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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−17 悪魔達のヒトとナリ

「空が青くなったと、噂には聞いていたが。それ以上に、空気も違う気がする……リッテル。ここは本当に、魔界なんだよな……?」

「ふふ。そうですよね。以前の状況をご存知であれば……ルシエル様が驚かれるのも、無理はないと思います。でも、ここは紛れもなく魔界ですよ?」


 なんだか嬉しそうに、私の問いにリッテルが答えてくれる。しかし……頭上に広がる快晴に負けないくらいに、晴れやかな笑顔を見せられると、ここが泣く子も黙る魔界だという実感が尚も湧かないのは……流石に失礼だろうか。


(今はそんな事に気を取られている場合じゃないか……。まずは……)


 ダンタリオンに知恵を借りる前に、親玉にもご了承をいただいておくのが、スジと言うもの。そうして今日は天使長室から、そのまま魔界にお邪魔しているが。こちらはまだ昼間だからだろう、ものの見事に青に変わった魔界の空を見上げては、やっぱり首を傾げずにはいられない。


「凄いです! ここがあの魔界なんですね!」

「あ、あぁ……。それは間違いないんだが……」

「しかも、これから憧れのマモン様にお会いできるんですよね!」

「憧れのマモン……? いや、確かにこれから会いに行くのは、マモン……強欲の真祖だけれども。彼は決して、そこまで気安い相手ではないよ。……もう少し、緊張感と敬意を持つように」

「えぇ〜⁉︎」


 お留守番(資料整理)だけでは退屈だろうと、息抜きがてら新人のジュエルとアリエルも連れてきてみたものの。彼女達の興奮加減に、やっぱり不安が残る。いつから、強欲の大悪魔様は「憧れのマモン」等と、チヤホヤされるようになったのだろう。しかも、確実にヤキモキするであろう局面に……リッテルはどこか得意げな顔をしているのだから、なんだか頭が上がらない。私だったら、ハーヴェンが「憧れ」だなんて言われて、他の天使に有り難がられたら……それだけで、面白くない気分になるだろうに。


「……リッテル。とにかく、マモンに会わせてもらってもいいかな?」

「もちろんです。……今日は絵を描いていると聞きましたし、家にいると思います」

「絵を描いている……あぁ、そうか。そう言えば、そんな話も聞いていたな……」


 ギノのオーダー品を寄越すついでに、ハーヴェンが聞いた話によれば。あの真祖様はスケッチブックを抱えては、せっせと新しい趣味を開拓しているのだそうな。それにしても……マモンは頼りになる以前に、必要以上に器用過ぎる気がする。


(いや、違うか……。器用なのはマモンだけじゃなくて、ハーヴェンもベルゼブブも……悪魔は皆、器用だとするべきか)


 私が1人で、悪魔達のヒトとナリに思いを馳せていると。ウキウキと当然のように、私達を招き入れてくれるリッテル。そして、私よりも先に意気揚々と真祖様の屋敷にお邪魔する、部下2名。……ま、まぁ……今のマモンは相当に協力的だし、話の風通しもいい相手なので怒られないとは思うが。……あまり失礼な真似はしないでほしい、が調和部門の一応の長としての希望だったりする。


「ただいま……あなた、ちょっといい?」

「あ? 随分と早かったな? しかし、ルシエルちゃんも一緒となると……何か? まーた、厄介事か?」


 開口一発「また厄介事」と言われてしまうと、申し訳なさも一杯な上に、身が縮む思いがする。それでも、当の真祖様はぶっきらぼうな口ぶりの割に、そこまで本格的に迷惑がっている訳でもないらしい。まずはコーヒーでもいかがと、甲斐甲斐しくおもてなしの準備し始めた。


「わぁぁぁ……! これが噂のマモン様ハウス!」

「す、すごい……! 本当にどこもかしこも真っ黒なんですね!」

「そうなの。私はもう少し、明るい感じにしたいのだけど……もぅ! どうしても、黒じゃないとダメなのですって」


 カーテンをフリフリにし損ねたらしいリッテルが、ここぞとばかりに頬を膨らませるが。個人的には変にカラフルなのよりは、この方が断然いいと思ったりする。今は相当に悪趣味加減が緩和されたと、聞き及んでいるが。かつてのベルゼブブの屋敷に比べたら、マモンの屋敷は暗い雰囲気の中にもしっかりと統一感もあって、それなりに落ち着く空間だろう。


「……ここの家主は俺だ。また勝手にカーテンフリフリにしたら、キッチリお仕置きもキメるからな」

「まぁ! グリちゃんは相変わらず、頑固なのですから。うふふ、分かっています。あなたの真っ黒なお部屋は譲れないポイントですものね。心配しなくても、ここに関しては諦めましたから」

「ここに関しては、って言い方が妙〜に引っかかるが。まぁ、いいか。……ほれ、お前ら。ママの上司と同僚さんにしっかり、挨拶しておけ。いつまでもビビってんじゃねーよ」

「ゔっ、だって……」

「パパぁ……ルシエル様ですよ? あの凶悪な……」

「だ〜かぁら〜……ルシエルちゃん相手にそれはヤメロって、言ったろうに……。そんな事を言ったら、それこそお仕置きされっぞ? お前ら、痛い目に遭いたいのか?」

「でしゅけどぉ……怖いものは、怖いでしゅ」


 ……お邪魔した瞬間から、小悪魔達が大人し過ぎるのが気にはなっていたが。やっぱり、まだ私の「凶悪なイメージ」は払拭できていないらしい。揃いも揃って、マモンの取りなしに「イヤです〜」と言いつつ、怯えて涙目になられると……却って、傷つくんだよ。いくら、凶暴なのを自覚している私でも。

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