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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−10 下ネタはマジで勘弁してくれ

 テーブルの上に皿の魔法陣も追加。俺が気を利かせて、嫁さんにお茶をと追加注文をお願いしたらば。知れっとクソガキ共もお茶とデザートを追加注文しやがった。しかも、さっきは白いクリームだったのが、今度はチョコレートに様変わりしているのが、これまた何とも。……俺のトラウマをほじくり返してくるから、厄介だ。


(唯一の救いと言えば、コーヒーが美味いことくらいか……)


 前回はブレンドを頼んだが、今の俺は銘柄もしっかりと勉強済み。ちょいとお高いが、普段愛飲しているお気に入りの「ブラッディリザード」をお願いしてみれば。「最高級」の名に恥じない豊かな風味と、しっかりとした苦味に、コーヒーの味だけは大満足だ。それにしても……いつかの時に、「血生臭い名前で不味そう」だなんて早とちりして、悪かったなぁ。


「さて……と。仕切り直しと行こうか? 名簿の突き合わせで、何がどうしたって?」

「えぇ……実は、ね。2つの名簿を見比べた時に、明らかにおかしな点があったの」

「おかしな点って言われても、なぁ。……そもそも、俺が持っている名簿だって、そちらさんからお預かりしたものだったし……俺、何もしてないぞ?」

「もちろん、分かっているわ。いいえ……寧ろ、逆よね。あなたが何もせずに保管しておいてくれたから、分かった事があったの」

「……?」


 俺の方はリッテルの話は大した内容じゃないと、ちょっと舐めていたんだけど。いつものテンションを急激に落として、悲しそうに嫁さんが語った内緒話は、とてもじゃないが軽く受け流していいものじゃなかった。


「あなたの持っていた名簿には、こちら側の記録にない人員が含まれていて。しかも、あなたの名簿にいた2人の事を……誰も覚えていなかったの。それなのに、彼女達が生きていた形跡が残っていた。それはつまり……」

「……そういう事か。そいつらの喪失には、こっち側が1枚噛んでたんだな? で……片方がヨフィさんだったりしたか?」

「その通りよ」


 なるほど……な。リッテルの話からするに、人間界で紋章魔法をぶっ放す馬鹿か阿呆が本当にいたらしい。なんてこった。

 しかし……魔法のメソッド的に、それが効率的なのかどうかを考えてみるものの。どうも、理屈が噛み合わない。いくら容疑者(リルグの紋章魔法はアケーディアが術者らしい)が配下なしの、単独真祖と言えど。祝詞を剥がした相手の存在を、丸ごと肯定するのは不可能だ。何せ、最下落ちになった奴はその場で存在そのものが抹消される。周りの奴らの記憶からも消滅させられて、「なかったこと」にさせられて……対象者の存在を覚えているのは、最下落ちを拵えた真祖ただ1人となる。


(だとすると……アケーディアがわざわざ、ヨフィさんを焼き直ししたのか?)


 それであれば、さっきのリッテルを昔から知っている風な態度にも筋が通る。だが、彼女の反応に筋が通っても、労力的には見合わない。……わざわざそんなまどろっこしい事をするくらいなら、最初っからブロークン側の「剥奪」じゃなくて、エンチャント側の「隷属」を使えばいいだろうに。

 最下落ちへの領分の刻み直しもできるっちゃできるし、最下落ちを拵えた真祖本人であれば、そこまで難しい話でもない。だが、「本来であれば難しいこと」を簡単にするには、対象者が元から自分の配下であることが前提条件だ。領分違いの真祖が、配下ではなかった奴に紋を刻み直すのは相当な苦労と労力を要する。

 紋を刻み直すのに、どうして真祖がそこまで消耗せにゃならんのかと思うものの。……魔力の器が血に紛れた「魔力に反応できる因子(次からは魔力因子とでも略すか)」の集まりであることを知った今では、その理由もなんとなく理解できる。おそらく、祝詞を剥がされた相手に自分の領分を刻むと言うことは、相手の魔力因子全てにマーキングを施さなければならないという事なんだろう。魔力因子がトータルでどのくらいの量なのかは知らんが、魔力版赤血球だと想定すれば、数百億は下らないんじゃなかろうか。領分を刻み直すだけで、真祖側が死にかけるなんて、言われていたりするけれど。領分の刷り込みは、魔力要因全てに自分の領分を行き渡らせる作業でもあるため、こいつは冗談でも脅しでもなさそうだ。

