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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−18 夫婦になったからって、調子に乗るな‼︎

 子供用の椅子に腰掛けて小魚を頬張る上機嫌の小悪魔と、ハーヴェンの作ったデザートを上機嫌で頬張る女の子。

 今日のデザートはココナッツミルクを使ったチェー、という冷製スープ仕立ての風変わりな一品だった。高温多湿の土地ならではのデザートということで、独特の風味と甘さが程よく、体を冷やしてくれる。スプーンを潜らせれば、不思議な食感のタピオカと優しい甘さのミルクプリンが顔を出し、ひと匙、またひと匙と止まらない。


「はう〜、今日のデザートも美味しかった。ハーヴェンって、いろんなお料理とデザートを知っているよね」

「こう見えて、研究熱心だからな、俺も」

「そうなんだ。何だか、父さまに似ているね」

「そか? まぁ、ゲルニカはゲルニカで、のめり込むタイプみたいだしな」

「うん、そうみたい。だから、母さまが魔法書にヤキモチ焼くことがあるの」

「そうなの? そう言や……前にゲルニカが奥さんの機嫌を損ねると大変なんだ、みたいなこと言ってたけども。それじゃ、あいつも苦労しそうだな。……ヤキモチの相手が魔法書じゃなぁ」


 魔法書にヤキモチって……相手は無機物だろうに。まだ、のめり込み相手としては、救いもあると思うんだが。


「お頭、おいらもその……デザートとかいうの、食べてみたいでヤンす」

「お? お前も食えそうか? だったら俺のを分けてやるから、食べてみろよ」

「あい!」


 そう言ってコンタローが目を輝かせながら、ハーヴェンのデザートボウルに器用にスプーンを滑らせる。見れば、肉球でしっかりスプーンを挟んでいる。意外と器用なその様子に、思わず感心してしまった。


「ハぅ、とっても美味しいでヤンす! おいらも明日からデザート、欲しいでヤンす」

「そうか? それじゃ、明日から食事も含めて、お前の分も同じものを用意してやろうな」


 そう言われて、これまた嬉しそうに尻尾を振るコンタローに、彼の様子を嬉しそうに見つめるハーヴェン。心なしか、さっきから彼に話しかけるタイミングを逸してしまっているが……相談事は寝る前にゆっくり話せれば、それでいいだろう。それでなくとも、もうそろそろ……。


「ふぁぁぁ……お腹いっぱいで眠くなっちゃった。もう、眠たいかも……」

「今日は1人で、部屋まで行けそうかい?」

「うん、大丈夫。それにもうお風呂も入ったし……ね、コンタロー?」

「……ふぁあい、だから今日のおいらは……一味も二味も違うでヤンすよ。もう、モフモフのモコモコでヤンす」


 確かに、あくびをしながら答えるコンタローの毛並みが、いつも以上にフワフワしているように見える。あ、なるほど。ウコバクは洗うと……モフモフ度が増すんだな。


「……それじゃ、コンタロー。一緒にベッドにゴーなの」

「あい。それじゃ、今晩はお嬢様のお布団で一緒に寝るでヤンす」

「2人とも、おやすみなさい」

「おやすみなさいでヤンす」

「おやすみ」


 まるでぬいぐるみを抱っこするかのように、エルノアがコンタローを抱きかかえて屋根裏に上がっていく。そうされて尚、瞼が既にくっつきそうなコンタローの方も……心なしか、満足気な様子だ。


「ウコバクって、悪魔……なんだよな?」

「まぁ、な。間違っても、ペットじゃないぞ」

「あ、あぁ……」


 エルノアがそうして警戒することもなく、抱きかかえている時点で……コンタローは人畜無害な悪魔なのだろう。こうしてみるとハーヴェンといい、コンタローといい……それこそ、ベルゼブブといい。悪魔は意外と、悪い奴じゃないかもと思えてくるから、不思議だ。


「さて、ルシエル、今日はお茶どうするよ? また風呂上がりに部屋で、にするか?」

「あぁ、そうだな。それに……今夜は少し相談したいことがあるんだ」

「相談? そういうことなら、構わないけど? 俺の方も、お前に話しておかないといけないことがあるし」

「……そう、なのか?」

「あぁ。と言っても、俺の方はギノの事なんだけどな」

「そうなんだ……じゃぁ、あの、良ければ……」

「ん?」

「今日も片付け手伝うから……えっと。あ、そうそう……今日、ラベンダーの香りの入浴剤を交換してきたんだ。で、早速使ってみたくて……」


 未だに素直に気持ちを伝えることもできず、拙い言葉がうまく纏まらない。そんな私の様子を見て……一頻りニヤニヤした後、事情を理解したらしいハーヴェンに頭を撫でられる。


