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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−16 初めてマトモな祝辞

 ルシエルから子供達を迎えに行って欲しいと言われ、ゲルニカの屋敷にお邪魔すると。相変わらずのふんわりした雰囲気だけど、どこか高揚した様子の奥さんが出迎えてくれた。


「お久しぶりです。子供達もお待ちかねですので、さぁさ、こちらへどうぞ」

「あ、お久しぶり。子供達を預けっぱなしの上に、お迎えが遅くなって、すみませんでした。しかも、コンタローも一緒にご厄介になっているとか……。ご迷惑ばかりかけて、申し訳ない……」

「そんな事、ありませんわ。コンタローちゃん、とってもいい子ですもの。子供達も私もコンタローちゃんのモフモフに癒されていますし。今、お茶をお持ちしますね。子供達はこの先の部屋におります。そちらでお待ちくださる?」

「あ、うん。いつもいつも……すみません」


 モフモフ……か。コンタローは垂れ耳のウコバクの中でも立ち耳の珍しい姿をしており、長毛種の彼らの中にあって短毛種のため、モフモフ度合いは控え目だと思っていたのだが。コンタローは体も小さく、ウコバク中でも最弱でもあるため、総じて甘えん坊なウコバクの中でも、とびきり甘えん坊で撫でられることが好きな小悪魔だ。撫でられるという事にモフモフが威力を発揮したのであれば、それはそれでいいのかもしれない。他のウコバクからもちょこっといじめられがちだったことも考えて、ベルゼブブはコンタローをルシエルのお供に選んだのだろう。つくづく、あの大悪魔は細かいところにはよく気が回る。


「よぅ、元気してたか〜?」

「ハーヴェン、寂しかった。会いたかったよぅ〜」

「そうか、お待たせしてごめんな。ほれ、お兄さん、ちゃんと迎えにきただろ? 今日もデザート用意しているから、一緒に帰ろうな」

「うん!」

「お頭〜、おいらも寂しかったでヤンす〜」


 見れば、足元で抱っこをせがむようにピョンピョンと跳ねながら、コンタローがこちらに手を伸ばしている。あぁ、なるほど。肩から掛かっているポシェットは「次元袋」じゃないか。さり気なく、超絶に便利な魔法道具を持たせているあたり……ベルゼブブも配慮してくれていたのかもしれない。今度、里帰りした時にはチョコレートでも持っていってやるか。


「コンタローも待たせてごめんな〜。聞けば、ルシエルの案内をちゃんとしてくれてたんだってな。よしよし、偉いぞ〜」

「アゥゥ、おいら、お頭にナデナデされるのが、1番嬉しいでヤンす〜」


 抱き上げた後に頭をワシャワシャと撫でてやると、コンタローは飛べるんじゃないかという勢いで尻尾を旋回して振っている。おぉ。確かに、これは癒し系かもしれない。


「そう言や、ギノ。お前、尻尾の包帯取れたんだな。その後、調子はどうだ?」

「はい。無事、竜族になれそうだと父さまにも言ってもらえました」

「そうか! そいつは良かったな、おめでとう」

「ハーヴェンさんにも、色々とお世話になりました。それで……」

「分かっているよ。ゲルニカがいいって言ったら、一緒に帰ろうな。嫁さんも改めて契約してくれるだろうし、心配するな」

「ありがとうございます……。ところで、嫁さん……ですか? ツレさんじゃなくて?」


 何気なく答えた言葉に、ギノが耳聡く反応する。そしてちょうどお茶を持ってきてくれた奥さんの耳にも、しっかり届いた模様。部屋の入り口で目を丸くして、彼女が立ち尽くしているのが目に入る。