 だからこそ、配下でもない奴に領分を刷り込むのは、真祖側の消耗からしても避けるべきであり、あまりに現実的じゃない。それに……例え親玉の真祖であったとしても、記憶を持っているのがどこまでも他人である以上、元の記憶からはどうしても欠損が出るし、どんなに足掻いても元通りにはできっこない。そうなれば、支配的な意味でも、情報量的な意味でも……「剥奪」からの「隷属」を施すのは、得策ではないだろう。


「そう言や……ヨフィって、なーんか……随分前にも聞いた事があったような……?」

「えっ?」


 不可解だらけだと、頭に詰まった記憶をグルグルと引っ掻き回していると。妙に、ヨフィさんのお名前に聞き覚えがあることを思い出す。

 あれ? もしかして、もしかするのか? こいつはまさか……タダの偶然の産物だったりして。ヨフィさんって……名前の語呂からしても、天使だった時は「ヨフィエル」だったんじゃないかな……?


「あなた?」

「……えぇと、な。ちょいと、それっぽい事象に心当たりがあって。だけど、少々込み入った話と言うか。続きは、別の場所でした方がいい気がするが……」


 しかしながら、俺が思い当たった事はここでぶっ放していい内容じゃない。明らかに、真っ昼間の健全なカフェでお話しする事じゃないと思うんだ。そうして、何となーく気まずさを誤魔化そうとコーヒーをゴクリとやってみるが……。


「もしかして……あなたの心当たりって、ヨフィエルがヨルムンガルド様とエッチした事かしら?」

「ブフォッ⁉︎」


 そこまで知ってたのかよ! だったら、わざとらしく内緒話を持ちかけるなし!


「キャァ⁉︎ ちょ、ちょっとあなた! 何するの!」

「それはこっちのセリフだ、コンニャロウ! それが分かってるんだったら、勿体ぶらなくてもいいだろ! 第一、レディが堂々とそんな事を言っちゃ、ダメだろーがッ!」


 堪らず俺が吹き出したコーヒーを拭いながら、詰ってくるリッテルだが。不意打ちの下ネタはマジで勘弁してくれ。と言うか、どうして天使様ってのは揃いも揃って、そっち方面に興味津々なんだよ⁉︎


(出会った頃は、もっと恥じらいもあったんだけどなぁ……)


 これは、あれか? やっぱ、俺のせい? 俺の領分が悪さしているせいか? だけど、俺は色欲の真祖を兼任したつもりはないぞ。


「大丈夫でしゅよ、パパ。ママがエッチな事をするのは、パパだけでしゅ!」

「そういう事を言ってるんじゃなくてな……。ここはお下品な事を言っていい場面じゃないんだよ……」

「そうなのです?」

「ママ、それ……本当?」

「さぁ……どうかしら? もぅ。あなたったら、恥ずかしがり屋さんなんだから。うふふ……可愛い」

「……」


 あぁ、あぁ……今日も空が青いし、嫁さんもニッコリ平和でござんす。でも、俺の気分がどうしようもなくしょっぱいのは、気のせいだろうか……?


(もう、いいや……。細かい事は、直接ご本人様に聞こう……)


 俺の記憶にも薄っすらと名前が残っていた時点で、ヨフィエルは完全に存在の「剥奪」をされずに済んだのだろうと思う。天使の皆さんの記憶から抹消されているとなると、魔法自体は失敗していないようだが。おそらく、この中途半端な効果の回避は、クソ親父由来の耐性がしゃしゃり出た結果だろう。

 しっかし、冥王様とやらは本当に身勝手さだけは偉大だな。ばら撒くだけばら撒いて、本人はなーんも知らないし、責任も取らないんだから。……色々と巻き込まれて、尻拭いさせられる方の身にもなれよ。

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