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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−31 返事くらい、してくれよ

「ダンタリオーン……生きてるか〜?」


 嫁さんにリクエスト通りのサービスをたっぷりと提供し。ようやく、身柄を解放されたついでに避難も兼ねて、ポンコツ悪魔第1号さんのお屋敷にお邪魔してみましたが。入り口でご挨拶をしてみても、反応がない。これは、もしかして……。


(ま、まさか……ダンタリオン、ノックダウンしてるのか⁉︎ だったら、まずは俺の家に連れ帰って……)


 リッテルに診てもらった方がいいかも知れない。

 咄嗟に嫌な予感を募らせながら、勢い任せに中に突入すれば。……なんて事はない、エントランスからちょっと行った先の部屋で、一生懸命に分厚い魔法書相手に熱中している配下の姿が目に入る。……なんだよ。心配して、損しただろーが。無事なら返事くらい、してくれよ。


「……おや、マモン。何かご用ですか? 見ての通り、私はとっても忙しいのですけど」

「あのさぁ……ヒトが心配して来てやってるんだから、返事くらいしろよ……」

「それは、すみませんでしたね。いえ、普段はきちんとお出迎えはしますよ? マモン以外であれば」

「それ、どういう意味……?」

「君は別にお出迎えしなくても、勝手に入ってくるのでしょう? 強欲の真祖が、配下に遠慮を示す必要もないでしょうし」


 ハイハイ、お前さんも普段通りの絶好調で何よりだよ。どうして、こいつはこうも都合がいい時だけ、俺を真祖扱いするんだろうな。俺だってきっちり傷つくし、こっそり拗ねちゃうんだぞ? 配下って自覚があるんなら、真祖相手にこそお出迎えをしてくれないかな。


「まぁ、いいや……それで、今日、ルシエルちゃんが来たと思うんだけど。ちゃんと、ご用件はお伺いできたんだろうな?」

「もちろんですよ。私を誰だと思っているのです。この魔界で最も博識で! 最も魔法に精通した! 押しも押されぬ、大魔道士ですよ?」

「……そうか、そうか。そいつはよろしゅうござんした」


 もちろん、ダンタリオンが博識なのも、魔法に詳しいのも、ちゃんと認めはするぞ? でもさ……そういうのって、自己申告されると、途端に胡散臭く感じるんだよな。それはさておき……ルシエルちゃん、確か怒ってた気がするんだけど。この様子だと、大天使様のご機嫌も無事だった……ってことで、いいのか?


「しかし……ダンタリオン、何もなかったのか? なんだか、ルシエルちゃん……怒ってたみたいだけど」

「別に何ともありませんよ? 確かに最初はマスターもご機嫌がよろしくなかったようですが……彼女はきちんと話せば分かってくれるタイプの人種ですので。誤解が解けた後は、私にとても素敵な研究対象を与えてくれましたし。これでこそ、天使と契約した甲斐があったというものです。まさか、こんな形で竜族の固有魔法に触れることができるなんて……! なんて、幸せなのでしょう……! ふふふ……マスターは流石、分かっていらっしゃる。こんな大役に私を起用されるなんて、実にお目が高い」

「……そうだな」


 この感じは……あれか? ご本人様もおっしゃっていた「勘違いしていたタイプの人種」って奴か? そもそも、「お目が高い」は選ばれた本人が吐くセリフじゃないと思うんだが。


「で? 大丈夫そうなんだろうな?」

「何がですか?」

「ルシエルちゃんのオーダーについて。竜族の固有魔法を所定外の方法で解くなんて、できるのかって聞いてんだよ」

「もちろん、大丈夫ですよ! ……と、言いたいところですけど。正直なところ、やや難航しています」


 そうして肩を落としたかと思うと、いつになく揺るぎない自信家の顔が曇る。まぁ、俺も話の概要くらいは聞いていたけど。今回のお題は、いくらダンタリオンでも……ちょっと難しいだろうなと漠然と考えていた。

 どうやら詳細な魔法データも提げて、ルシエルちゃんは頼みに来たようだが。ダンタリオンはちょっと困った様子で、手元の魔法書(何でも、竜族直伝の秘蔵品らしい)とルシエルちゃん経由の情報とを交互に示しながら、珍しく「自分がどこで引っかかっているのか」を白状してくるでないの。……普段のダンタリオンなら、俺にこんな風に「できない自分」を曝け出すこともないだろうに。多分、そこまでしてでもクリアしたい程に……こいつにとって、今回のお題は魅力的と見える。


