それに……バルちゃんが機神族化した背景からしても、対策抜きで突入はあり得ないだろうねぇ。だけど……それ、ヴァルプスちゃんからしてみれば、天使側の事情にしかならないよ。君達自身が危ないから行かないのと、ヴァルプスちゃんを行かせないのとは、根本的な事情が違う。……もちろん、ヴァルプスちゃん自身も危険に晒される可能性もあるだろうけど。でも、本人にしてみれば……それこそ、そんな事はどうでもいいんじゃないかな?」


 重々しい事を吐き出した割には、嬉々としてフルーツタルトにフォークを突き立て、ペロリと平げるベルゼブブ。そして、今度はチョコレートケーキを頂戴と注文の手を挙げるが、まだまだ話し足りない様子。お茶も一緒にどう? と、ルシフェルの分も抜かりなく注文し始める。


「……さて。僕としては、バビロンの無事が一応は確認できてよかったけど……この調子だと、もうちょっと付き合った方が良さそうかな?」

「そう、だな。……何だかんだで、お前は頼りになる。私達が気づけないことも、こうして教えてもらえると助かるし……何より、我らは神界に引き籠もっていた時間が長すぎたのだ。本当に情けない限りだが……見て見ぬフリが天使のお家芸でな。全体的に不都合には鈍感な傾向がある」

「なんだ……そこは自覚してたの? それじゃ、これ以上意地悪をするのも良くないかな。大丈夫さ。僕だって、これで大悪魔だよ? 気づいた事には、それなりに首を突っ込んであげるから。ヴァルプスちゃんに関しても、それとなく対策はしてあるし、そんなに心配しないの」

「対策……? さっきの間に、何をしたと言うのだ?」

「うん? まぁ、ちょっとサンドスニーキングの媒体をばら撒いたけどん?」

「そ、そうか……(いつの間に……?)」


 そんな素振り、見当たらなかったが……と、ルシフェルはベルゼブブが頼もしい以前に、今度は恐ろしくなってくる。並外れた用意周到さに、悪知恵の回転速度。更に、相変わらずな触覚の気色悪さもあって、ルシフェルは嬉々としてケーキを平らげ続ける大物悪魔を前に、平静さを保つのにも一苦労だ。


(天使長をして、ここまで怯えさせるとは……! これが真祖の悪魔と言うものか……)


 尾行と盗聴は、暴食の大悪魔の十八番。大好きなゴシップとハニーの好感度のためならば、悪趣味も最大限に発揮できるのが、このいい加減で享楽至上主義者たるベルゼブブの本領である。なお、分かりきっている事ではあるが……彼がしようとしていることは無論、手放しで褒められたモノではない。

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