「そういう事なら、一緒に片付けしような」

「……」


 見透かされたように言われて、妙に悔しい気もするが。……それでも、私は無言で頷くしかできなかった。


***

「ギノはいよいよ、晴れて竜族になれるんだな……」

「あぁ。本当によく頑張ったみたいでな。精霊名はギノは地属性ってこともあって、長老様が一肌脱いでくれるんだと」

「地属性か……成り行きから炎属性になると思っていたんだけど、意外だな」

「まぁ、ギノはもともと素質があったみたいだから。その辺は特別なんだろう」


 ハーヴェンの腕の中で微睡みながら、これからのことを話し合う。少なくとも……明日は私もゲルニカの屋敷に出向いた方がいいだろう。


「そういうことなら、私も一緒に行くよ。それで、ギノと契約する……という事でいいか?」

「そうしてくれるか? それでなくとも、ギノは人間界に戻ってきて……多分、プランシーを探したいみたいなんだ」

「プランシー? えっと……」


 どこかで聞いた名だ。誰だったっけ……?


「ほれ、元孤児院でギノを面倒見ていた神父だよ。アーチェッタで子供達を取り上げられた後、行方不明になっている……でも、大丈夫かな。それこそ、今のプランシーは生きていた場合は、普通の状態じゃないと思うんだが……」


 あぁ、そうだ。子供達を取り上げられたショックで、気が狂れてしまったという……だとすると……。


「……無事に再会できても、ギノの心に傷が残りそうだな」

「多分……な。それでも、あの子が探したいというのであれば……俺はできるだけ、応えてやりたいと思っている。だから、あの子がこっちに戻ってきたら色々出歩くかもしれないけど、いいだろうか」

「構わないよ。……何か気がつく事があれば、私にも教えてもらえると、助かる」

「そういう事なら、問題なさそうだな。それじゃ、何かあったらまた相談するから……よろしく頼むよ」

「……あぁ、もちろんだ。……で、な。私の方の相談事について、なんだが……」

「ん? 何か困ったことでもあったか?」


 相変わらず優しく言われて、思わず彼の胸元に顔を埋める。ハーヴェンも私の様子に何かを察したのだろう、しばらく何も言わずに何かを慰めるように抱きしめてくれた。そうされるだけで……最近はとにかく安心するから、不思議だ。


「この間の一幕が……また、例によって報告書という名の小説になって、だな……」

「お、おぅ……」

「で、事の重大さと今までの体制の甘さを見直そうと、ラミュエル様も重い腰を上げられたのだが……」

「うん?」

「だけどな、方向が妙に変な方にズレていると言うか……」

「おぅ?」

「まずは人間界のことを……他の天使にも、勉強してもらうことにしたらしい」

「具体的には……どんな風に?」

「それは、その……っ……」

「ル、ルシエル?」

「……他の天使にも……ハーヴェンに人間界の生活について教えてもらったり、食事を作ってもらったり……それで……洋服を選んでもらったり……」


 そこまで言うと、なぜか涙が溢れ出す。別に大したことでもないはずなのに。でも、いくら命令とはいえ……ハーヴェンを取られてしまうのではないかという不安に押しつぶされそうで、とても苦しい。


「う〜ん。悪いが、そいつは上手く断っておいてくれないかな?」


 しかし、私の不安を見透かすようなハーヴェンの答えは……ある意味で、かなり穏やかではないものだった。


「俺が知っている限りの内容で人間界のことを教える、それは構わない。それで食事を作ってやる、それも別に構わない。でもな……洋服を選んでやるのだけは、ダメだ」

「どうして……?」

「言ったろ? 俺がお前に洋服を見繕ってくるのは……“それを脱がせたいから”だって」

「‼︎」

「悪いな。俺が洋服を見繕ってやりたいのは、お前だけだよ。大体、他の子の事は趣味もサイズも分からねぇし。ほれ、それこそお前のことなら……服の趣味も、胸のサイズも、尻のサイズも……よ〜く知ってるし」

「な、何を言って……⁉︎」

「ま、そういうことだ。洋服を見繕ってもらえるのは、嫁さんの特権だって伝えておけよ。何だったら……ここに来てくれれば、俺の方からもハッキリ言ってやるから。だから、そんなことで余計な心配すんな」

「べ、別に心配なんかしてないし‼︎ ちょっと夫婦になったからって、調子に乗るな‼︎」

「へいへい。素直じゃないところも、まぁ……とても可愛いってことで」


 結局、こういう部分はハーヴェンのペースでうまく包まれてしまう。それでなくとも、最初に会った時から彼に敵わないことは、よく理解していたではないか。もう一度、頭を一頻り撫でられ、一層強く抱きしめられてようやく瞼が落ちてくる。そんな穏やかな微睡の中で……いくつものラベンダーの仄かな香りが、心地よく鼻をかすめていった。

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