「……どれどれ……? って、おい。……これ、古代竜言語じゃねーか。いくら俺でも、そこまでスラスラと読めんぞ、これは」

「や、流石に文字の種類くらいは特定してきますか。ふふ。それでこそ、私の親の悪魔というものです」

「ハイハイ、お褒めいただき光栄ですよ……っと。しかし……ま〜た、ねちっこい構成してんな、この魔法。……種族だけじゃなくて、名前をトリガーに組み込むなんて。どんだけ、術者を束縛したいんだよ」


 仕方なしに、奴が示す部分をフムフムと……ちょっと苦戦しながら読み解いてみれば。ダンタリオンが「困っている部分」にも、何となく思い至る。おそらく、ダンタリオンは種族限定魔法である以前に、魔法の構築に「精霊の個体名を組み込んでいる」というメソッドを崩せないでいるのだろう。

 ルシエルちゃんのオーダーは既に発動している「ルートエレメントアップ」という魔法を、本来の手順……新しい「ルートエレメントアップ」を使わずに解除すること、だったかと思う。だが、あらかたの構成を見る限り……この魔法には術者の名前を固定することで、エネルギー源としての生贄自体を固定する狙いが含まれている。だから、術者が特定の竜族であるという前提条件以上に……犠牲者の名前を明示する必要がある、ということなのだろう。このタガを外した場合、おそらくだが……。


「……ここの構成をバラしたら、他の奴も栄養源として取り込みそうだな、こりゃ」

「でしょうね。この魔法は術者を犠牲にすることを、必須条件としています。ですが、術者の名前さえ組み込んでしまえば、他の者には手を出さない……という、プロトコルも込められているのでしょう。しかも、術者自体も特定の竜族……魔力レベルも高位かつ、ドラグニールと同じ属性を持つもの……とされています。……私もドラグニールを直接拝んだことがないので、なんとも言えませんが。ヨルムツリー以外の霊樹は元々、神界由来です。ですから……」

「一律、地属性のベースと聖属性のハイエレメントと相場は決まってる……って、トコか」

「……その通りですよ」


 しかし、逆に考えれば……どうでもいい奴を差し出せば、構築の体裁を整えることは可能ってことか。あっ、だとすると……。


「……俺、ちょっと閃いちゃったかも」

「えっ? マモン……何を閃いたと、言うのです?」

「要するに、だ。この魔法用の生贄を作ればいいって事だよな?」

「ま、まぁ……そうなるでしょうけど……。でも、生贄を用意したところで、属性固定の問題は残っています。ですから……」

「それこそ、お前の得意分野の話じゃないの? 魔法構成学を応用して、術者限定の構築を外した魔法をヨルム語ベースで再構築してやればいいんでない? 一応、竜言語とヨルム語の言霊ベースは似てるんだし。……ヨルム語の発祥がド腐れ“龍神”で、よかったな?」

「そ、そうか……! 言われれば、確かに……対象が竜言語であれば、ある程度はヨルム語への変換は可能かも知れません。しかし……」

「生贄問題は真祖の職権濫用で、イケるだろうよ。……この魔界にも、いるだろ? 領分なしの出来損ないが。エンブレムフォースのエンチャントを使えば、あいつらの有効活用もできるんでないの? 一応の魂は乗ってるわけだし。……霊樹の栄養剤くらいには、なるだろうさ」


 俺的には、あんまり好みの使い方じゃないけどな。手早く配下を量産するのであれば、マーキングを施して、自由を奪っちまうのが手っ取り早い。なにせ、あいつらは死んだ時に欲望の向く先さえ固定できなかった、なりそこないの悪魔だ。どの真祖の領分にも属していない以上、強引に紋章を刷り込む事はできるだろう。しかし……。


(……ダンタリオンに、こんな顔をされるのは初めてかも……)


 真祖の強みを活かした打開策を提示した途端、コロッと態度を変える配下の姿に……もう、何も言えない俺がいる。この様子であれば、後はポンコツ悪魔第1号さんの明晰な頭脳(自称)によって、難なく解除用の魔法が出来上がりそうだけど。でも、さ……ちょっと手助けを申し出ただけで、そんなに潤んだ目で見つめないでくれよ。どーにも、こーにも、照れるだろーが。

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