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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−25 ペテン紛いの言い分

 君の存在丸ごとを「理想の女性」にしてくれれば、残りの人生は保証してあげる。

 ……そんなペテン紛いの言い分で、ぺラルゴさんは数多のレディ達に言い寄っては、被害者を増産しちまったらしい。もちろん実際に成功さえすれば、こいつにも約束を違えるつもりはなかったんだろう。問題は、相手を丸ごと作り替える所業の成功率が低かった……という事に尽きる。

 しかし、それ以上に問題だったのはぺラルゴさんの卑怯者加減の方だ。彼の話によると、彼女達の改造が成功したら、自分も同じように顔を理想に近づけるつもりだったらしい。本当は最初から“お顔丸ごと”でしでかすことも想定していたそうだが。失敗のリスクは高いわ、鼻の作り替えだけでもかなりの痛みがあったわで……まずは他の方の成功例を見てから、判断しようとなったそうな。……さっきまでの根拠のない自信は、そんな「完璧な自分(見た目だけ)」が出来上がってからの副産物を、前倒して塗ったくっていただけっぽい。


「お前さんは……本当に救いようのない、大馬鹿野郎だな。そんなんだったら、最初は自分から試せば良かったじゃねーか。それなのに、まずは他の奴で試して、成功したら乗っかりましょうだなんて……卑怯者以前に、人間として終わってる。そんなんだから、魔界に呼ばれたんだろーよ。悪魔の俺が言えたことでもないが、誰かから何かを奪うことも、誰かを殺すことも褒められたもんじゃない。いや……真っ当に生きていこうとするんなら、どっちも絶対にやっちゃならん事だ」


 だけど、言い方は相当に良くないが……誰かを殺した程度では、魔界に迷い込むことはまずまず、ないと言っていい。そりゃ、100人単位で殺しまくりましたってなりゃ、別枠での措置も発生するかも知れないが。大虐殺をやらかすのは、悪魔だって昔から相場は決まっているもんで。……そんな悪魔的なやらかし加減を発揮した奴でもない限り、殺人程度では魔界に生身のまんま落ちてくる奴はいない。


「悪魔にそんな事を言われる筋合いはないぞ! それはともかく、助けてくれるのか? 話を聞いたからには、助けてくれるんだよな⁉︎」

「いけしゃぁしゃぁと……よくもまぁ、偉そうな口を叩けたもんだ。ある意味、感服するよ……その愚かさにゃ。いいか? そんな現実がある中で、お前さんはこんな所まで堕ちてきやがった。別に人間界に戻してやるくらいは構わないが……お前がやらかした事は俺でさえ、救いがないと思うレベルなもんで。果たして、お前さんの罪状は……人間さんの感覚的にはセーフになるのかな?」

「そ、それは……」

「……きっと、向こうでもお前は捕まりそうになったんだろうな。だけど、自分がやった事に対して罰を背負うこともなく、償うこともせず、罪悪感も真っ当さも捨てて逃げてきた。だから、見っともない間抜け面をこんな所で晒している。……どこまでも逃げ続ける覚悟があるんなら、戻してやってもいい。だが、そこから先の面倒を見てやるつもりはないぞ」

「うぐっ……だ、だけど……。これも何かの縁だろう? 魔界の大物ともなれば、私を逃がして助けるくらい……簡単にできるんじゃないか?」

「確かに、俺にしてみれば助けてやるのも、守ってやるのも造作もない。人間としての一生を保証してやることも、できるだろう」

「じゃ、じゃぁ……!」

「だが、それはそこまでする程の価値がお前さんにあれば、の話だけどな。……さっきも言ったろ? お前さんは自分で思っている程、素敵な人間じゃないって。魔界の真祖相手に交渉する立場もなければ、対価もない。正直なところ、こうしていられるだけで迷惑だし……トットと失せろ、が本音だ。場違いな思い上がりも、程々にしておけ!」


 人間界に戻してやるだけでも、悪魔的には相当に譲歩した提案だと思うけどな。世界の中心が自分だと思っているのか、ぺラルゴさんは甘々な希望的観測で俺が助けてやるばかりか、その先の人生までフォローするもんだと思っていやがる。本当に……色々と天晴れな奴だよ、あんた。


「ひゃっ……!」

「パパが怒ってるです……!」

「あ、あのぅ……そこのヒト、これ以上はやめた方がいいと思うです!」

「えっ……」

「パパは魔界で1番強い悪魔でしゅ。昔、大きな国を一晩で壊したこともあるでしゅよ!」

「そ、そうなの?」


 牙を引っ張り出して、久しぶりにちょっと怒ってみましたよ、っと。そうして、ついでに怖がらせちまったクソガキ共からも真祖様のディテールを説明されて……ようやく、ぺラルゴさんも俺がどんな存在かを理解したらしい。遅すぎるにも程がある怯えたお顔に、震えが止まらないボディを見るに……無事に身の程を思い知ったみたいだな。

 しかし、ここまでしないと分かってもらえない時点で、俺は悪魔として終わっている気がすんなー……。こんな奴にまでナメられるのは、見た目が若いせいなんだろうか?


「……まぁ、いい。お前には、生かしてやる価値も理由もないが。使い道はありそうだな。同じルルシアナを名乗ってるんだ。お前、ドン・ホーテンは当然、知ってるよな?」

「知っています……と言うか、私はホーテンの甥でして……」

「あ? そうだったの? ……じゃぁ、なんでお前さんはご隠居さんのお屋敷にいないんだよ?」

「そ、それは……その」


 まぁ、理由は聞かずもがな……だろうな。ホーテンさんはマフィアではあるが、相当にスジの通った人間でもあるらしい。まぁ、あのジャーノンが甲斐甲斐しく世話を焼いているのを見ていても、曲がった奴ではなさそうだと思っていたけど。……一方の甥っ子は一事が万事、この調子だ。多分、ホーテンさんの方は身内としての愛想を尽かしているんだろう。


「実はな。ホーテンさんの身辺について、ジャーノン……も、知ってるよな? そいつからお願いがあったとかで、俺はそのうちカーヴェラに行かなければならないんだけど」

「あの、すみません……」

「なんだ?」

「その……どうして、最強の悪魔様がジャーノンのお願いを聞くのですか?」

「別に、大した理由はないけど……ちょいとこっち絡みの案件だったから、だろうな」


 簡潔的にそんなことを言ってみるものの。ジャーノンの名前を出した時に、ぺラルゴの眉がピクッと跳ねたのにも気づいて……やれやれとため息をつく。とりあえず、今はこいつのちっぽけなライバル心を気にしている場合じゃないか。


「で、さっき……お前さんの口から、俺が出張る理由になったビルさんの名前が出たもんだから。お前が知っている限りでいい。ビルさんとヨフィとやらの情報を、ありったけ寄越せ」

「……い、いいですけど……その」

「言っておくが、今のお前には拒否権はないぞ。……従わないのなら、危ないエリアに落っことすまでだ」

「いや、そうではなくて。情報を提供すれば、助けてくれるのでしょうか?」

「助ける……と言うよりは、ホーテンさんの所についでに送り届けてやる、が正しいかな」

「そっ、それだけは、ご勘弁を!」

「……あ?」


 魔界に来ても妙に態度だけはデカくて、太々しさが抜けなかったクセに……ホーテンさんの名前出した途端、この世の終わりみたいな顔で慌て出したんですけど。え〜と、何か? ……こいつ、ホーテンさんに何かされたのか……?

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