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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−31 研究に犠牲は付き物

 さっきは何気なく「ダンタリオンがくたばるだけで済む」……なんて、冗談をかましていたが。冗談は冗談のままだから、笑い飛ばせるのであって、それが現実になるなんて思いもしない。そんな現実なんて、ダンタリオンに散々振り回されている俺だって、ご免だ。そうして、なんとか魔法そのものを強制的に無効化しようと試みるが……。


「クッソ! 構築だけはガッチリしやがって……! ダンタリオン! まだ、解除できねーのか⁉︎」

「あ、焦らせないで下さい! それでなくても、魔法解除は非常に面倒なのですから!」


 そう、そうなんだよ……。1番の問題は、魔法解除がムッチャクチャ面倒いってトコなんだよな……。

 魔法解除は詰まる所、魔法構築を逆回しに解けばいいだけの話なんだけど、組み上がった魔法をバラすのはそれなりに慣れが必要になる。……それでなくても、ダンタリオンも普段は簡略化に慣れちまっている上級者だ。簡略化に慣れている奴ほど、咄嗟の時に魔法解除ができない傾向があるのも……実はよくある事だったりする。


「させるか……ッ! 風切りッ!」

(承知じゃ! あの魔法を無効化すれば良いのであろ! じゃが……)

(手数が間に合っておらんぞ、小僧!)

「分かってるよ!」


 生贄が足りない、生贄を寄越せ。

 まるで、魔法陣自体が意思を持った怪物みたいに、次々に手を伸ばしてくる。ターゲットが術者だと分かっている以上、ダンタリオンの前に立ち塞がれば、防衛は容易いと思いきや……四方八方から、魔力ならではの柔軟さでランダムに迫ってこられたら、流石の俺でも見切れない。


「常しえの鳴動を響かせ、仮初めの現世を誑かせ! ありし物を虚無に帰せ、マジックディスペル!」


 そんな中、一緒に防衛戦を買って出てくれたアケーディアも色々と魔法を試してくれているが……うん、無効化魔法も受け付けないか。こいつはいよいよ、一筋縄じゃいかなさそうか……?


「無効化魔法も効きませんか……」

「……みたいだな……」

「では……仕方ありませんね。やっぱり、追加の生贄を魔法陣に放り込むしかないでしょう」

「まだ、そんな事を言ってるのかよ! 魔法を完成させたいのは分かるが、この場に生贄にできそうな奴なんて、もういねーだろ!」

「おや、そんな事ありませんよ?」

「あ……?」


 おいおい、兄貴。この期に及んで、誰を生贄にしようってんだよ。まさか、こんな状況で出来損ないをとっ捕まえてこいなんて、言わないよな?


「偶然の産物とは言え……貴重な成功サンプルだったので、僕も気に入っていたのですけどね。しかし、崇高な研究に犠牲は付き物です。……ここは1つ、瘴気と一緒に魔力を溜め込んだヨフィに身を投じてもらいましょう」

「はっ……? お前……何、言ってんだよ! こんな下らない事で、ヨフィさんを見殺しにするんじゃねーし‼︎」

「でしたら、ジャーノンかミカエリスさんにしますか? ……弱い順で考えたら、彼らの方が妥当だと思いますけど」

「テメー……何、ふざけた事を吐かしてんだよ! そんな事したら、タダじゃおかねーぞ⁉︎」

「分かりました、分かりましたから! 少しは冷静になったら、どうなのです。どこをどう見ても、魔法を解除するのも、無効化するのも……もはや、何もかもが手遅れです。でしたら、少ない犠牲で事を収めることも考えないと」


 確かに、アケーディアの言い分はどこまでも正しいものだろう。構築概念が多いせいで、解除には時間もかかる。しかも、勢いがどんどん加速している猛攻をこのまま防ぎ切るのは、かなり厳しい。カリホちゃんに指摘された通り、俺自身も手数が間に合っていないし、風切りお得意の魔法効果切断も焼け石に水の状態だ。

 更に、当のダンタリオンは失敗すると思っていなかったのだろう……さっきから慌てに慌てて、しどろもどろになっている。ヤツの様子からしても、解除に失敗して暴発する可能性もゼロじゃない。だったらば、確かにこのまま魔法を完成させてしまった方が……遥かに間違いも少ないだろうけど。


「もう、それしか……手はないのか……?」

「君は悪魔らしからぬほどに、情が深いのですね。別に、ヨフィのことは気にしなくていいのですよ。……最初から、彼女は偶然の産物。本来はとっくに死んでいたはずの存在なのですから」

「……」


 本当に、それでいいのかな。

 言い分は理解できるが、これっぽっちも分かりたくないし……納得もしたくない。しかも、ヨフィさんも悲しそうな顔をしているのを見る限り、従わなければならないのは分かっているなりにも、納得しているようには見えない。でも……。


「……承知しました。未練がないとは言えませんが……ふふ。……最後の最後にこうしてお供できたことは、何よりも楽しかったですわ。ま、本当はもっとイケナイこと……したかったのですけど」

「すみませんね、ヨフィ。ですが、あなたの自由は僕の手にあります。……君が納得していようと、していまいと。この場において、君以外の適格者はいませんから。さ……サッサと輪の中に入ってください」

「みたいですね。……もぅ、そんなお顔をなさらないで、ハインリヒ様にマモン様も。そうも同じ顔で悲しそうにされたら……未練が積もってしまうではありませんの」


 えっ? 同じ顔……してるのか、俺達。

 アケーディアは俺の後ろに立っているもんだから、背中越しでは表情が見えないんだけど。兄貴も悲しそうな顔……してるのか?