「ハーヴェン様、今……何とおっしゃいまして? 嫁……さん?」

「あ、あぁ……俺達、結婚しました。組み合わせ的に、人間や竜族の夫婦とは似ても似つかない関係なんだけど……。ルシエルも、ようやく了承してくれたというか……」


 照れ隠しも程々に、答えた次の瞬間……ガチャン‼︎ と大きな音がするもんだから、驚いて改めて奥さんを見やると。これまた妙な感じで、両手で頬を覆いながら嬉しそうに「きゃ〜」とか言っている。な、なるほど。奥さんにしてみれば……思わずお盆ごとお茶をぶちまけるくらいに、テンションが上がる内容だったか。


「まぁ〜、それはそれは、おめでとうございます! もぅ、どうしましょう! とにかく、主人もそろそろ戻ると思いますし、それまでお茶しながらお話できないかしら……って、アラ?」


 そこまで言って、奥さんはようやくお茶を落とした事に気づいたらしい。足元には見るも無残に飛び散った、お茶だったものと割れた茶器の破片が虚しく散乱していた。


「まぁ、私ったら……すみません。すぐに片付けて、お茶を改めてご用意いたしますわ」

「あ、だったら、片付けは俺の方でやっとくから……お茶、お願いできる?」

「ですが……」

「いいよ、慣れているし。ほれ、怪我するといけないから。こっちは俺がやっておくよ」

「では、お言葉に甘えて……とにかく、すぐ! すぐに! お茶を用意してまいりますわ‼︎」

「あ、うん……」


 何だろう……。奥さんはどうも「ニカちゃんモード」に入ると、テンションが妙な感じになるから不安だ。子供達も奥さんの暴走気味な様子に唖然としている。この状況を鎮めるためにも……ゲルニカ、早く帰ってきてくれないかな。


***

「それで、長老様がギノに精霊名を授けてくれる、と」

「あぁ、オフィーリア様も張り切っておいでだった。きっと素敵なお言葉を考えてくださるに、違いない」


 あの後、奥さんに「すぐにでもお茶を‼︎」と言われて待っている間に、ゲルニカも戻ってきた。彼が戻ってきたことに安心したのは、俺だけではないらしい。子供達もどことなく、助かったという顔をしている。


「あの、父さま。それで、僕……」

「あぁ、分かっているよ。ハーヴェン殿と一緒に人間界に戻りたいのだろう? 明日、オフィーリア様から精霊名を頂けたら、君は晴れて精霊としてルシエル様と契約できることになる。契約さえできれば、人間界で過ごすのも大分楽になるだろうし、恐らくルシエル様も快く引き受けてくださるはずだ。問題ないと思うよ」

「はい。父さまにも色々とお世話になりました。僕、こうして生きていられる間は一生懸命、頑張りたいと思います。それに、人間界で探したい人が……会ってどうしてもお話したい人がいるんです」


 ギノが探している相手に心当たりがないわけではない。俺自身も忘れていたわけではないが、場所も場所だっただけに今まで探しあぐねていた。


「探したい人……かい?」

「はい。僕が生きることを繋いでくれた、大切な人なんです。……でも、気がついたら離れ離れになってしまっていて……僕、どうしてもお礼が言いたいんです」

「……なるほど。君の今までのひたむきな頑張りは、その方に会いたいがためだったんだね。ならば、是非とも人間界に戻らなければいけないな。私としては寂しいが、今生の別れになる訳ではないのだし、気軽にこちらにも遊びにきてくれると嬉しいよ。それこそ、みんなで遊びに来てくれれば、テュカチアも喜ぶ」

「はい。是非、魔法を教えてもらいにお邪魔します」

「そうだね」


 そこまで「親子」の会話が済んだところで、今度は失敗せずに奥さんがお茶をサーブしてくれる。しっかりとご主人にお帰りの挨拶をするものの……雰囲気は妙にフワフワしたままだ。


