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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−21 ある意味で最凶の能力

 無事に祝詞を預かった後、テュカチアがお茶を振る舞ってくれるというので……そのまま大広間で待っている間に、ギノの精霊情報を確認する。


【べへモス、魔力レベル8。竜族、地属性。ハイエレメントとして闇属性を持つ。攻撃魔法・補助魔法と回復魔法の行使可能】


「おぉ! ギノ、お前すごいな。レベル8とか、かなりの高レベルだぞ?」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ。本来は10までの魔力レベルの中でも……かなりの高水準だ」

「更に、言うとな。レベル8は、エメラルダ姉さんと同じだぞ」


 ハーヴェンが嬉しそうに解説すると……ギノが目を丸くしながら、私の精霊帳を覗き込む。


「これが……僕の竜としての姿、ですか?」

「あぁ、そうだよ。それにしても……なるほど。尻尾の棘を除けば、ゲルニカ様にそっくりだな」


 精霊帳に描かれたべへモスの姿はバハムートの刺々しさを引いて、赤を緑に変えたようなカラーリングになっている。バハムートの別名……か。この姿であれば、バハムートと並んでも引けを取らないだろう。


「父さまと、似てる……。なんだか嬉しいです」

「そう、だよね。で……バハムートはこっち、と」


 そうして、今度はレベル15の所にページを合わせると……そこには最強の精霊の姿が記載されていた。その姿にギノはわぁ、と久々に子供らしい反応を示して目を輝かせているが……。そんな事をしていると、みんな私の精霊帳に興味津々らしい。いつの間にか、その場にいる全員が私の精霊帳を覗き込んでいた。


「ほぅ、ゲルニカは流石じゃの。レベル15と言うのは……要するにメチャクチャ強い、という事なんじゃろ?」

「えぇ。ゲルニカ様の情報を登録するまでは、レベル10が最高水準だと思われていました」

「そう、なんですか? いや……お恥ずかしい限りです……」


 長老様の褒め言葉に、本気で恥ずかしがっている様子のゲルニカ。しかし……そんな彼に何やら、闘争心を燃やしたらしい。やや嫌味な調子で、マハが話に割り込んでくる。


「天使の基準で物事を考えないでほしいですね。しかし……その手帳は契約しないと、レベルは分からないのでしょう? でしたら、ゲルニカが最強だとは言い切れないのでは?」


 口調からするに……彼は自分の方が上だと言いたいようだ。その売り言葉に仕方なく、精霊帳のサーチ鏡を取り出すと、失礼極まりないのは承知の上で……手始めに長老様に向けてみる。


【ディバインドラゴン、魔力レベル9。竜族のエレメントマスター、地属性。ハイエレメントとして光属性を持つ】


 精霊帳が示して見せた情報に、またも一同から感嘆のどよめきが上がる。


「おぉ、ワシの精霊名まで見事に言い当ておった。これはなかなか、ハイテクな手帳じゃの〜」

「ヘェ〜、長老様って俺と同じレベルなんだな」

「およ? そうなの? なんじゃ、ハーヴェンちゃんとお揃いなんて、嬉しいのぅ〜」


 そこまで意気投合してまた、ハイタッチで仲良さげに盛り上がる、旦那と長老様。波長が合うのはレベルが同じだからではないと思うが、どことなく……彼らのノリが似ているのは、偶然ではない気がしてきた。


「では……私はきっと、ゲルニカと同じくらいのレベルでしょうね。ほらほら、私のデータも表示させてみなさい」

「それは構いませんが……」


 自信たっぷりにマハがそう言うので、続いて彼にもサーチ鏡を向けてみる。


【クロウクルーワッハ、魔力レベル10。竜族のエレメントマスター、風属性。ハイエレメントとして光属性を持つ】


「フガッ⁉︎ レベル10……ですと? 何かの間違いでは……?」

「これはあくまで、1つの基準でしかありません。どうやらサーチ鏡……このレンズのことですが……が示す魔力レベルというのは、精霊の成長度合いをあまり勘案しないようなのです。なので、ギノやエルノアは成長すれば、もっとレベルが上がる可能性もあるし……現にハーヴェンは登録時よりも魔力が上がっているのに、上昇値は計上されていません。また魔力レベルの算出には、登録時の行使可能な魔法の種類と数が大きく影響するようでして。ゲルニカ様は魔力も高水準だった上に、扱える魔法の種類も桁外れだったので……15というとんでもない数値を叩き出したみたいです。これは、ある意味で最強であることに違いはありませんが……何れにしても、マハ様の仰る通り、これはあくまで天使側の基準です。なので、竜界での地位には関係ないと思いますよ」