「って、クソがっ! 最後のお別れくらい、しんみりさせてくれよ!」


 しっかし、さぁ! 防衛一徹の状況じゃ、情緒もへったくれもねーし。本当に……この空気を読まない感じは、術者そっくりだな……!


「……ダンタリオン。後で反省会、みっちりするからな。……覚悟しとけよ」

「は、はい……えぇ、分かっていますよ……。今回ばかりは、君の立場を尊重してあげます」


 何を偉そうにしてんだよ、お前。こんな状況でも上から目線とか、あり得ないだろ。……やっぱり、ダンタリオンを放り込んだ方が良かったかな……?


「……すみませんね、ヨフィ」

「あら、ハインリヒ様らしくもない。……いつになく、素直ですこと」

「ふん! それこそ、今のあなたには言われたくありませんね!」

「ふふ……その憎まれ口こそ、ハインリヒ様ですわね。……では、行って参りますわ」

「……えぇ。何だかんだで……君には迷惑をかけ通しでしたけど。最後まで手駒らしく、従順で素晴らしい限りです。少なくとも……あなたは僕の中でも、まぁまぁの最高傑作でしたよ」


 アケーディアと憎まれ口を叩き合いながらも、いよいよ本性を顕すヨフィさん。そんな彼女は……どこもかしこも、掴みどころのない真っ黒い靄のような姿なのに。何故か生えている翼は、どこまでも真っ白で。そうして、黒と白のコントラストが魔法陣の中に足を踏み入れた途端……追加攻撃がピタリと止んだと同時に、彼女の体が眩い光に包まれた。


「……魔法、成功したみたいですね?」

「……そう、かもな。俺はこの結果が成功しただなんて、認めたくねーけど」


 ヨフィさんを包んでいた光が、穏やかに消え去った後。あれ程までにしぶとく居座っていた魔法陣が綺麗さっぱりなくなっていて、切り株が真紅から純白に様変わりしている。しかも、すぐさま瘴気を浄化し始めたともなれば。……切り株でも、霊樹もどきちゃんはしっかりと役目を果たすつもりらしい。


(小僧、気を落とすでない。お前は出来得る限りのことはしたのだ。……今回ばかりは、仕方ないと思うぞ)

(主様。麻呂の力が及ばず、申し訳おじゃらん……)

「いや、2人ともご苦労さんだった。力不足は俺の方……じゃなくて、お前だよ、ダンタリオン! こんの……ポンコツ悪魔!」

「あっ、マモン! ちょっと待ってください! 一応、言わせてもらいますと! 構築は完璧だったんですよ! ですから……」


 ハイハイ、言い訳は結構でござんす。反省会の前にキッチリお仕置きを実施しますよ……!


「うるせぇ! その高すぎる頭、沈めてやらにゃ気が済まねーぞ、ゴルァ!」

「あぁぁぁぁッ! ギブですよ、ギブギブ! の、脳味噌が……グラグラする……!」


 そうして、思う存分ダンタリオンをグリグリするものの。新しい魔法の成功例と問題点について、しっかりと話し合わなければならないか。それこそ……ヨフィさんの犠牲を無駄にしないためにも。


「……さて、と。お仕置き、終わりました?」

「まぁ、一応」

「それでは……今後の事について、ですけど。と、その前に……そこの天使!」

「えっ? 私……でしょうか?」


 ご用件があるのか、アケーディアが突然、リヴィエルを名指しにするけれど。話し合いの前に、リヴィエルに何か頼み事か? もしかして、天使ちゃん側にも報告をお願いするつもりなのか?


「……僕はこの霊樹を、見守る事に決めました。しかしながら、人間界で活動するには、契約が必要なのですよね?」

「え、えぇ……そうですけど……」

「……でしたら、大天使か天使長を呼んで来なさい。上級天使程度に契約を許すつもりはありませんが、大天使以上であれば契約してあげてもいいでしょう。……僕もそろそろ、君達の目から逃げ回るのにも疲れましたし……何より、弟が天使と契約して、自由に振る舞っているともなれば。……悔しいではないですか。この際、天使と契約を済ませていた方が、何かと都合がいい」


 それ……悔しがる事じゃないよな? しかも……俺、自由に振る舞ってなんか、いないけど……?


(あぁ、そうじゃないか。……本当にこいつは素直じゃないな。……普通に寂しいって言えばいいのに)


 見れば、足元の年輪をなぞる様に、指先で純白を撫でているアケーディア。そうして、ブツブツと切り株に対して「ヨフィとでも呼びましょうか」なんて、未練タラタラに小声で呟いていやがる。


「しょ、承知しました! もちろん、すぐに天使長に相談してみます!」

「えぇ、頼みましたよ。できれば、早くしていただけると助かります」

「はい!」


 リヴィエルの快諾に、安心した様子を見せるアケーディアだけど。……この様子だと、天使ちゃん達との契約も満更じゃなさそうだな。


(なんだよ、結局……お前さんも意外に情が深いじゃねーか。悪魔らしくねーのは、どっちだよ)

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