「はい、お待たせいたしました。あなたもお帰りなさいまし」

「ただいま。無事、お話は済んだよ。明日は祝詞の事でオフィーリア様がお見えになるから、よろしく頼む」

「えぇ、もちろんですわ。ところで、あなた、聞きまして? ルシエル様とハーヴェン様のこと‼︎」

「え? ……何もお伺いしていないが……?」


 尻尾をブンブン振りながら、急激に上がった奥さんのテンションにゲルニカが驚いたように答える。あぁ……ゲルニカでも、この状態の奥さんを制御できないんだったっけか。


「ご結婚されたんですって! 種族の壁を乗り越え、実った恋と愛……あぁ〜、なんて素敵なんでしょう!」

「そ、それは……確かにおめでたいのだろうが……テュカチア。体に障るし、深呼吸して。少し気分を落ち着かせて、だな……」

「まぁ……! あなたはどうして、そういう部分は薄情ですの? これが落ち着いていられまして⁉︎」

「テュカチア、と、とにかく座りなさい。それでなくても、ほら。子供達も驚いているし……」


 そこまで言われて、ちょっと我に帰ったらしい。奥さんは「あら嫌だ」といかにもな一言を呟くと、いそいそとゲルニカの隣に収まる。それを見届けて、ようやくゲルニカが俺の方に向き直った。


「……すまない、ハーヴェン殿。テュカチアはどうも、ロマンスに目がないようで……不愉快な思いをさせていたら、申し訳ないことなのだが……」


 ご主人の言葉に「まぁ」と小さく抗議の声を上げる奥さん。それに対し、2つの手のひらを向けて、どうどうと彼女を宥めるゲルニカ。


「いや、気にするなよ。最近は、周りのこういうテンションが普通になりつつあるし。ルシエルはルシエルで同僚がこういう感じだから、苦労しているみたいだけど……。俺もなんとなく、慣れてしまったというか……」

「そうか……だとしたら、こちらもこんな状態ではいよいよ、すまないな……。それで、すまないついでになってしまって恐縮なのだが。それはともかく……ご結婚おめでとう。きっと、これから沢山の色んな時間をお2人で過ごすことになるのだろうけれど、多くの時間がより良いものである事を祈っているよ」

「おぅ、ありがとな。……つか、俺……ここにきて、初めてマトモな祝辞を貰った気がするんだが。本当、お前がいてくれてよかったよ……。ルシエルの周りも変なヤツが多いし……悪魔はその辺の感覚は冗談抜きで、ズレてるし……」

「ハーヴェン殿も何だかんだで、苦労人だよな」

「あ、分かってくれる? そこんとこ、分かってくれる?」

「あぁ、よく分かるさ」

「クゥ〜! 心の友よ〜!」


 大げさに言いながら目頭を抑えてみせる俺の様子を見て、子供達はクスクス笑って嬉しそうにしている。奥さんは……ちょっと不貞腐れているみたいだが、そんなに重症ではないだろう。


「よっし、もうそろそろ帰るかな。明日はルシエルも連れてくるから、よろしく頼むよ」

「もちろん。で、エルノアはハーヴェン殿と一緒に行くのかい?」

「うん! エルノア、デザート食べるんだもん」

「そうか。分かっていると思うが、ハーヴェン殿にご迷惑をかけないように、いい子にしているんだよ。いいね?」

「分かっているもん」


 相変わらず、あんまりよく分かっていそうにないエルノアの頭を優しく撫でるゲルニカ。そうされて……エルノアはいつもながら、嬉しそうにパタパタと尻尾を振っている。


「旦那様、おいらもお頭と一緒に帰るでヤンす。……おいらもたまに、遊びに来てもいいでヤンしょか?」

「あぁ、もちろん。いつでも歓迎するよ。子供達と一緒に、遊びにおいで」

「あい!」


 こちらにお邪魔していたのは短期間だと言うのに、すっかり竜神様のお宅に馴染んだらしいコンタローだが。お前、自分が悪魔なのを忘れてない? とは言え……この子は見た目も無害なら、中身もほぼ無害だからなぁ。そこは俺が気にする必要もないか。

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