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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−17 華麗にゲロって進ぜましょう

 夕刻を迎えてやって来ました、ルルシアナ家本邸。ホーテンさんの隠居所もまぁまぁご立派だったが、庭の先に聳えるお屋敷はちょっとしたお城と錯覚するくらいのデカさだ。やっぱ、人間の貴族って、色々と凄いな。これだけの豪邸をきちんと維持するのは、それだけの人間を雇えるって事だろうし……って、俺は何を心配しているんだ。貴族相手に金の心配なんて、それこそ余計なお世話だろ。


「それはいいとして……お前ら。今度こそ、遊びに来ているんじゃないからな? 大人しくしておけよ」

「はぁ〜い」


 一応の補助で、クランとゴジを連れてきたが。人間相手であれば、こいつらを頼らなくても、なんとかなりそうか。と言うか……嫁さんに連れてけって言われて、渋々ご一緒してもらっただけなんだけど。


「パパ、今日もバシバシっと暴れるです?」

「そうならないように善処する……と、言いたいところだが。この様子じゃ、穏便に済ませようってのは無理だろうな」


 広い広い、お庭の向こうに聳えるお屋敷に気を取られていたが、視線をお庭にも向けてやれば。まぁまぁ、これまたお粗末な感じで、お待ちかねの皆々様方の物騒な気配が伝わってくる。……何つーか。この程度で隠れたつもりだったら、甘すぎるにも程があるぞ。


「ハイハイ、そんじゃお望み通りにお相手して差し上げましょうかね。……十六夜、出番だぞ」

(おほほほほぉ! 呼びましたかえ、若!)

「あぁ、呼んだ。見りゃ分かるだろうが、ちょいと修羅場だ。ご褒美は後でご提供しますから、あいつらを片付けるの……手伝え」

(ふぅぅぅぅぅ……! 愛しい若のためならば、このゲスヨイマル! 今宵も華麗にゲロって進ぜましょう!)

「……普通に呪詛を吐くって言えよ。ゲロるとか、いちいち下品に言い直さんでいいわ」


 あぁ……本当に、疲れるな〜……。このやり取りだけでも。


「と、言うことで……お手並み拝見と参りましょうかね」

「キャ〜! 待ってました、グリちゃん!」


 あ? 今……リッテルの声もしたか? 確か、リッテルはホーテンさんの護衛(という口実)で残してきたつもりだったけど……?


「……リッテル、どうしてこんな所にいるんだよ。ちゃんとお留守番しとけって、お願いしましたよね?」


 自分でも「ギリギリギリ」なんて効果音が出てるんじゃないかと思えるくらいに、ゆーっくり首を回してみれば。俺の視線の先には、満面の笑みでこちらを見つめるリッテルと、ラズにハンスがきっちりくっ付いている。そして……。


「しかし……ワシの庭がこうも荒れ放題となると……ふむ。随分と手入れがおざなりになっているようだな……」

「えっ……? あぁぁぁッ⁉︎ ちょっと待て! なんで、ホーテンさんまでいるんだよ! リッテル! お前、何考えてんだ!」

「だって、グリちゃん大活躍の予感がするのだもの。ここは皆様にしっかりと、旦那様の勇姿を見ていただかないと!」

「だから! 本当に、もう! 善良な市民の皆さんを荒事に巻き込むんじゃねーし!」

「大丈夫だぞ、マモン殿! ワシは善良な市民なんて、生ぬるいモノでもないぞ。切った張ったは、慣れっこだ!」

「……そういうことを言っているんじゃ、ありません……」


 マジかよ……。今回もギャラリー(要するにお荷物)を気にして戦わにゃならんのか……?


(……若、大丈夫かえ?)

「うん……大丈夫。ここはサクッとやっちまうに限るな」


 ため息まじりで俺が庭に足を踏み入れた途端に、ワラワラと這い出るように男達が厳つい体を並べ始める。全く……数だけ揃えりゃいいってもんじゃないだろうに。ざっと見た限り人数は100人程度、ってトコロか。う〜んと……肝心のヨフィはまだ出張ってきていないみたいだな。だが、ムンムンと漂ってくる気配は間違いなくあいつと同じ……ガードマン達もそれとなーく纏っていた、あのキナ臭い空気だ。多分、この瘴気を抑え込んでいる感じからしても……。


「……原理の大元は噂の魔禍、ってところか。で……魔禍は確か、退治方法も確立していないようなバケモンって話だったな」

(そうでしたな。ですが、若。見たところ、此奴らはそこまでの化け物ではないかと。我の刃にかかれば、どうってことなかろうて。……ふふ……! これは刃の振るい甲斐がありますな!)

「そうだな。……と、十六夜。お喋りはそこまでだ。行くぞ!」


 十六夜と楽しくお喋りしていると、待ちきれないとばかりに唸り声を上げながら男達が突進してくる。攻撃を躱すついでに、手近な奴の腕をザクっと落としてみるものの。……なるほど、どうも相手は痛みを感じていないばかりか、切った側から回復・再生もやってのける。突進しか能がないのか、やたらと殴りかかってくるが……色々と面倒だし、ここは十六夜任せに押し通らせてもらおう。


「こいつら……出来損ないと同じクセェな。つー事で、十六夜! 遠慮はいらねーぞ! 魂ごと食っちまいな!」

(おほほほほぉ! 言われずとも、そうするつもりよ!)


