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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−7 マイブームはカーヴェラ

 擦った揉んだの末に、ようやく目的地に辿り着いたけど。……ついでのお見送りがヘビーすぎて、俺のオツムは既に疲れ果てていた。しかも……。


「……ダンタリオン。急に押しかけた手前、ワガママを言えないのも、重々承知しているんだけど。もうちょい俺にも分かるように、要点を掻い摘んで説明してくれないかなぁ……」

「何をおっしゃるのです! 魔法研究の進捗を確認したいとあらばッ! 詳細を把握しておくのは、必須項目でしょうに!」

「そ、そうなるのか……?」


 ダンタリオンの迫力に気圧されて、大人しく講釈に耳を傾けているけれど。ヤジェフの事情で容量もパンパンなのに、追い討ちをかけるように難しい話を延々とされて……俺の頭はパンク寸前まで追い詰められていた。


(このノリは、アレだな……。ゲルニカの魔法書コレクションを前にした時と、同じノリだな……)


 マモンも「魔法書絡みになると、鎮められないレベルで人が変わる」って言ってたっけ……。だけど、要領も今ひとつ掴めていない素人に、マシンガントークで上級チックな魔法概念をぶちまけないで欲しい。


「しかし、今の話だと……ルートエレメントアップの解除には、紋章魔法も必要になるんだよな?」

「そうなりますね」

「……それって要するに、マモンにもご協力いただくって事だよな? しかも、出来損ない共に祝詞を刻むって……そんなこと、できるのか?」

「できるみたいですよ? 何せ、この部分の発案者はマモン本人ですし。あの見た目ですが、マモンは紋章魔法もきっちりと習熟済みのようですから。自らに紋章魔法を打ち込んで、理性アリのバーサークモードを発現することもできるのだとか」

「そうなんだ……?」

「クゥゥッ! 私は決して、頂点に君臨したいだなんて思いませんが……エンブレムフォースだけは使ってみたい! それで、是非にでも究めてみたいッ! こういう所ばかりは、マモンが羨ましいッ‼︎」

「そ、そうか……」


 これ……マモンがここにいなくて、本当に良かったな。「こういう所ばかりは」だなんて、さりげなく失礼なことを言ってのける配下の態度に、妙に繊細なあいつはこっそりと傷つくだろうなぁ。しかも、魔法の習熟に見た目は関係ないと思うんだ。


「とにかく、魔法の構築概念は出来上がっている……ってコトまでは分かったよ。流石、魔界の大御所様だな。この成果であれば、ルシエルも一安心だろう」

「そうでしょう、そうでしょう! ふふ……マスターは人の使い方を心得ていらっしゃる。流石は私が見込んだ大天使様です!」

「うん……そう、だな」


 見込んだ大天使様、ね……。えぇと……ダンタリオンがルシエルと契約したのは、ゲルニカの所の魔法書を読み漁るためじゃなかったか? こうして、改めて話をしてみれば。ダンタリオンは結構な部分で、お調子者なんじゃないかと思えてくる。こりゃ、マモンが苦労するはずだ……。


「魔法の完成にはデモンストレーションも兼ねて、もう少し時間がかかりますが……マモンが丁度、霊樹の落とし子を大量にストックしていますからね。落とし子を練習台にして、擬似ルートエレメントアップの束縛と解除の効果を試してみようと思います。それが上手くいけば、本題のローレライの解放も可能かと」


 ですので、マモンが帰ってきたら早速、試す予定なのです……と、ホクホクと顔を紅潮させるダンタリオンだけど。なんでも、マモンは人間界にお出かけ中とかで、カーヴェラに出張警備に行っているらしい。……なんだかんだで、強欲の真祖様はいつもお忙しいみたいだな。回り回ってご迷惑をおかけしている事も多いし、ダンタリオンのこの状況を見つめれば……ますます、申し訳ない気分にさせられる。


