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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−22 丸ごと育て方を間違えた

 カニバリズムとマゾヒストに戦慄しつつも、今はリルグへ急がねばと足を早めれば。目的地に近づけば近づく程、瘴気が一層濃くなったのを感じる。おぉ、おぉ。魔法道具の放置プレイも大概にしておけよ。これじゃ、人間が暮らすのは無理じゃねーか。とは言え……。


(こいつは確かに、それなりの濃度だが……この程度なら、魔界の方がまだまだ厳しいかもなぁ……)


 アケーディアの話から、結構な惨状を覚悟していたが。正直なところ、魔界の空気の方が劣悪だと言っていい。やっぱり、魔力の発信源がクソッタレの霊樹だけはあるな。瘴気濃度が段違いなのを考えても、伊達に魔界なんて呼ばれているワケじゃないってことなんだろう。


「はい、お疲れ様でした。ここがリルグですよ」

「ここが? と言うか……おい、アケーディア。あれ……何だ?」

「何だ、と言われましても……はて。僕はあんなもの、作った記憶はないですよ?」


 作った記憶はなくても、ありゃ……完全にお前さんの拵えたモノだろう。

 リルグだと言われて、ようやく辿り着いたのは廃墟が並ぶ空間。そんなゴーストタウンの中央には、真っ赤な花を咲かせた、真っ赤な幹の得体の知れない樹木が蠢いていた。そんな化け物を前に、ジャーノンだけじゃなくて俺も見た事のある2人組が、懸命に駆除作業に取り組んでいるようだが……。


「ミカエリス……何で、お前がこんな所にいるんだよ……?」

「あっ、ボス! いい所に来てくれました! いやぁ……見ての通り、ちょっと手こずってまして」

「手こずっているってレベルじゃないだろ、これ。本性おっ広げにしている割には、ちっとも削れてねーじゃん」

「あはは……面目ありません」

「すみません、マモン様……。私達も食べられないように気をつけるのが、精一杯でして……」

「生き延びるのに必死だなんて、情けない限りです。……申し訳ございません」

「いや、この状況で申し訳なく思う必要はないんじゃない? うん、まぁ……リヴィエルも、ジャーノンもお疲れ。とりあえず、全員無事で何よりだよ」


 食べられる……の意味を改めて考えるのは、無駄だろうな。目の前の化け物はベースはオトメだろうが、形状や生態は別次元だ。そして、この感じ……あぁ、なるほど。こいつは特殊な餌をたんまりもらって、落とし子から霊樹もどきに進化したんだろう。槍状の根っこで魔禍と思しき黒い化け物を喰らうサマは、どこぞのお墓で見た光景とよく似ている。しかし一方で……魔禍側はリヴィエル達を餌認定しているらしく、彼女達はオトメの捕食からあぶれた奴の攻撃を凌ぐのに精一杯だったみたいだ。


「仕っ方ねぇ。こいつらをまずは斬り伏せるしかないか。……十六夜、魔禍共を全部刈り取るぞ」

(えっ? 若……我はまだ、ご褒美をもらってないぞえ? タダ働きはゴメンぞ)

「この状況で、そんなことを言ってる場合か! 後でたーっぷり特別サービスをしてやっから、素直に言う事を聞け!」

(とっ、特別サービスとな⁉︎ して……それはどこがどのように、特別なのかえ?)

「……いつもの罵倒サービスに加えて、足蹴サービスも追加してやるぞ。そんでもって、唾をペッペしてやった後……ゾクゾクワクワクな解体ショーも堪能させてやる」

(おほほほほぉ! やる! 我、やる! 若のために、頑張る!)


 これだから、ドMさんは……。それ……俺のためじゃなくて、自分の趣味嗜好のためだよな?


「カリホちゃんも相当に変わり者だと思っていましたが、そちらの刀も相当に変わり者ですね……って、ヨフィ? どうしました?」

「……羨ましいですわ」

「はい?」

「私は相手を痛ぶるのも好きですが、痛ぶられるのも嫌いではないのです。あぁ! 私も是非に、マモン様に叩かれてみたい……!」


 おぉっと⁉︎ ここで、ヨフィさんが予想外な反応をし始めたぞ⁉︎ それ、色々とオープンにしちゃいかんだろ! 変わったご趣味(性癖ってヤツですね)は隠し持っとけ!


(しかし、この雰囲気……嫁さんのおねだりに似ている気がする……)


 因みに……叩かれる部位はお尻で合ってますかね? ついぞお仕置きの時に「何かに目覚めた」らしいリッテルが、たまに「そういうプレイ」を要求してくることがあるんだが……うん。具体的な事をここで考えるのは、やめておこう。どっちにしても、叩かれるのがいいとか、俺にはよく分からん。


「そ、そうですか……(マモン、これ……どうしてくれるんですか!)」

(知るか、ボケ!)


 クネクネと顔を赤らめ始めたヨフィさんを示して、ヒソヒソとアケーディアが俺を責めてくるが。どうしてくれるんだも何も……ヨフィさんを拵えたのも、大量の魔禍を拵えたのも、あそこの霊樹もどきを拵えたのも、全部お前さんだろーが。純粋に丸ごと育て方を間違えたんだと、腹を括りやがれ。


「とにかく行くぞ、十六夜! ここらで綺麗さっぱり、魔禍退治と洒落込むぞ」

(おほほ……お任せあれ!)

「そんで、アケーディア! お前さんはチャチャっと魔法道具とやらを、壊しとけ。これ以上のオイタは許さねーからな?」

「はぁぁ……瘴気発生装置、僕の自信作だったんですけどねぇ。ま、仕方ありませんか。と言うことで、ヨフィも手伝ってください。僕でよければ、足蹴にしてあげますから」

「まぁ、本当ですの? ふふ……でしたら、仕方ありませんね」


 うっわ。ヨフィさん、本当にそれでいいの⁉︎ しかも、アケーディアもちゃっかり順応するなし。2人とも、微妙にいい笑顔しやがって! こんな状況で、ホンワカしてるなし!


「もぅ、色々といいや……とにかく、今はチンタラしている場合でもねーし。ほれ、3人はちょっと休んでろよ。……後は俺の方で何とかすっから」

「あぁ……ボスが来てくれて、本当によかった……!」


 そうですか。それは何よりでござんすね。だけどね、ミカエリス。この程度でウルウルする必要はないんだぞ? そもそも、もうちょい悪魔らしく尖った空気感を意識してくれよ。配下のヘタレ具合は、真祖の沽券に関わるんだよ。


(しっかし……俺、本当に何をやらされてるんだろーなぁ。いつまで経っても、苦労続きだし……そろそろ真祖、辞めたい……)

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