 そうして、ご機嫌な十六夜を横一線にズバッと一振り。明らかに禍々しい風刃が、凄まじい勢いで空間そのものを切り裂いていく。……ご本人様の趣味は最低・最悪だが。切れ味だけは冗談抜きで本物だから、頼もしい限りだ。


(ふむぅ……なかなかに美味ぞ。人の魂というのは、それなりに甘美な腐敗臭がするぞえ)

「……それ、美味いのか? 腐敗臭で喜ぶって……」


 なんだか、ベルゼブブみたいだなー。考えただけで、俺の方は吐き気がするんですけど。


「そんな事に気を取られている場合じゃないか。とにかく、この調子で全員斬り伏せるぞ」

(ほほ……任せておくんなまし!)


 おぉ、おぉ。ここらでようやく銃器を持っていらっしゃるか。そうなると、さっきの予想はちょっと訂正した方がいいだろうな。……こいつらにはまだ、武器を扱う知能は残っている。だとすると、そこまで人間を捨ててないし……落ちぶれてもいないって事なんだろう。


「ま……俺からすりゃ、おもちゃもいいトコロだけどな。ハハッ! そんな鉛玉、当たるかよ!」


 ハイハイハイ……! ほいさほいさ、っとね! 折角ですが、おもちゃの弾はぜーんぶ、撃ち落として差し上げますよ、っと。人間相手に慈悲を持ち寄る程までには、俺も悪魔を捨ててるわけじゃないんでね。実力の差も存分に見せつけてやらにゃ、つまらん。

 それでなくても、調子をこきにこきまくってる十六夜の切れ味は、今宵も絶好調。こいつは無駄に長いから、小回りが利かない部分があるけれど。反面、攻撃範囲の広さはピカイチで、防御にもそれなりの性能を発揮するから……癖はあるが、慣れれば使い勝手もいい。

 そうして十六夜の攻撃範囲の広さにモノを言わせて、攻撃を片っ端から叩き落としてやれば。残るは攻撃手段を失った、木偶の坊のみ。さーて、と。


「十六夜! ここらで一気に仕留めるぞ!」

(承知ぞ、若! このゲスヨイマル……ぜーんぶ綺麗サッパリ、ゲロって差し上げましょうぞ!)

「……だから、ゲロはやめろ、ゲロは」


 この性癖さえなければ、もっと扱いやすいのになぁ……。


「ま、いいか……行くぜッ!」

(おほほほほほほぉッ! 全身全霊、呪詛を全放出ッ! あぁぁぁぁッん! この瞬間こそ……エクスタシィィィィ!)


 いや、だから。誤解を招きそうな喘ぎ声と一緒に、これまた誤解を招きそうな台詞を吐くのはやめろ。吐くのは、呪詛だけでいいし。ったく……この辺の挙動不審も相変わらずか……。


「……もうちょい、ビューティフルにできないもんかね、色々と。ま、いいか。いずれにしても、敵さんは無事に成敗完了……ってところだろうし」

(それはそうだろうて。我の刃を前にして、形を保っている方がおかしい)


 使ってる俺が言うのも、なんだけど。本当に十六夜の呪詛攻撃は恐ろしーな。ドス黒い呪いをばら撒いたかと思えば、魂だけじゃなくて、肉体そのものの生命力も搾り取って食い物にするんだから。この攻撃を向けられたら、俺も命の保証はないと思う。


(して、若……ご褒美はまだかえ?)


 しかし、間髪入れずにこれか……。折角、俺が実力を認め直してやっていたのに。どうして、自ら評判を下げるような事を言うのかねぇ……。


「……ハイハイ、ご苦労様でした。ご褒美は後でしーっかりやるから、もうちょい待ってろ。……まだ、山場が残ってる」

(あぁ、そのようじゃな。……あれは何ぞ? あやつも人ではなさそうだが)


 そんな風に十六夜とやりとりをしていると、余裕の涼しい表情で現れたのは、ヨフィさんその人。伏兵を全員土塊にされたというのに、いかにも満足げに手元をパチパチと鳴らしてみては、トロリとした眼差しを向けてくる。


「ふふ……流石、本物は違いますわね。こうもあっさりと、前座をクリアしてくるのですから。私の見込み以上ですわ」

「ほーか、ほーか。そいつはお褒めに与り、光栄ですね……っと。で? どうすんだ? ……お前さんも滅多斬りにされたいのか?」

「まさか! 私はただ……あぁ、いえ。こんな所で立ち話も野暮ですわね。どうぞ、こちらへ。……改めて、おもてなしをいたしますわ」


 ……これはついて行った方がいいんだろうな。明らかに罠っぽいけど……ま、十六夜がいれば大抵の相手は斬り伏せられるし、何とかなるだろ。とは言え……。


「……あなた、ここからが正念場ね」

「……そう、だな……」


 これはどちらかと言うと、正念場というよりは、修羅場な気がする……。お願いだから、そんなにおっかない顔で睨まないでくれよ。……何だかんだんで、前途多難だな……もぅ。

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