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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−29 腐れ縁が長いだけ

 新しい魔法を試す大チャンス。そんな滅多にない機会を理由に……魔界にダンタリオンを迎えに行って、そのままリルグの切り株に戻ってきましたが。……既に、奴の様子が非常に怪しい。


「ふふふ……流石、マモンは目の付け所だけは鋭いですね。私をこの大一番に呼ぶなんて」

「目の付け所だけはシャープで悪かったな。……ったく、お前はもうちょい、俺に対する敬意を持ってくれてもいいと思うんだけど」


 デモンストレーションのあらましを説明したらば、人間界行きもあっさりと了承するこのゲンキンさと言ったら。……強欲の元締めでもある俺さえも、幻滅するレベルの欲張り加減だ。しかも、親の悪魔に対する失礼加減だけは、ちっとも変わってねーし。


(……不安要素も山盛りな気がするが。スムーズに戻ってこれただけ、ヨシとするか……)


 左側にはホクホクとした顔を赤らめている、強欲のナンバー2様。そんでもって、右手にはとっ捕まえてきた「出来損ない」。生贄が必要だから、とりあえず強制的に連れてきたけど。首根っこを掴まれて、離せ離せと、言葉がないなりにもギャーギャーと喚いているのが……更に俺をゲンナリさせる。


「あぁ、ミカエリス君も来ていたのですね! お勤め、ご苦労様です!」

「は、はい……ありがとうございます。それにしても師匠、なんだか……いつも以上にテンションが高いですね……」

「ふふ。そりゃぁ、もう。新しい魔法を試し撃ちできるなんて、テンションが上がらない方がおかしい。ふふふ……あははははははッ! しかも、これ以上ない程の実験対象付き! 私はこの瞬間のために、生まれてきたのです!」

「うわぁ……」


 いや、テンションが上がるのは分かるが、ブチ抜けるのは違うからな? 皆さん、しっかりとドン引きしているぞ? しかも、この瞬間のために生まれてきたって……何を大袈裟な。


「ハイハイ、ダンタリオン。テンションマックスなのは、いい事だけど。とにかく、自己紹介が先だからな? 悪いな、皆さん。こいつがダンタリオン。……非常に不本意だが、これでウチのナンバー2の上級悪魔でな。見ての通り、常識はすっからかんだが、魔法の知識だけは魔界一なもんで。……新しく魔法を開発できちゃうくらいに、脳みそだけは詰まってる」


 そうして、ミカエリス以外のメンバーをダンタリオンにも紹介するが。やはりと言うか、何と言うか……俺にソックリなアケーディアに並々ならぬ熱視線を注ぎ始めやがった。しかも、アケーディアの方も満更ではない様子で……。


「ほぉ……! そう言えば、真祖には補助役でナンバー2と呼ばれる悪魔が付いていると、聞いたことがありましたが。そうですか、そうですか。あなたが、マモンの補佐役なのですか?」

「いいえ、違います!」

「えっ?」

「私は補佐役ではなく、魔界書架の管理者をしております! マモンとは腐れ縁が長いだけで、特段補佐役という訳ではないのですよ。そんなものをやっていたら、研究に充てる時間が削られるではないですか」

「なるほど、それは確かに言えてますね。暴れ者のマモンに付き合っていたら、時間がいくらあっても足りないでしょうし」

「おや、あなた様はよく分かっていらっしゃる。……ふぅむ。マモンと顔はソックリなのに、魔法研究への寛容さは桁違いですか?」

「ふふ……そうでしょうね。僕は何せ、生涯の殆どを研究に費やしてきた生粋の探求者ですから。マモンとは違い、魔法研究への理解も深いのですよ」

「なんと、素晴らしい! ここは1つ、私と一緒に魔法研究部でも作りますか?」

「えぇ、いいですよ! 僕も興味がありますし、君となら崇高な目的を共有できそうです」


 すみませ〜ん、そこの研究バカ2人。ここぞとばかりに、俺をこき下ろして一致団結しないでくれませんかね。それと、皆さんの冷たい視線に気づいてくれても、いいんでない?


「……とにかく、今は親睦を深めている場合じゃなくて、だな。アケーディア、まずはこいつに紋章刻んでくれる? ダンタリオンの新魔法には、生贄が必要なんだが……こいつを生贄にしようにも、俺は相当の魔力を消費しないと、配下以外の奴に紋を刻めないもんで」

「承知しました。ふふ……新しい魔法発動の瞬間を目撃できるのであれば、喜んでお手伝いします」


 うん……! この素直さだけは、とっても素晴らしいな。魔法研究部、万歳。


「それと、ジャーノン。お前さんには申し訳ないけど、リルグはこの有様だからな。ここにいた従業員や、オトメの花畑は兄貴のせいでおじゃんになったと見ていいと思う。……ご愁傷様、なんて言葉じゃ足りないと思うけど。あいにくと、俺には従業員さんを元に戻してやる術もなくて、さ。……悪魔の都合に巻き込んじまって、本当に悪かったな」

「これはあなたのせいではないと思いますよ、マモン様。……私達とて、オトメキンモクセイがどんな花かはよく知っていました。それに、ドンが隠居した時点でルルシアナも潮時だったのかもしれません。これを機にスッパリと、麻薬からは手を引いた方が賢明だと思います。これからは、真っ当な商会として無害な薬種を扱う方が……何かと都合もいいでしょうし」

「そっか、それもそうだな。……オトメに手を出したまんまじゃ、ホーテンさんの身辺もキナ臭いままだろうし」

「ハハ……そう、ですね」


 この笑顔は……無理している訳ではなさそうだな。寂しそうではあるが、どこか安心した雰囲気を感じるに、ジャーノンはオトメキンモクセイの処遇と、漏れなくくっ付いてくる荒事ついて、本気で心配していたんだろう。


 オトメキンモクセイは青く咲いている分には、とても綺麗だし、無害だし……何より、香りがとてもいい。多少の気遣いは必要だが、ほんのり魔力を含んでいる土に植っている分には、ごくごく普通の植物としてのサイクルを全うできる。ニョキニョキ生えて、花を咲かせて、種を結ぶ。そんでもって、次世代にバトンタッチ。これだけであれば、ちょっと貴重ななんの変哲もない植物……というラベルだけで済むんだけど。

 だが、赤く咲いた時のオトメキンモクセイは歪な本性を顕した状態となる。竜界原産のツルベラドンナの派生種であるこいつは、一度狂わせると、苗床の命を啜って魔力と毒をたんまり蓄えて咲く。そのあまりの様変わりは、基本的に穏やかだと言われる竜族の隠れた怒りを体現しているようで、とにかく不気味だが。聞き齧った話によれば、彼らの怒りの矛先は悪魔ではなく、天使だったというのだから……霊樹の落とし子だというディテールを考えると、これ程までに皮肉なこともないかも知れない。


 ジャーノンが天使と竜族の確執を知っているとは思えないが。少なくとも、「赤いオトメ」が危険度タップリであることはよく知っているみたいだし……こいつが元凶で色々と気を揉んできたんだろうことも、ありありと窺える。そうか。こいつもマフィアなりに色々と苦労して、心配も抱えてきたんだな。自分が危なっかしい事をやっていたのも、キッチリ自覚済みって感じか。

 人間の生き様はそれこそ、俺にはどうでもいい話だけど。……こんな様子を見せられたら、ちっとは気にしてやりたくなるだろうが。

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