***

「ブェックション! ブルル……妙な寒気がしたな、今」

「あなた、大丈夫?」

「うん……大丈夫だと思う、多分」


 誰かが、俺の悪口でも叩いているんだろな〜。きっと、ダンタリオンだろな〜。

 そんな風に勝手にあんにゃろう、といらん事も考えちまうけれど。それはさて置き……嫁さんやクソガキ共を連れて、調査がてらカーヴェラをブラブラしてますよ。

 ホーテンさんによれば、美術館の館長が「とある人物」に変わったそうで。しっかりとルルシアナ・ミュージアムの特別招待券……プレミアムパスというやつらしい……を貰ったもんだから、ちょっくら芸術鑑賞でもしようとやってきたものの。元館長のぺラルゴはどうしているかなと、つい、余計な心配をしてしまう。


(あいつ、あの後どうしたかな……)


 リッテルの勢いに気圧されて、成り行きで人間界に逃がしてやったけど。最近の傾向を見る限り、ユグドゲートのマイブームはカーヴェラだったりするもんだから、意外とバッタリ! ……な、ありがた迷惑な再会もあり得るかもしれない。うん、気をつけておくに越した事ないな。


「パパ、ここはどんな場所なのですか?」

「美術館って所でな。言ってみれば、アートがたくさん詰まった場所だ。もし退屈だったり、眠くなったりしたら遠慮せずに言え。……場合によっちゃ、抱っこで移動も許可する」

「はいでしゅ! アチシ、退屈でしゅ!」

「おいらも!」

「……入る前から退屈とか吐かすな、アホタレが」


 一応、ある事を確認しにきたんだが。この調子じゃ、先が思いやられるな〜……。しかも、隣で嬉しそうに肩を揺らしているのを見る限り……嫁さんは抱っこを手伝ってくれる気はなさそうだ。言い出しっぺである以上、責任は取りますけど? ちょっとは、子守も手伝ってくれないかな。


「すみません、入場したいんですけど……」

「ルルシアナ・ミュージアムへようこそ。鑑賞料はお2人ですと、銅貨12枚ですよ」

「えっと、これ……使えますか?」

「そっ、それは、ルルシアナ・パス……! もちろんです! 是非にお通りください!」

「う、うん……ありがとう(これ、ルルシアナ・パスって言うんだ)……」


 プレミアムパスの威力、恐るべし。よく分からんが、ただでさえ丁寧だったチケット売り場のお姉さんの態度が、ますますキュッと引き締まる。しかし、俺は絵を見るのも楽しみなもんで、中に入れてくれればそれで結構なんだけど。……別に、そこまで緊張しなくてもいいのになぁ……。


「うふふ。あなたの魅力に、みんなメロメロね★」


 そして、リッテルよ。何がどうなって、そうなるんだ。お姉さんの反応、絶対にそういう雰囲気じゃなかったぞ?


「いや、さっきのは多分、そうじゃないと思うけど……」

「グリちゃんは相変わらず、謙虚なんだから。もっともっと、偉そうにしてもいいと思うわよ」

「無駄に威張り散らす必要はねーだろ。お前の下らん妄想に、善良な市民の皆さんを巻き込むな」

「まぁっ!」


 わざとらしくプリプリしなくてもいいからな? さっきから注目の的なのは、俺じゃなくてお前の方だし。そんなに可愛い顔をしていたら、変な虫が付くだろうが。頼むからいい加減、自分が発しているオーラ(存在感とも言う)の強烈さを自覚してくれ。


(……兎にも角にも、潜入は成功……なのかなぁ、これ……)


 意図せず、悪目立ちまくっている気がするんだよな、本当に。こんなんじゃ、用心深いらしい向こうさんに感づかれちまうだろうが。首尾良くターゲットの新館長・ヨフィ様に接触できれば、いいんだけど。……なーんか、前途多難過ぎて、気が滅入っちまう。

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