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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第20章】霊樹の思惑
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20−3 お空が青くても

 どんよりと黒い空……じゃなくて、気持ち悪いくらいに澄み切った青い空が広がる、ここは魔界。ドス黒い魔界に慣れ切った俺にとって、魔界の空が青いだなんて、未だに信じられないけれど。だからと言って、悪魔の所業は基本的に変わっていない。欲望に忠実であれ。天使様達の介入で以前にも増して、「お願いが叶うチャンス」が増えた悪魔にしてみれば、現世は魔界史上始まって以来の素敵な世界ではあるだろう。


(しかし……朝っぱらから、何をやっているんだか……)


 暴食の悪魔である以上、俺のヨルムゲートはどうしてもベルゼブブの領域に繋がってしまう。移動に関しては、飛んでしまえばそこまで苦労はしないのだけど。ただ……道中であまり見たくもない光景に遭遇することが、あるんだよなぁ……。やっぱりお空が青くても、ここはしっかり魔界だなぁ……。


(この辺りは確か……色欲の領域か。だとすると、あの人間さんはそっち絡みで迷い込んだのか……)


 眼下で嬉し恥ずかしと泣き喚いているのは、インキュバス達にいいようにされている人間女性1名様。強欲の領域(永久凍土の崖下)が目的地である以上、ベルゼブブの領土から北上する格好になるので、どうしても色欲の領域を通らざるを得ないんだが……う〜ん、相変わらず色欲の悪魔さん達ははっちゃけていらっしゃる。


(まぁ……その辺は俺が茶々を入れる必要もないか。……と、言いたいところだが……)


 どうも、様子がおかしい。インキュバスに混じって、明らかに色欲の悪魔じゃない奴が、1つ目の睨みを効かせているじゃないの。あれは確か……。


(キュクロプスか? どうして今の時期のこんな所に、怠惰の悪魔がいるんだ?)


 娼館のお客様……ではなさそうだな。凶暴そうな見た目に反して、頼み込むような言葉を聞く限り……キュクロプスは慰み者になっていた彼女を助けようとしているらしい。しかし、怠惰の悪魔は今の時期、冬眠中のはずだったが……。


「ど、どうするよ……キュクロプスが相手じゃ、敵わないぜ?」

「チッ……! 折角の上玉なのに……領内で奪われたんじゃ、メンツが立たねぇ! しかも……」

「そうだよな……このままじゃ、アスモデウス様に怒られるよな……」

「……最近、めっちゃくちゃ、機嫌悪いし……」


 だろうな。何よりも「世間体」と「口コミ」を気にするアスモデウスの耳に失敗談が入れば、タダじゃ済まない。それでなくても、最近のアスモデウスは色欲の悪魔の勢力が最下位に転落したのを気にしている。……インキュバスが全員、ジェイド並に強かったらいいのかも知れないが。残念なことに、彼女の配下で素のままで戦力となるのは、生粋の上級悪魔でもあるリリスだけだ。


(この辺は真祖の気質にもよるんだろうが……あぁ、なるほど。アスモデウスは相当に焦っているんだな……)


 純粋な勢力だけを考えれば、ベルゼブブもあまり変わらないのだが。当然ながら、中身の内訳は大幅に異なる。

 暴食の悪魔に関して言えば、俺以外に上級悪魔は存在しない。だから、配下の戦力だけで考えたら最弱の部類に入るだろう。だけど、戦力不足を真祖でもあるベルゼブブが自ら補っていたりするんだよなぁ。……ウチの親玉は基本的にチャランポランでいい加減だが。マモンの次に強いと噂されるだけあって、あいつは単体でも相当の実力を持っていたりする。


(とは言え、暴食の悪魔の立ち位置は昔からあまり変わっていないし……この場合のネックは、羨望の勢力になるんだろうな)


 おそらく、今まで最弱をキープしていた羨望の悪魔が台頭してきたことが、アスモデウスの焦りを引き出しているのだろうと思う。リヴァイアタンが本来の力を取り戻して、「マトモな真祖」になった途端、羨望の悪魔の地位は飛躍的に向上している。と言うよりも、今まで真祖が微妙で侮られがちだっただけで……羨望の悪魔達のポテンシャルは元から高水準だ。上級悪魔の種類も数も多ければ、ナンバー2のダイダロスも相当の実力者。追憶越えこそしていないようだが、ヤーティと旧知の仲だという事を考えても、かなりの古株には違いない。


(って、今はそんなことを考えている場合じゃないか。……とにかく、喧嘩を止めた方がいいだろうな、ありゃ)


 俺がぼんやりと魔界の力関係に思いを馳せていると、一触即発とばかりにキュクロプスが唸り始めた。しかし……一緒に女の子も泣かせちゃ、話にならないだろ。人間からすれば、インキュバスよりもキュクロプスの方が明らかに化け物だし、それはそれで仕方ないと思うけど。


「おっと、ストップ、ストップ。落ち着くんだ、キュクロプス」

「あんた……誰だ? あっしは、ただ……」

「うん、分かってる。……この娘を助けたいんだよな? だけど、怠惰の悪魔が色欲の領域で暴れるのは、やめておいた方がいい。お前が暴れたら、ここだけの喧嘩じゃ済まなくなる」

「……そっか。あぁ、そうなるのか」


 思いがけず、インキュバスを庇う格好になったが。話してみれば、目の前のキュクロプスは物の道理も分かる奴らしい。どうしてこんな所にいるのかと聞いてみれば……ベルフェゴールのお使いで、アスモデウスへのお届け物を預かってきたとのこと。


「そうだったんだ? それじゃ、余計に騒ぎを起こしちゃ、ダメだろう?」

「そ、そうですね……」

「そうだ、そうだ! ここは俺達の領域だぞ!」

「キュクロプスがしゃしゃり出てきていいトコじゃないんだよ!」


 うん、ここは色欲の領域だ。もちろん、背後から飛んでくるインキュバス達の言い分はご尤もなんだけど。でも……何となくだけど、俺も彼らの言い分は不愉快だったりする。


「……お前らもうるさいぞ。この情けない状態をアスモデウスに告げ口されたくなかったら、ちょっと黙れ」

「は、はいっ?」

「いや、エルダーウコバク。いくらあんたが相手でも……」

「うん、まぁ……言いたい事は、分かるよ? ここは紛れもない、色欲のフィールド。しかも、こんな所に迷い込んじゃうんだから、この娘さんも相当のワルだろう。そこを疑うつもりも、否定するつもりもない」

「だよな。なんだ、分かってるじゃん」

「でも……さ。何事も、やりようってものがあるんだよ。朝っぱらから、こんな所でアオカンとか。趣味がいいにも程があるだろ。もうちょい節度ってモノを持てよ、節度ってモノを」


 しかし……俺、なんでこんな所で色欲の悪魔相手に説教してるんだか……。この辺はナンバー2の悲しい習性なんだろうけど。つくづく自分でも悪魔のクセに難儀な性格をしていると、妙にややこしい気分にさせられる。

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