 とは言いつつ……マハは口だけではなく、実力も相当あることに変わりはない。ゲルニカのレベル15にやや霞んだだけで……レベル10は本来、普通にお目にかかれる魔力レベルではないのだ。このレベルの精霊がプリエステスも含めて既に3人もいる時点で、竜族がいかに強力な種族であるかを思い知る。


「ま、まぁ。そういうことでしたら、仕方ありませんね。私も相当レベルが高いのが分かりましたし、よしとしましょう」


 予想外にアッサリと、自分のレベルに納得した様子のマハ。若干、悔しそうではあるものの……意外にも素直に現実を受け入れてくるところをみると、彼も伊達にエレメントマスターの役を担っていないという事なのかもしれない。


「姐さん、おいらは? おいらは⁉︎」


 最後に、ハーヴェンの膝の上でピョコピョコ跳ねるコンタローが尋ねてくる。相変わらず、ウコバクの「あざとさ」に妙に気が抜けるが……彼のデータは既に登録済みだし、それを見せてやればいいだろうか。


「コンタローはここに載っているよ」


 レベル2のところのページを開くと、その瞬間……さっきまでの興奮が嘘のように、コンタローの勢いが萎んでいく。


「あぅぅ……おいら、そんなに弱かったんでヤンすか……」


 そんな風に……期待を裏切られた自分のレベルを自覚して、今にも泣きそうなコンタローをハーヴェンが慌てて慰める。これは、もしかして……この子を必要以上に、落胆させてしまったのだろうか。


「あ、でも、ほれ。お前はベルゼブブから大事な任務を預かった、特別な子だから。そんなにしょげなくて、いいと思うぞ? 実際、俺もお前がいてくれて助かっているし……」

「そ、そうでヤンすか? お頭、それ、本当?」

「おぅ。本当だよ。だから、そんなに落ち込むな〜」

「そうよ。だって、コンタローはモフモフでモコモコだもん。エルノアもコンタローを撫でるの、好きよ?」


 ハーヴェンとエルノアに交互に撫でられ、ケロリと機嫌を直す小悪魔だが……なんだ、心配して損したではないか。尻尾を嬉しそうに振っているコンタローの姿に、長老様はもちろん、さっきまでトゲトゲしかったマハも心をくすぐられるものがあるらしい。さっきまで気難しい顔を見せていた彼の頬が、妙に緩んでいる。


「はぁ〜い、お待たせしました〜。お茶と特製アップルパイをお持ちしましたわ」

「わ〜い! アップルパイ〜‼︎」

「あぁ、テュカチア様のアップルパイを食べられる日が来るなんて……オフィーリア様にお伴して良かった……」


 素直に喜ぶ子供達を尻目に、何やら感慨深いといった様子のマハ。コンタローのあざとさに気が抜けたのか、うっかり出たらしい一言に……全員が彼を見やる。そうして視線を一身に受けているのを感じたのだろう、マハは慌てたようにオホンと咳払いすると……いそいそと、自分が座っていた席に戻っていった。


「い、いえ。何でもありませんよ。ほら、皆さん。折角、テュカチア様がお茶をご用意くださったのです。冷めないうちに頂きましょう?」

「え、えぇ。そうですね……というわけで、テュカチア。お茶の方を頼めるかい? 私はアップルパイを配るから」

「もちろん、かしこまりましてよ?」


 さりげなく空気を読んだらしいゲルニカが慌ててテュカチアに水を向けると、すんなり応じるテュカチア。そうして全員にお茶とアップルパイが行き渡ると、ようやく落ち着いた……というところなのだろう。さっきまであんなに緊張していたギノが、長老様と楽しそうにおしゃべりをしている。


「ところで……君はコンタロー、と言ったか?」

「あい?」


 しばらく歓談が進んだところで……意外にも、マハがコンタローに話しかけてくる。その視線に、ハーヴェンが身構えているが……次に出た彼の言葉は、予想斜め上のものだった。


「その、何だ。私も……君みたいにモフモフのお伴がいればいいなと、思ってだな。是非、お友達を紹介して欲しいんだが……」

「あ、あい⁇」

「……今、なんて?」


 マハの要望にコンタローではなくハーヴェンが応じるが、流石に彼らのお頭という事なのだろう。警戒心が滲む表情を見る限り、彼らを守るのも自分の役目と認識しているらしい。


「えっと、1つ言っておくけど。俺達は精霊としては、魔神とか言われているが……本性は悪魔だったりするんだ。竜界のエレメントマスター様のお手元に置くには、相応わしくないというか……」

「そこを、何とか! 悪魔だろうが何だろうが、可愛いものは可愛い! 私も思う存分、モフモフしたい! 是非、1人紹介してくれないだろうか!」


 しかし……ハーヴェンのダダ漏れの警戒心を他所に、必死に相談内容を熱弁するマハ。ここにも、ウコバクの魅力に取り込まれてしまった被害者が1人……。天使達も妙に、ウコバクをお伴にすることに興味を示していたし……この魅力はどんな相手をも丸め込む、ある意味で最凶の能力なのかもしれない。


「お頭、どうするでヤンす?」

「う〜ん。俺としては嫁さんを散々バカにされた後だし……。可愛い子分をそんな奴に預けるのは、なぁ……」

「子分に、嫁さん……⁇」

「あぁ、俺さ。こう見えて、本性はエルダーウコバクっていう悪魔なんだわ。だから、コンタロー含む……ウコバクの上級種で、一応の目付役だったりするわけ。で……こいつの旦那様も兼ねてます」


 説明ついでにピシッと親指を私に向けて、カラリとハーヴェンがマハに答えるが……得意げな指先のせいで、自分に集まった視線にどう反応していいのか、分からない。


「い、いきなり……そういう事を人前で言うな‼︎ 恥ずかしいだろ‼︎」

「まぁ、羨ましい……私も皆様の前で、堂々とそんな事を言われてみたいわ……」

「……頼む、テュカチア。そういうことは、ちょっと黙っててくれないか……」


 妙に顔を赤らめて嬉しそうにしているテュカチアに、それを鎮めにかかるゲルニカ。追い討ちをかける様な彼らのやり取りが、私としては非常に居た堪れない。


「おい、この空気……どうしてくれるんだ?」

「お? 別にいいだろ? もぅ、恥ずかしがるなって〜」

「うるさいッ‼︎」

「うっわ! イタタタタ……! おぅおぅ……相変わらず、俺の嫁さんは凶暴だなぁ……」


 恥ずかしさ紛れに思わず、ハーヴェンの顎にアッパーをお見舞いする。そうされて……いつぞやの様に顎を摩りながら、おぉ痛いとハーヴェンが呟くが。私が凶暴なのは、お前のせいだからな⁉︎


「そうか、君達も結婚しているのか……何というのだろう、私は取り残されたままで……あぁ! なぜ、神は私に素敵な妻を用意してくださらないのか⁉︎ おぉ、神よ‼︎」


 さっきまで天使の基準で決めないでほしい、とか強気に言っていた割には……本当に真剣に神に祈っているらしい。焦りさえ感じさせる様子に、ちょっと可哀想になってきたが……ハーヴェンも同じ感想を抱いたのだろう。1つ溜息をつくと、ウコバク貸し出しをマハに提案し始める。


「まぁ、そういう事なら……1人派遣してやるよ。ただ、ウコバクはもともと、釜の油番の悪魔だ。間違っても、ペットなんていう生易しい相手じゃないぞ。それなりに火を扱うことには慣れているから、その辺は注意してくれ。あ、それと……俺の可愛い子分をいじめたら、タダじゃ済まさないからな」

「本当か? 私の元にも……マイモフモフが来るのか⁉︎」


 ハーヴェンの言葉に目を輝かせて、前のめりになるマハ。この様子だと……いじめたりなんてことは、ない気がする。


「あ、あぁ……できるだけ、早いうちに見繕うから……。で、ゲルニカ」

「ん? なんだい?」

「その時は……お前の屋敷を経由することになるから、また子分を一時的に預けることになるんだけど……」

「あぁ、そんなことか。もちろん、構わないよ。こうしてマハ様も楽しみにしておられる。お安い御用だ」

「いつもいつも、すまないな……。あ、そうそう。ウコバクは意外と、グルメだからな。全員煮干しが好物だから、安上がりだけど。基本的にお茶だけでは満足しないだろうから、そこも注意な」

「了解した。どんな好物であろうと、責任を持って用意するさ。あぁ、私だけのモフモフが来るなんて……楽しみだなぁ」

「……何じゃろ、マハの意外な一面を見た気がするのぉ……」


 最後に長老様がそんな事を呟くが……あぁ。マハのこの浮かれ具合は珍しい光景なんだな。そんな珍しいはずの光景を引き出すコンタローの存在感に、別の意味で「この小悪魔め」と思ってしまう自分がいた。

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